第153回直木賞ノミネート作品でございます。

 

「若冲」

澤田瞳子著 文春文庫

(385頁)

 

 

 他に親鸞賞と歴史時代作家クラブ賞作品賞を受賞されております。

 ちなみに読後に私の脳裏に真っ先に浮かんだのは―、

 

『これ、直木賞取れんかったの?』

 

 でした。

 

 そのくらい私には面白かったです。

 それで、よせばいいのにネットで第153回直木賞の講評を見ちゃいまして―

 

 大半の選考委員さんがこの作品に関して厳しめの事を仰ってましたゲッソリ

(宮部みゆき先生と宮城谷昌光先生はベタ褒めでした)

 

 確かに「主人公に魅力が無い」とか「もうちょっとあの辺を‥‥‥」というのは、いちいち思い当たるんです。それでも―

 

 私にはメチャクチャ面白かったです真顔

 

 ※

 

 若冲は、元々枡屋(マスヤ)という青物問屋(今でいう大型スーパーみたいなモノですかねぇ)の主でした。

 

 この枡屋は近隣の農家の生活を左右するくらいの大店なんです。

 

 しかし、当の若冲に絵以外の事に興味が無く、他の全てを投げ出したせいで妻が自死してしまいます。

 それから、ガッツリ引きこもりとなった若冲は、妻への気持ちをその奇矯な絵の中に込めるのです。

 

 物語の大半は、若冲を生涯支える腹違いの妹・志乃(シノ)の視点で進んで参ります。

 同時代の京で活躍した円山応挙与謝蕪村等の有名人も多数登場しているのですが、それ以外の画家となりますと、私には誰が実在で誰が架空のなのかとんとわかりませんでした真顔

 

 今回は8章からなる若冲の半生の中から『つくも神』をちょっぴり―。

 

 ※※※※

 

 弟達に枡屋を任せて隠居した若冲―。

 ある時、御所の役人から仕事の依頼が舞い込みます。何でも「とある寺に寄進する為の屏風を描いて欲しい」というモノでしたが―

 

 元々、御所お抱えの土佐派などではなく、市井の画家(=フリーランス)である若冲に持ってくる時点で、やんごとない案件ではない事がわかります。さらに、寄進する寺というも、皇室にさほど関わりがあるようにも思えません。

 

『申し訳ないが、今仕事がぎっしり詰まってるので‥‥‥』

 

 代わりに円山応挙の名前を挙げた若冲―。

 大きな工房を構え、多数の腕の良い弟子を抱えている彼の所なら多少急ぎの案件でも可能だと考えたのです。

 

しかし、「あの手合いの画風なら御所にもギョウサン出入りしてます。もっと違うタッチがええんどす」みたいな感じになりまして―。

 

 ―とにかく、精緻に美しい絵を描く応挙の作品は、本人の人品もあって大人気でした。それが御所の役人のいう"あの手合い”でございます。

 

 若冲の絵は、確かにそれらとは違います。美しくないモノも精緻に描くその作風は、万人受けはしませんが刺さる人にはぶっ刺さるんですよニヒヒ

 

「ほなら、やっぱり市川君圭(イチカワクンケイ)先生にしまひょか」

 

 ついと出てきたその名前に若冲は驚愕するのです。

 

 

 

 この君圭という絵師は、何故か若冲の贋作を好んで描く男真顔

 

 以前、その作品を見た若冲自身もその技術には舌を巻きました。彼のように画材にお金をかけられない分見劣りしますが、それ以外はほぼ見分けがつかないのです。

 

 市川君圭、その正体は若冲の義弟である弁蔵(ベンゾウ)という男―。

 彼は自分の姉(若冲の妻)の自死の原因である若冲を恨んでいるのです。

 

 妻への贖罪の気持ちが若冲の画風の根幹でした。そして君圭こと弁蔵の贋作の裏には若冲への憎しみが‥‥‥。

 

 ―このイタチゴッコのような二人の画業がこの物語の一つの軸なんです。

 

 若冲『お前にコレが描けるか!』と腕を振るい、『それならコレでどうだ!』みたいに筆を走らせ、そして『ここまでは描けんだろ!』と息巻く。

 

 互いが負の連鎖によって切磋琢磨したとも言えますウインク

(なお、作中に弁蔵は殆ど出てきません)

 

 それから物語は急展開しまして―。

 

 若冲の実家である枡屋が危機に陥ります。

 

 なんと他所の商店街から、枡屋どころか錦高倉市場という街ぐるみで奉行所へ訴えられてしまったのです。

 

 ※

 

 訴状の内容は、錦高倉市場が無免許で商いをしているというモノ。

 

 実は錦高倉市場は前の火事で免状を紛失しており、そこを突かれたのです。

 

 訴えたのは五条問屋町で、中心人物は禁裏御用(宮中出入り)をも務める明石屋半次郎という男―。

 

 そして、この半次郎の所へは、若冲の妹・志乃が嫁いでいましたゲッソリ

 

 志乃の縁談をまとめた若冲の弟(=枡屋)は、事の次第にショックを受け、町役人の寄り合いにすら出てきません。

 

 そこで、京の都でも指折りの絵師で、多くの神社仏閣を顧客に持つ若冲に白羽の矢が立ったのです。

 若冲は画業以外の事に関わりたくないありません。しかし妹・志乃の事でもありますし、何より実家である枡屋が傾いては自身も安穏と暮らしていられません。

 

 錦高倉市場の命運を掛け、若冲は絵筆を置いて奔走するのです‥‥‥。

 

 ※※※※

 

 このお話には大阪の勘定方に務める"切れ者が”登場し、仕事の合間に若冲らを助けてくれるのですが‥‥‥

 

 そこがとにかく上手いニヒヒ

 ※

 ※

 ※

 作中を通して若冲はどこか空虚な感じで―、

 

 確かに感情移入はしづらかったです真顔

 

 ですが、その分(?)ドラマそのものを、俯瞰すように堪能出来た気がします。