和菓子のアンの第2弾でございます。

 

「アンと青春」

坂木司著 光文社文庫

(369頁)

 

 今作は素直に面白かったですウインク

 

 デパ地下の和菓子店《みつ屋》でアルバイトをしている"アンちゃん”こと、梅本杏子(ウメモトキョウコ)の成長を追う連作短編集。

 

 一応、"日常の謎”というジャンルのミステリーになると思うのですが―、

 

 今作はその編の"謎解き要素”が低めな気がいたします。

 

 そこが個人的にはとても良かったウインク

 

 勿論、謎はあるんですが、その大半が読者がアレコレ考える類のモノではないんです。杏子と一緒に"和菓子や日本の伝統文化なんかを学ぶうちに正解に辿り着く”と言った感じなんです。

 ※

 和菓子の販売員という仕事や、デパ地下という環境、そして何よりとっても濃い《みつ屋》の面々にも慣れてきた杏子―。

 

 本作では、ある程度仕事がわかってきたからこそぶつかる"壁”や、社会人としての責任、そしてぎこちなく形成されつつある三角関係(笑)なんかが描かれています。

 

 今回は、最初のお話『空の春告鳥』をご紹介―。

 

 ※※※※

 

 1月の中旬、《みつ屋》がお休みの日のこと―、

 杏子母親に連れられ、とあるデパートへ出掛けました。母親のお目当ては"全国駅弁大会”で、それに付き合わされたのですが―。

 

 ―ちょっとポッチャリさんの杏子『これだからデブになる』と嘆いていますニヒヒ

 

 そこで杏子は同時に開催されていた"新春・和菓子フェア”をに足を向けます。

 いつも働いているのとは違うデパートで、さらに《みつ屋》と同じ和菓子となれば、否応もなく興味が湧いたのです。

 

 ―最近の杏子は、ご近所から「所詮、アルバイト」と見られることが嫌でなりません。彼女の中に、"《みつ屋》の一員としての責任感”みたいなモノが芽生えているのです。

 必然、他の和菓子店やまだ自分が知らないお菓子について、良い意味で前のめりなんですウインク

 ※

 "東京初出店”というお店をメインに"パトロール”を始めた杏子は、《金沢和菓子・柿一》というお店に目を留めます。

 

 そこでは、杏子より少し年上といった感じの店員が、緊張した面持ちで客に応対していました。その雰囲気に物凄く親近感を覚えた杏子は(笑)、その様子を暖かく見守っていました

 

 その時、やって来たお客が彼に小麦アレルギーについての質問をします。

 

(そんな質問されて大丈夫かなぁ)

 

 明らかに接客に慣れていない彼は、しどろもどろに―。

 

「こちらなら大丈夫かと―」

「違う、正解はこっちのお菓子だ」

 

 即座にハッキリ駄目を出したそのお客は、明らかに店員を試していましたゲッソリ

 

 悪意が透けるようなやり方に怒りを覚えた杏子でしたが、そのお客が去り際に放った言葉が気になりました。

 

「ったく、いつまでこんな飴細工の鳥を置いておくつもりなんだか」

 

(‥‥‥飴細工の鳥!?)

 

 その後、そこで季節のお菓子を買った杏子ですが、彼の他の不手際を目にしてしまい‥‥‥。

 

 ―愛想の良さだけは杏子も認める所なんですけどね‥‥‥。

 

 ※

 

 翌日の《みつ屋》で、杏子は早速店長の椿(ツバキ)はるかに件(くだん)の言葉

について尋ねます。

 しかし万事に有能な店長でも、"飴細工の鳥”についての心当たりはありませんでした。それならばと、同じく《みつ屋》の社員で菓子職人でもある立花早太郎(タチバナソウタロウ)にも問うてみるのですが―、

 

「少なくとも製菓用語ではありません」

 

 でも「‥‥‥どこかで聞いた事がある」という立花は、少しして―、

 

「自分が聞いたのは確か人形浄瑠璃の台詞たから、慣用句か何かでは?」

 

 ―ここで、補足を少々。

 

 この《みつ屋》の社員2名―。

 

 店長の椿は、美人&聡明かつ仕事も出来る、杏子の心強い味方です。しかし、そんな非の打ち所のない上司である彼女は、その内側に何故かオッサンの心を秘めています(笑)。

 

 そして立花は、そもそも和菓子の職人なのですが、師事していた職人から「色々と経験を積め」と言われ《みつ屋》の店頭に立っています。

 こちらも、杏子が隣を歩くのに引け目を感じるくらいのイケメンなのですが―、

 

 心が乙女ですデレデレ

(性的嗜好はノーマルなはず)

 

 椿杏子は、影でそのまま"乙女”と呼んでいますデレデレ

 

 ※

 

 "飴細工の鳥”というのは、確かに"中身のない”という意味で使われていた言葉でした。

 その流れで椿は、そのお客はそもそも店員と顔見知りだったのかもしれないと推理します。

「経験不足の店員に敢えて厳しい事を言ったのかのしれない」と―。

 

 ただ、そのやり取りの中で杏子はある思いに囚われます。

 

(中身がない‥‥‥それは私の事じゃないか)

 

 表面的な接客は出来ても、そもそも和菓子に対する知識は全て受け売り―。それをお客さんにそのまま喋り、包装し愛想良く送り出す。

 

 どんなに"《みつ屋》の一員”を気取っても、やはりアルバイトでしかない"空っぽ”の自分―。

 

 ※※※※

 

 ちなみに、皆さんが想像する飴細工って"空っぽ”のイメージありませんよね。

 

 その謎は、杏子"乙女”に誘われ訪れる、中華街で判明しますウインク