もしかしたら、貴方の身近でも起きるかもしれない。

 ‥‥‥いや、たぶん起きないニヒヒ

 

 そんなお話でございます。

(今回は完全な作り話でございます)

 

 ※※※※

 

 祐一はハンドルを握りながら会社に着く時刻をおおまかに計算をする。

 

(もう2時半か、片道1時間だからなぁ)

 

 今日は午前中に2件の得意先を回った後、午後からはとある客先で平身低頭してきた。

 クレームで呼び出しを受けたのだ。全てこちらが悪い訳ではないのだが、大口の顧客であるから、まずは平謝りする他ない。

   

 新卒で今の会社に就職してから7年。長引く不況の中、祐一はそこそこの営業成績を維持している。

 器用ではない事を自覚しているから、担当する顧客には務めて実直に対応してきた。今回祐一を呼びつけた担当者からも、何とか汚名返上のチャンスを貰った。だから今日は早めに会社へ戻り、必要な資料を揃え諸々準備をすることにした。見積もりの提出は早いに越したことはないし、別件でもデスクワークがだいぶ溜まっている。

 

 今、祐一が走っているのは、国道と併走している県道R号。山間部を通っているため、アップダウンもあるしカーブも多いが、交通量がそれほどでもない為、目的地まで早く着けたりもするのだ。

 無論、朝夕は地元の人なんかが通勤に使うからそれなりに混むし、遅い車もいる。しかし、今日は3時前という事もあってか特に空(す)いていた。先程から対向車もなければ、前後に車両の影もない。

 

(もしかして、出たりしないかな‥‥‥)

 

 この県道R号には、ある"都市伝説”があるのだ。

 今日のように自分以外の車が走っていない時、道路脇にある林だったり、田んぼのあぜ道だったりに不思議な人影が現れるのだ。

 その人影は、白い服の女性か全身黒ずくめの男性のどちらかで、だいたい、背を向けて立っている。その姿を見るだけでもかなりのレアケースなのだが、この"白と黒"が、稀に道路側を見ている事があるらしいのだ。

 その時、"白”の女性は幸運を、"黒”の男性の方は不幸を、それぞれ見た者にもたらすと言われている。

 

 特に"白”の幸運の方は「サマージャンボミニが当たった」とか、「課長に昇進した」とか‥‥‥割と具体的なエピソードが多い。

 

(宝くじも億の方じゃなくてミニの1000万っていうのが、妙にリアルなんだよな)

 反対に"黒”の方は、もう単純に追いかけて来るらしい。

 つまり、この場合の"不幸”とは「捕まるとヤバイ」という程度の話なのだが、そもそも"黒”から逃げ切った者の証言しかないのだから具体性は皆無だ。とにかく「"黒”の走るスピードは尋常ではない」らしく、「こっちは自動車だから」などと安心してはいけないらしい。

 

 先程まで登りだった道はしだいに平坦になってきた。この先はいくつか大きなカーブの後、小さな集落に出る。そこは、元々別な村だったのだが平成の大合併で隣の市とくっついた地区だ。

 相変わらず、他の車に出会わない。普段から昼間は空いている事が多いのだが、ここまで何にも遭遇しないのは祐一の記憶にない。ふと、脳裏に"白と黒"の事がよぎる。

 もしも本当に出会えるのなら勿論"白”の方に微笑みかけて貰いたい。ただし、幸運といっても、祐一は多くを望まない。非常な幸運という物は、何か別な不幸を伴ってくる気がするのだ。だから"ほんの少し”でいい、人生が上向く"キッカケ”程度でいいのだ。

  そこで祐一は、我に返り苦笑した。いつのまにかくだらない"都市伝説”に真剣になってしまっていた。

 集落を抜け下りになった道は、またカーブが続くようになる。ボンヤリしていはいけないと気を引き締めた時、前方のカーブで車の後部が見切れた。どうやら前を走っていた車に追いついてしまったらしい。

 

(はい、これで"白”も"黒”も出ません)

 

 残念なようなホッとしたような、どこか複雑な気持ちで祐一の車もそのカーブを曲がった。そうして確かに前方を走るプリウスを確認し、思わず息を飲んだ。

 プリウスの屋根の上に、女が居るのだ。足を崩したいわゆる"お姉さん座り”という体勢で、進行方向を向いている。

 

「おい、嘘だろ!?」 

 

 金色のセミロングに白いワンピース‥‥‥淡く光っているようにも見えるソレは、確かに県道R号の"白”に違いなかった。

 

(後編に続きます)