またまた宮部みゆき先生の短編集のご厄介になります![]()
『居合わせた男』
宮部みゆき著 文春文庫
「とり残されて」収録
初期の頃の作品ですので、現在とは随分趣が違う点がございます。
主人公・鳥羽修次郎(トバシュウジロウ)が、長野から帰京するのに使っているのは新幹線ではなく特急でございます![]()
物語は、鳥羽がほぼ貸切り状態の車両で、たまたま二人の女性と居合わせた事から始まります。
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平日だったこともあり、車両には鳥羽の他には若い女性の二人連れがいるだけでした。
彼女達は最後列に座っていって、鳥羽の席はその前の列でした。
当初からチラチラを視線を合わせてきた二人は、鳥羽が自席に着いた時に「こんにちは」と声をかけてきました。
聞けば、昨夜鳥羽が取引先と会食した際に同じ店にいたらしく―、
一目見て「素敵!」と思っていた"イケオジ”に再会できたのが嬉しかったとの事でした。
「ご旅行ですか?」
『仕事とプライベート、両方かな』
―まぁ、彼女達が鳥羽をナンパしたようなモノなのですが、妻に先立たれ現在独身の鳥羽は実際モテます。年相応(四捨五入で50歳)にハンサムな鳥羽は、共同経営者(副社長)からは、「気をつけろよ」みたいな事を言われています。
どうやら二人の"ロックオン”を外せないと悟った鳥羽は、逆に彼女達から得るモノはないかと話題を誘導することにします。
彼の会社では二人のような若い女性が多数働いているので、コミュニケーションの問題はありません。そうして色々やり取りをする内に出てきたのが―、
"同僚が社内で自殺をした”という話でした![]()
※
彼女達は、鳥羽も"精密機器分野で大手ではないけれど老舗”くらいに認識していた東洋精機という会社に勤務していました。
「もう、ビルも古くって……そう、切っ掛けは地下の配管が壊れてて……」
「お陰で、資料室が水浸しになっちゃったんです」
総務部の二人に、その書類の乾燥&整理の仕事が回ってきたのです。
「上司が、すぐ隣のビルの部屋を借りてくれたんです」
「ほんと、すごく近くて、うちの会社の応接室と2メートルくらいしか離れてないんです」
最初の週は二人だけでお気楽にやっていたのですが、次の週から"お目付役”が来たそうで―、
「相馬さんっていう、嘱託のジイサンなんです」
「ほんと、細かいのよねぇ」
定年後1年のブランクを経て戻ってきたという相馬さんに対し、2人の口調は終始辛辣![]()
『その相馬さんという人が、会社で自殺を?』
「そうなんです。私達の目の前で窓から……」
「警察も調べていったんですけど、すぐに自殺という事で処理されて……」
「でも、きっと―」
「井坂君の幽霊に仕返しされたんです」
※
話に出てきた井坂という男性は、中途採用で入社してきた社員で、当時主任だった相馬さんから随分と"イジメられていた”と言うのです。
「井坂君ハンサムだったから、きっとヤキモチもあったのよ」
「そうそう、ちょっと鳥羽さんに似てるかも
」
その井坂という社員がある晩泥酔し、車にはねられて死亡したのが2年前―。
「警察は自殺なんかではなく、あくまで事故だって―」
「でも泥酔してたのって、毎日相馬さんにいびられてたからよね」
『だからって、その"幽霊が仕返し”っていうのは―』
「あの日、相馬さんは私達の会社の応接室を見て"また井坂君がいる”って言って、部屋を飛び出したんです」
以前にも相馬さんの様子がおかしい事はあったらしく―、
「再雇用されてから社内のゴルフコンペに参加したそうなんですけど―」
「2泊3日で伊豆に行ったヤツよね」
「そこで、夜中に酷くうなされてちょっとした騒ぎになったみたいなんです」
※
持病があり、欠かさず薬を飲んでいたという相馬さん。
その"症状”について心当たりのある鳥羽は、東京に着いて迎えにきた"ギリギリ恋人未満”の秘書に言うのです。
『ある女の子たちに真相を話してやったほうがいいのか、迷ってるんだ』
数日後、ビジネスも兼ねて東洋精機を訪れた鳥羽は、頃合いを見て件(くだん)の2人に"真実”を教えてあげるつもりでした。
彼が通されたのは"例の応接室”で……。
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まぁ宮部みゆき先生ですから、当たり前ですけど――、
上手い![]()
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さて、当ブログは今回が2025年最後の投稿となります。
皆様におかれましては、良いクリスマスと新年をお迎えくださいませ。
……私は、とにかく年内は死ぬ気で働きます![]()
(次回は1月10日の予定です)
