月曜日に、ちょっとした買い物がありまして―、
仕事終わりに文房具店へ行きました。
お目当てのモノを手にし、その足で同じ建物内にある行きつけの書店へ―。
ふと見れば、私の大好きな作品が平積みされている‥‥‥ん!?
帯に《追悼》の文字が―。
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‥‥‥‥‥‥‥知らなかった。
2023年11月7日に酒見賢一先生が鬼籍に入られておりました。
59歳‥‥‥お若すぎます。
私は全ての著作を読んでいるわけではありません。
でも、読んだ作品はどれも素晴らしかった。
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『後宮小説』と『墨攻』はレビューも書きました。
漫画化された(たぶん映画にもなっているはず)『墨攻』に、
最初の1行目で―、
「また一人、天才に出会った!」
と思った『後宮小説』
(ちなみに読み終えた後も「天才だ!!」と思いました)
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そして、日本人が大好きな劉備や諸葛孔明を、けちょんけちょんに書いてくれた『泣き虫弱虫諸葛孔明』
こちらもレビューを書きました。
‥‥‥ただ、元が三国志ですから、ザックリ書くしかありませんでした(そこそこ長いんでね)。
この作品にはところどころにぶっ飛んだ描写(主に張飛や趙雲)がありますが、それこそ"三国志演義”の世界を素直に表現した(笑)のだと言えます。
何より―
結局孔明は戦火に油を注ぎこそすれ、平和を実現することはなかった。また戦に勝ったことなど数えるほどしかなく、何故この男が稀代の軍略家と讃(たた)えられるのかさっぱりわからない。
こちらは第一部冒頭の、酒見先生の独白めいた記述でございます。
これには私も激しく同意、からの狂喜乱舞でした。
私も"諸葛孔明=天才軍師”というイメージに常々疑問を持っていました。
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本当に優れた軍師というのは、両軍が戦場で対峙した段階で、"既に勝負がついている”様な事をする人です。それはつまる所―、
相手に倍するくらいの兵を揃える事。
これが"正攻法”でございます。
圧倒的な兵力でもって包囲殲滅作戦を取れば、戦いは早期に決着します。それは結果的に双方の犠牲も少なくすむという事―。
その為に軍略家は賄賂や恫喝という"政治力”でもって、同盟等を含めた自軍の勢力を増強するのです。
逆に相手方には"政治力”でもって揺さぶりをかけたり、援軍の進路を物理的に妨げたりして弱体化を図るのです。
これが真の"天才軍師”だと思うのです。
逆に、明らかな劣勢の中で―
「私に秘策がございます」
なんて事を言われても、そんな博打みたいな作戦に投入される兵隊さんは浮かばれません。
とにかくそんな視点で描かれた『三国志』でございますから―
ハイライトの一つである"赤壁”の場面も‥‥‥。
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そして、この『陋巷に在り』は、孔子の一番弟子・顔回(ガンカイ)を主人公にしたシリーズでございます。
レビューは書いておりませんが、間違いなく酒見先生の代表作の一つだと思っております。
春秋戦国時代の魯(ろ)の国を舞台に、顔氏一族の生業(なりわい)であった《儒》を、《儒教》に押し上げた孔子とその弟子達の戦いを綴ったものです。
これが―、
良くも悪くも雰囲気のある作品でして―その為、万人受けはしないと思いますが―とっても深みのある作品です。
さらに、文庫版の表紙は漫画家の諸星大二郎先生が担当されております。
諸星大二郎先生は、伝奇ホラーの草分けと言っても良い方で、そのものズバリ『孔子暗黒伝』という作品も描かれております。
(画像でも伝わるかと思いますが、その個性的なタッチはまさに唯一無二の存在でございます)
この事は酒見先生も大変喜ばれておりました。
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月曜日は、たまたま4月1日だったのですが、心の底から
『嘘であってくれ!!』
と思いました。
‥‥‥もっと、もっと、酒見賢一先生の奇想天外な作品を読みたかった。
遅ればせながら、心よりご冥福をお祈りいたします。