(今回は、久々に六代目・シス皇亭パルパティン師匠のご登場頂きます)
―どうも、シス皇亭パルパティンでございます。
スーパースターと言えば、この所はやはりメジャーリーグの大谷翔平選手という事になるのでしょうが‥‥‥。
最近、いらないケチがついてしまいましたね。まぁその辺もすっ飛ばしてしまうような活躍を期待いたしましょう。
スポーツ選手の他に、悪者を倒すアニメや戦隊モノなんかのヒーローにも、子供たちは憧れるモノでございます。
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―まだ、日の出から間もない時間の事でございます。
早起きのご隠居が、何とはなしに庭に出てみますと、休みの日はいつも昼時まで寝ている熊五郎が駆け足でやって参りました。
『熊さん、今日はバカに早いじゃないか』
「ご隠居、おはようございます。身体を鍛えようと思いまして、ジョギングを始めたんです」
『そいつはいい心がけだね。しかも早起きして鍛錬だなんて、たいしたものじゃないか』
「いえ、実は子供の頃に憧れてたヒーローになろうと思いまして―」
『ヒーローだって!?』
「ええ、強気をくじき弱気を助ける"正義の味方”ですよ」
―えっへんとばかりに胸を反らせる熊五郎に、『相変わらず、真っ直ぐ過ぎる思考回路だねぇ』と呆れるご隠居でございますが―。
「ご隠居だって、小さい頃は"ごっこ遊び”とかしたでしょ、《遠山の金さん》とか《暴れん坊将軍》とか―」
『なんで私のヒーローは時代劇限定なんですか』
「だって、そういうのを"かわら版(江戸時代の新聞です)”で読んでたんでしょう?」
―熊五郎の軽口に『馬鹿を言うんじゃありません。これでも昭和生まれですよ』と返したご隠居―。
それでもやっぱり古い人間ですから、往年の単純明快なヒーローを思い出してしまうんです。
『昔のアメリカンヒーローなんか良かったですねぇ、わかりやすくて』
「へぇー、どんな風です」
『そりゃ勿論、強くて格好良くて女性にはモテモテで‥‥‥。けれど何より肝心なのが、"倒した相手にも手を差し伸べる"事なんです』
「おお! それから肩を組んで"共に困難に立ち向かおう”って訳ですね、確かに完全無欠のヒーローだ」
―それに比べますと、このところアメリカ発のヒーロー映画でもご隠居には理解出来ないモノが多くなってきました。
『‥‥‥最近はヒーローにも色々あるみたいじゃないか』
「どう言う意味ですかい?」
『ただ強くて格好良いだけじゃなく、どこか陰があるとか元悪役とか‥‥‥"ダークヒーロー”とか"アンチヒーロー”とか言うんだろう?』
「ああ、最近はそういうのがウケてるみたいですね。でも、ご隠居の時代にもあったでしょう? 《必殺仕事人》とか―」
『どうしても、時代劇にしたいんだね、まったく―』
―ふと、熊五郎はアメリカ映画の事ばかり言うご隠居に対抗したくなって、言うんです。
「日本にだって最高のヒーローがいるじゃないですか」
『誰の事だい?』
「アンパンマンですよ」
『‥‥‥なるほど! 確かにその通りだね。東日本大震災の時、被災地のラジオ局に《アンパンマン》のリクエストが殺到したと聞いたことがあるよ。』
―悲しいニュースや"不安いっぱいの数値”ばかりが放送されるなか、聞こえてきた《アンパンマンのマーチ》
子供たちは、束の間笑顔を取り戻したそうでございます。
「そうです、彼はお腹を空かせた人に自分の顔をちぎって与えるんですよ」
『慈愛のヒーローだね。熊さんもアンパンマンを目指したら良いじゃないか』
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―朝方、そんなこんながございました。
そして、お昼時の事―。
ご隠居がササッとご飯を食べ終えた頃、またもや熊五郎が物凄い勢いで駆けてきたんでございます。
『なんだい熊さん、まだジョギングしてるのかい?』
「そうじゃないんです、ご隠居。大変なんです!」
『どうしたんだい?』
「さっきニュース速報が入ったんですけど、ジャムおじさんの工房が営業停止を喰らったんですよ」
『何、食中毒だって!? そんな馬鹿な‥‥‥』
「いえね、この前の映画の最後でアンパンマンとバイキンマンが協力して戦ったみたいなんです」
『よくある展開だね。"映画版だけ格好いいドラえもんのジャイアン”みたいなもんだ』
「そうなんです。そこで最後に二人は固い握手を交わして―」
『おお! それでこそ完全無欠のヒーローってもんじゃないか』
「そうなんですけど、その後がいけなかったんです」
『何があったんだい?』
「そのまま、お腹を空かせた子供たちに―」
「‥‥‥"僕の顔をお食べ”って」
『!?』
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外出した際には、うがい手洗いをお忘れなく
注:アンパンマンとバイキンマンの握手の話は創作ですが、実際の映画でも"新しい顔をバイキンマンが投げて助ける”という場面はあったみたいです