今回は私があまり好きではない(笑)、クトゥルー神話をツマミます。
『暗闇の出没者』
HP・ラヴクラフト著
新潮文庫
「インスマスの影」収録
まずは、どうして怖くないのかと申しますと―、
たぶん、訳がわからないからです
なんせ、恐怖の対象が過去に宇宙から飛来した存在や、次元を超越した存在なので、そのモノ自体が"未知”なんです。
そして―、
それらとの遭遇を描いた小説群の総称が《クトゥルー神話》と呼ばれているモノなのでございます。
※※※※
画家であり作家であったブレイク青年は、1934年から1935年にかけ、故郷をはなれプロヴィデンス(ロードアイランド州の州都)へやって来ました。
高台にある一軒家を借りた彼は、そこで五つの短編を書き上げました。
書斎にある西向きの窓からの眺めは素晴らしく、特に眼下に広がる街並みが燃えるように彩られる夕景は、彼のお気に入りでした。
そして、そのはるか先に煙る、とんがり屋根や尖塔が立ち並ぶフェデラル・ヒルという地区―。
そこに彼は、自分の想像の中の異世界を重ねてもいました。
特に彼を引きつけたのは、古めかしい黒く煤けた大きな教会でした。双眼鏡で見てみると、100年以上前の様式で、黒々とした尖塔にえもいわれぬ魅力がありました。
ブレイクはふと、他の建物の屋根や尖塔に普通に居る鳥達が、その教会の周囲にだけは一匹も居ないことに気が付きます
※
そんなこんなで、気が付けばその窓から煤けた教会を見ているようになったブレイク―。
4月のワルプギスの夜祭の直前に、彼はかの地の探検を決行するのです。
※
下町の街路を延々と抜け、ようやくやって来たフェデラル・ヒル―。
しかし、老朽化した街並のなかに、目指す教会の巨大な影は見えません。
道すがら、住人と思しき人に声をかけても、はぐらかされるばかり‥‥‥。
しばらく彷徨って、ようやく目にした巨大な教会の尖塔―。
広場に面したその大教会は、鉄柵で囲われていました。
付近にちらほら人影はあるのですが、ブレイクが話しかけても十字を切ったりするばかりでたいした情報は得られません。
ただ1人、やってきた警官だけは、渋々この教会について教えてくれました。
- 「この教会には近付くな」と神父様に言われている。
- ここにはかつて異端の宗派の巣窟だった。
- おぞましい怪物を召喚していたらしい。
- 付近の住民が次々失踪した。
- 事が表沙汰になり、その宗派は逃げ出した。
- それ以来、誰のモノでもない。
―それで、やめておけばいいのにブレイクはこの教会に侵入するんです。
※
そからじゅうに垂れ下がる蜘蛛の巣を払いながら、ブレイクは書庫とおぼしき部屋へやってきます。
天井まである巨大な書架には、『ネクロノミコン』や『エイボンの書』と言った禁忌の書物が並んでいました。無論、それらに一通り目を通しているブレイクですが(まぁ、それ系の作家ですからね)、中には噂でしか聞いたことのない『プナコトゥス写本』なんて相当ヤバイ代物もあります
「近隣の恐怖の対象であるこの教会に、そんな禁忌の書物が保管されている」
この事実だけでも、ブレイクの空想は止まりません
さらに別の部屋で暗号めいた記号が羅列された冊子と、それを解くヒントたり得る紙片を入手したブレイク―。
そしていよいよ、彼が書斎から眺めていたあの尖塔へ向かいます。
そこは、いわゆる鐘楼ではありませんでした。木製の螺旋階段の頂上は怪しげな部屋になっており、そこでブレイクは奇妙に傾いた石柱の上に置かれた金属製の箱を見つけます。
中には4インチくらいの卵形の物体がありました。最初、金属に見えたそれは、よく見ると赤黒い透明な多面体―。
ブレイクは、その中にはるか宇宙の光景や荒涼とした景色を見ます。そして、さらにその中にきらめく何かを見たような気がした時、ふと自分を見つめる視線を感じたのです。
周囲を見回したブレイクは、部屋の隅で、埃にまみれた白骨化した遺体を見つけます。しかも、その頭蓋骨は強い酸でもあびたように焼け焦げているのです。
ブレイクはボロボロの衣服を調べ、この遺体がはるか以前にここへ忍び込んだ新聞記者である事を知ります。
同時に周囲の闇に言い様のない気配を感じた彼は、そこで調査を切り上げました。
※
その後の彼は、暗闇を恐れるようになります。
フェデラル・ヒルでも「あの教会からなにやら音がする」という噂が立ち、その
うち失踪者も出始めます。
※
そして嵐によるその年二度目の大停電の後、書斎で恐怖を顔に貼り付け絶命しているブレイクが発見されました。
彼が持ち帰った冊子の暗号には、《輝くトラペゾヘドロン》をのぞきこむことで、"這い寄る混沌・ニャルラトホテプ”が召喚されるという記述があったのです。
書斎の机に座ったままの彼が凝視する先には、フェデラル・ヒルのあの教会がありました。
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ね、だから何? って感じでしょう
このニャルラトホテプというのは《クトゥルー神話》に登場するとんでもない怪物(邪神)の一つなのですが、時に人の姿で現れたりして、ちょっと異質な存在なんです。
コチラの漫画にも『闇をさまようもの』として同じ話が収録されていますが―
たぶんマニアにしか刺さりません