(旧タイトル:『小説でもあり、マジックでもある』)
中学生の時、私は「魔術館の一夜」という本を購入しました。タイトルからして、てっきりファンタジーだと思ったんです(←出版元がゲームブックなんかを出していた社会思想社でした)。しかし、中身は初歩の初歩から書かれた奇術書でした。古典的な手品(←あくまで当時の私見です)をストーリー仕立てで紹介していく形式で、その語り口が軽妙で単なる読み物として心地良かったんです。
それから数年後、私は街の書店で一冊の本を手に取ります。著者名に覚えがありました。
「あの手品師の本だ」
不思議なイラストが表紙でした。それが本書です。
「湖底のまつり」
泡坂妻夫 著 創元推理文庫
高校生だった私の感想は、「なんだこの都合の良い話は(怒)」です。
全く刺さらなかったんです。
以来十年近く、本書は本棚の片隅で眠っていました。
その後、社会人になり私は再び小説――というかミステリーというジャンルを好んで読むようになりました。
宮部みゆき先生に始まり様々な作家に触れ、気が付くと本棚には「亜愛一郎」シリーズ他の泡坂妻夫作品も当然のように並んでいきました。
そして、本書と再会したんです。
あれは金曜日の夜‥‥‥いや、日付変わって土曜日の未明。普段から寝付きの悪い私は、その日も全く眠れずにいました。
このままでは、翌日(休日)を睡眠不足のせいで棒に振ってしまいかねない。それを避けるべく、私は本のダークサイドの力(小難しい本、もしくはつまらない本)を用いて睡魔を呼ぶことにしました。そして、「そう言えば」と手に取ったのがこの『湖底のまつり』でした。
結果はご想像の通り。
怒濤の、一気読みです
気が付いたら午前三時でした(笑)。
かつての私は―、
ファンタとポテチしか知らないガキが、フォアグラやキャビアを食べたようなモノでした。
『湖底のまつり』は、多くのミステリー小説を経験した私の前に、まさに至高の存在として降臨いたしました。
お陰で―
眠るどころかお目々ぱっちりですよ(笑)。
繰り返し襲われるデジャヴ。
しかもそれが、微妙なズレを伴っているんです。
文庫の背表紙には「読む者に強烈な眩暈(めまい)感を与えずにはおかない」とあります。まさに眩暈
極上の娯楽です。そして極上の仕掛けとも言えます。何故なら―
本書は「あの手品師の本」なんですから。