いやぁ、600頁があっという間でした。

 

『バッタを倒すぜアフリカで」

前野ウルド浩太郎著 光文社新書

(601頁)

 

 本作は2018年に新書大賞その他を受賞いたしました「バッタを倒しにアフリカへ」の続編にして、一応完結編となっております。

 

 ただし、この"完結”というのは―、

 

『甚大な食糧危機をもたらすサバクトビバッタを倒したのではなく、そこへ繋がる研究成果を論文として発表できた』

 

 という事でございます。

 

 本書で触れられておりますサバクトビバッタに限らず、世界各地の穀倉地帯には、それぞれトビバッタ種がおり、それらが時に大発生をして近隣地域の農業に大打撃を与えます。

 

 皆さんも、2018年から2020年にかけて東アフリカで大発生し、その後パキスタン付近まで到達したたトビバッタのニュースを覚えておられる事でしょう。

 

 その様子は第九章《厄災と魂の論文執筆》にも、詳しく書かれてあります。

 

 通常の自然環境であれば、多くの幼虫が成虫になる前に天敵に補食され、命を落とす。わずかな個体だけが成虫になり、自由に空を羽ばたける翅を手に入れる。しかし、数年にわたる干ばつにより、おそらく広範囲にわたって天敵の類は死滅していたのだろう。バッタはその高い機動力を活かし、いち早く突如現れた綠の楽園に辿り着き、まさに「無敵」のありえない環境を謳歌した。

 

 

 こんな風に大発生したトビバッタは《相変異(そうへんい)》を起こしています。

 

 これは、個体が密集状態となった時に、体色や行動パターン(=相)が変化するという性質でございます。

 

 通常、綠色をしている個体が"孤独相”と呼ばれるに対し、大発生した黄色or黄褐色の個体を"群生相”と呼びます。

 

 この群生相はあっという間に綠を食い尽くし、餌を求めて風に乗り大移動を開始します。そしてこれまた、あっという間に性成熟し大量に産卵、そして‥‥‥。

 

 ※

 

「いや、日本にだって田んぼに沢山のイナゴがいるじゃないか」

 

 そう思われた古き良き日本を知る皆さん―、

 

 そこが違うんです。我々が通称"バッタ”と呼んでいるモノは大きく二つに分けることが出来ます。それが―

 

 群れると《相変異》するローカスト(LOCUST=トビバッタ)と《相変異》を起こさないグラスホッパー(grasshopper=イナゴ)ございます。

 

 無論、日本にもトビバッタ種は普通に生息しています。何かのきっかけでトノサマバッタが大発生したら、あっという間に列島を蹂躙し、各地に蝗害(こうがい:バッタによる被害)をもたらす事でしょう。

 

 2020年年当時は「中国までやって来た(デマ)」とか「日本にも来るのか?」等の文字がネットで飛び交っておりました。

 

 実際、日本に滞在していた著者も前作「バッタを倒しに~」がベストセラーになっていた事もあって、不毛とも思えるマスコミ対応に追われていたそうです。

 

 バッタの大発生は研究者にとってチャンスでもあります。

 ですから、本当は著者だってアフリカへ急行したかったんです。しかし、この頃世界はもう一つの厄災・新型コロナウィルスに見舞われていました。

 

 ※

 

 人の移動がタブー視され、海外への渡航はおろか、外出すらままならない。各国のバッタ研究者は途方に暮れました。

 バッタ大発生の現地へ行けないだけでなく、研究施設で飼育されている多数のバッタが人員不足によって死滅する危機でもあったのです。

 

 現地ではバッタ撲滅を目指す一方で、研究者達はバッタを何とか生かそうと苦慮する皮肉ニヒヒ

 

 ※

 

 著者は実際にフィールドに出て野性のバッタを追い、その繁殖方法に迫る《集団別居仮説》に辿り着きました。

 

 これは"トビバッタは雌雄が群で移動をしている”という定説を覆すものでした(だから"別居なんです”)。

 

 実際は、雄の群へ雌の群がやって来て、比較的安全な夜間に交尾&産卵をしていたのです。

 

 これはまさに、著者がその目で観察し、捕まえ、解剖等をして得た結果です。

 

 この《集団別居仮説》を実証する論文を書くには、確たるデータを集めねばなりません。

 広大なアフリカをとんでもない機動力で移動するバッタが相手では―大発生でもしない限り―必要な個体数を持続的に確保するのも大変真顔

 

 その為、著者も共同研究者であるフランス人・シリル博士が所属するモロッコの機関でバッタを飼育し、交尾行動等を研究していました。

 

 そんな何世代にも渡って育ててきたバッタ達も危機に瀕していたんですゲッソリ

 

 ※

 

 二つの厄災を乗り越え、著者は一流学術誌においてサバクトビバッタの繁殖行動に関する論文を発表しました。これは―、

 

 トビバッタ研究としては途上なのですが、その駆除方法に一石を投じるものではありました。

 

 結果として、モーリタニアと日本で権威ある賞を受賞した著者(日本のモノは、授賞式に秋篠宮皇嗣同妃両殿下がご臨席するレベルです)。

 

 ※

 

 幼少期に見たファーブル昆虫記から始まった著者の夢は、一応結実いたしました。

 

 ただ著者曰く、その代償も小さくありませんでした。

 

 無収入に怯えた時期もそうですが、何より―、

 

 自身の婚活に失敗した事だ』

 

 バッタの婚活ばかり追ってましたからねウインク

 

(まだまだ書きたいことがあるので、次回も"はみ出し”として書きます)