後編となる今回は、舞台と登場人物をご紹介―。
「二百十番館にようこそ」
加納朋子著 文春文庫
(343頁)
"ES(エンドレス・ストーリー)”というネットゲームを軸に、とある離島で共同生活をする面々―。
主人公・刹那(セツナ)は、就職活動に失敗し、そのままネットの世界にドロップアウトしてしまった30手前のニート―。
(刹那というのはハンドルネームです)
彼は、両親の策略によって急死した伯父の残した不動産のある離島へ転居させられます。
※
まずはこの島について―、
1番の若手が50代という、地方高齢化社会のモデルのような場所でございます
コンビニもありませんし、遊ぶ所だってありません(釣りは出来ます)。ただし、すぐ近くに母島と呼ばれている島がありまして、そこは観光地としてそれなりにやっていけています。
この母島とは定期便(船)で結ばれていますが、干潮時だけ陸続きになり歩いて渡る事が出来ます。
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伯父が残した不動産とは、生前経営していた会社の保養所でして―。
刹那はその空き部屋を活用しようと、入居者を募集したんです‥‥‥そう、自分と同じようなニート狙いで
そこへやってきた面々がこんな具合です。
ヒロ
T大学卒。コミュニケーション能力に問題がありニートに‥‥‥。母親からの干渉が激しかったせいかマザコンでもあります。
そんな彼を連れて来た母親いわく―。
「先に死ぬ身として、ヒロくんのこのままにしておけない」
―なお、姉の結婚に際し「弟がT大卒のニートである」と言う点がネックになったという事情もあるようで‥‥‥。
BJ
元々ES内で刹那と交流のあった人物―。産婦人科の医師なのですが、過去に訴訟を起こされかけ、現在は自主廃業―。
人の嫌がる事を率先して引き受ける好人物で、ES内でも人気のない斧使いというキャラクターを使用しています。
彼の人生に影を落としている"訴訟沙汰”というのも、かなり危険な状態で運ばれてきた妊婦を引き受け、その結果‥‥‥というモノ。
―この時の父親が無責任の大バカ野郎なんです
サトシ
所属していたアーチェリー部で、ちょっとした騒動を起こした青年。ゴリゴリのマッチョで、自己愛の強い性格
―彼のやらかした"騒動”というのが女性絡みでして―。
まぁ、純粋さが余っての逆恨みというヤツなんです。
なお―、
彼は、ES内と同じく、ガチの弓使い
そんな彼がSNSに書き込んだ不穏な内容に、両親が「とにかく若い女性のいない環境へ」と思い至ったのです
―実はこのサトシが移住する経緯には、刹那が島の新たな簡易郵便局長になるという案件が絡んでおりまして―。
必要な資金等を両親から引き出すのと引き替えに、仲介役の弁護士から提示されたモノだったんです(サトシの親が弁護士の顧客でした)。
他に、ES内では刹那と同様に古参であるラクダやカインというプレイヤーがいます。
吟遊詩人という面倒臭いキャラを使用しているラクダは、当初は1日中プレイしていましたが、現在は夜間のみ参加しています(ちゃんと就職したんですね)。
そして槍使いのカインは、いわゆる陽キャのリア充。現実世界でもきちんと人間関係を構築している彼は、あくまでレジャーとして島へやって来ます
※
その後、ES内で"ある事件”が起きます。
なんとヒロが、タピオカ113というプレイヤーの美少女キャラに真剣に恋をしてしまうんです。彼は、ネットにも女性にも免疫がありません
刹那やBJは、その"らしい”ハンドルネームやチャットでのわざとらしい言葉使いからタピオカ113の正体は男であろうと予想します。
―いわゆるネカマ(ネット内のオカマ)ってヤツです。
‥‥‥私は違いますよ、モンハンではPerfumeさんに寄せているだけです。
(あと、昔のモンハンはとにかく見た目の男女差別が酷かったんです)
実際に会いたいと打診したヒロに「私は重い病気で近々入院しなければならないから」と断ったタピオカ113―。少しして彼女(?)のキャラクターは一切の活動を止めてしまいます
※
ES内では、たぶん様々な困難に向かっている刹那ですが、現実世界でもヒロの初恋等の面倒ごとや、資金繰りに奔走しています。そして自分や島の将来を考え、トラウマである"就職活動”にも立ち向かうんです。
そしてBJにも、大きな試練がやってきます。
台風が近付く危険な状況下に、母島からギリギリ徒歩で渡ってきた妊婦が危険な状態で発見されたんです。
海が荒れて船は出せませんし、島の診療所には手術に必要な道具はおろか、出産や手術に欠かせない看護師もいないんです。
刹那、ヒロ、サトシの奮闘で何とか医療材料は揃いました。一刻を争う状況の中で、BJの決断は―。
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加納朋子先生は、"日常の謎”を得意とされております。
本来、謎というのは日常とは相容れないんです。謎(ミステリー)って、すなわち"非日常”ですからね
加納先生は、その融合に卓越しておられまして―、
本作では、そこが実に秀逸でした。
非現実(ネットゲーム)という要素を使う事で、非日常たる"謎”が―、
そもそもどこにあったのかもわかりませんでした