読みやすいけれど、捻りもありました。
「純喫茶パオーン」
椰月美智子著 ハルキ文庫
(216頁)
タイトルの”パオーン”に惹かれて手に取りました。
純喫茶パオーンは小田原市に実際に存在するお店がモデルとなっているようです。
主人公・来人(ライト)は、この喫茶店を切り盛りする老夫婦の孫です。
近所に住んでいる彼は、幼なじみの圭一郎(ケイイチロウ)や琉生(リュウセイ)とよくお店に顔を出していました。
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『ライヤーミラー』
『あまのじゃくだな、のっぺらぼう』
『パオーンは永遠に』
本作は以上の3つのお話が収録されておりまして、それぞれ小学5年生、中学1年生、大学1年生という風に時間が経過していきます。
概ね、圭一郎や琉生が軸になっておりまして、”らしいメニュー”以外に喫茶店感は薄めです。
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著者の椰月美智子先生のお名前は存じ上げなかったのですが、児童文学でデビューされたようで、本作も平易で取っつきやすい文章でございます。
※
純喫茶パオーンの看板メニューは《特性ミルクセーキ》と《魔法のナポリタン》で、祖母が厨房を担当し、祖父が接客/レジ打ちと飲み物を担当しています。
これらのメニューの他、オムライスなんかの描写はとても美味しそうで、飯テロ要素もあるのかなぁと思います。
基本的には孫と祖父母の対話がメインになっておりまして、特に適当な方言を織り交ぜる祖父とのやり取りは軽妙でテンポも良いです。
ただ、この祖父が非常に懐深く描かれている分、他の登場人物が総じて薄い気がするんです。特にペラペラ感が顕著なのが来人の両親―。
まぁ元々、お話全体が軽めのテイストなのでそれでも良いのかなぁとも思います。
※※※※
「らーいとっ」
肩を叩かれ振り向くと、ゆりちゃんが立っていた。ゆりちゃんはぼくんちの近くに住んでいる高校生だ。小さい頃からよく遊んでくれた。
おじいちゃんとおばあちゃんはパオーンの二階に住んでいて、ぼくの家はここから十五分ほど歩いたところにある。
「部活の帰りなんだ―」
そう言って、ぴかぴかの笑顔をみせる。ゆりちゃんはバレー部だ。百七十五センチの長身、耳を出したショートヘア。
「今日は友達も一緒」
ゆりちゃんは二人の友達を紹介してくれた。同じバレー部だそうだけれど、運動部っぽくない二人だった。
(中略)
「ナポリタンにしよっと」
ゆりちゃんが言い、他の二人は、今日のランチのポークソテーを頼んだ。三人は席に座るなり、顔を突き合わせてたのしそうにおしゃべりをはじめた。
以上は『ライヤーミラー』の中のエピソードです。
この後、賑やかな高校生3人組は、お約束の”誰それの好きな人”の話になるのですが―
「ゆりちゃんは男子バレー部主将○○さんよね?」
「ち、違うよ―」
「ほんとっ!?」
「ゆりちゃん、顔真っ赤じゃん」
「違うって―」
この流れは、友達の片方が「実は私、○○先輩から告白されちゃって―」に繋がる
まさに王道のパターン―。
突然やって来た恋の終焉に、涙を流すゆりちゃん―。
その後、『ゆりちゃんは告白しなくていいの?』と尋ねた来人への答えは―
「何言ってるの僕が告白したら○○先輩困っちゃうじゃない」
このゆりちゃん、本名は由利斗(ユリト)君なんです。
※
本書は所々、こんな小技も仕掛けてきます
ただ―、
“男子バレー部の175㎝を長身”としている点や、“耳を出したショートヘア”という描写の“寄せ方”が荒い気はします。
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帯には―
”店主の孫の「ぼく」が見た、どこかとぼけて愛らしい温かな日々と少しの謎”
とあります。
まぁ、その通りかなぁと思います。
軽食感覚で手軽に読める物語でした。