加納朋子先生の真骨頂でございましたデレデレ

 

「二百十番館へようこそ」の前編

加納朋子著 文春文庫

(343頁)

 

 主人公は、何となく大学へ行き、そこから何となく就職し、そして何となく‥‥‥ってな感じで生きてゆけるのだと思っていました。しかし、肝心要の就活に失敗し続けて―。

 

 ポッキリ心が折れました真顔

 

 そんな彼が逃げ込んだのが《オンラインゲーム》の世界―。

 

 ―ここ最近でまた少し状況は変わっているのかもしれませんが、早い人は大学2年の頃から就活の準備を始めるそうですね。

 ですがボンヤリさんの主人公は、そういった流れに乗り送れました。付け焼き刃で駆け込んでも、数多の企業から書類の段階でダメを出されます。何とか面接まで漕ぎ着けても、人見知りの彼は面接官の"圧”に容易に負けてしまうんです。

 

 そうするうちに、彼は"ES(エンドレス・ストーリー)”というネットゲームにハマってしまいます。そのRPG(ロールプレイングゲーム)の中では、努力した分だけちゃんと成果が得られます。"ES”の最初期からプレイしている彼・刹那(セツナ:ハンドルネームは、ESの中ではちょっとした"顔”になっていきます(いつも昼間っから、ずーっとゲームしてますからね)。

 しかし現実の彼は、企業から拒否され続け自らの存在意義を見失っていくのです。

 

 その流れのままネットゲームにどっぷりの彼は、気が付けば30歳間近の立派な"自宅警備員(=ニート)”になっていました。

 

 ※※※※

 

 就職する事を諦めてゲームばかりしていた俺に、自分たちが定年退職した後はどうするつもりかと尋ねたら、「オヤジとオフクロは高収入だから年金も多いでしょ。俺一人くらい養えるって」とほざいたことに著(いちじる)しく失望したと書かれてあった。あまつさえ「オヤジとオフクロが死んだって、俺一人っ子だし、遺産とか保険金とかもらえるし。家もあるから最悪売ればいいし。それもなくなったら、生活保護あるしー」などと正気を疑う発言をしだすにおよび、これは親として、あえて突き放すべきだと痛感した。

 

 刹那がこの母からの手紙を読んだのは、病死した伯父(母の兄)から相続した不動産のある離島へ"追放”された後でした。

 

「物件の下見へ行っておいで」と送りだ出された刹那でしたが、そもそも両親は弁護士と相談して周到な計画を立てていたのです。

 

 彼がその小さな過疎の島に着いてみると、気のいいお爺さんから「引っ越し」という言葉を聞かされます。両親に問い合わせようにも、携帯が繋がりません。諸々の手続きの為に同行してきた弁護士から「両親は携帯も解約し、既に家も売って引っ越した」と告げられます。

 ※

 突然の新生活―。

 何はなくとも、ネット環境が必要な刹那は、その整備の為になけなしの資金の大半を使ってしまいます。

 

 ―なんせ彼のアイデンティティや人間関係は全て"ES”内にありますからね真顔

 

 後に《二百十番館》と名付けられる刹那の新住居は、会社を経営していた伯父が社員研修の為に作った元・保養所―。

 刹那は、その沢山ある空き部屋に入居者を募る事を思いつきます。

 

 島での生活は色々不便ではありますが、そもそも引きこもりでしたから大きな問題はありません。高齢の島民達はとっても優しく、刹那の面倒をあれこれみてくれます。ちょっとしたお手伝いをすれば食料その他を分けてくれますから、ただ生きていくだけなら何とかなりそうなんです。ですが税金等を考えれば、この先じり貧になるのは目に見えています。

 

 ―刹那が入居者募集を考えたのは家賃収入というより、漠然と"助けあって生きていく仲間”が欲しかったからなんです。そして、自分と同じような人間=ニートであれば、この島の環境にも文句を言わないはず‥‥‥。

 ※

 やって来た入居者第一号は、刹那と地元が同じヒロでした。彼はなんとあのT大学を卒業しているのですが、マザコン気味でコミュニケーション能力が皆無。その為、社会生活全般になじめませんでした。そんな刹那と似たり寄ったりのヒロを、母親が見限り(!?)島へ連れてきたのです。

 刹那は早速、ヒロに"ES”を教えます。最初は、ネットの常識すらままならないヒロでしたが、次第にそのゲーム世界にハマっていきます。

 

 それから、しばらくして同じ"ES”仲間であったBJが加わります。ハンドルネームのBJとは《ブラックジャック》の事で、なんと彼は医師免許持っている引きこもり―。

 島外の病院とリモートで繋がる診療施設しかないこの島にとって、BJさんの移住はとても有り難いことでした。しかし―、

 

 このBJさんの専門はなんと産婦人科真顔

 島には《二百十番館》の住人以外高齢者しかいません、まして若い女性なんて―。

 

『一応医師だから、内科とかも診れるんでしょ?』

「いや、もう専門外は無理だよ」

 

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 こんな感じで、ネットゲームと絶妙にリンクしながら、物語は進んでまいります。書き切れないので後編に続きます真顔