遺産分割協議書による相続登記
自分で相続登記した後で思ったことは、意外に簡単だったことだ。
私が行った相続登記は、遺産分割協議書による相続登記である。自分でやったから金額的には、住民票などの書類代と登録免許税分。おやじの代から見ると極端に少ない。
農地の相続登記で最もわからなかったのは、 遺産分割協議書だけ。
インターネットで遺産分割協議書の書き方を調べても出てくるのは、預金も含めた一切の財産分割に関する書き方だけ。
それに疑問を持った。法務局に行って相続したいのは、農地だけ。なのにどうして預金まで含めて書かなければならないのか?
そこで考えた結果が、農地だけの遺産分割協議書を書けばいいのではないかと。
以下のような形式で遺産分割協議書を書いて提出した。
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実際に提出して受理されたもの(実名などは記載していない)
遺産分割協議書 (右上に全員分の実印を押印しておく)
被相続人 ○○○○
生年月日 昭和○○ 年○○ 月 ○○日
本籍 ○○○○○○○○○○○○
被相続人○○○○の死亡(平成 ○○年 ○○月 ○○日)により、相続人全員が協議し、以下の不動産を●●●●が相続することに同意した。
(相続する土地を一つ一つ正確に記載する)(宅地だけ小数点2位まで記載する)
所在 地目 地積 ㎡
所在 地目 地積 ㎡
所在 地目 地積 ㎡
平成 年 月 日
(相続人の住所、名前 実印)
○○○○ ○○○○ (実印)
○○○○ ○○○○ (実印)
○○○○ ○○○○ (実印)
○○○○ ○○○○ (実印)
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登記に必要な書類で、自分で作るものは、3種類。
1 遺産分割協議書
2 登記申請書
3 相続関係図
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戸籍や住民票などを役所から「購入」
役所から住民票、戸籍などの書類をもらう。大まかに分けて言えば、(1)被相続人=親の戸籍など、(2)自分の戸籍など、(3)他の相続人の戸籍など、である。
(1)被相続人=親の戸籍など
●祖父の除籍謄本・・・被相続人が生まれた時の戸籍
●被相続人の戸籍・・・縦書きと横書きの戸籍謄本
●被相続人の戸籍の 附票
● 被相続人の本籍を記載した住民票(死亡時点のもの、当方の場合は、親が特養ホーム入所のため住所が特養ホームに移動したため)
● 被相続人の住民票で除票と呼ばれるもの
●固定資産評価証明書(土地だけなら土地だけを申請して交付してもらう。当方の場合、住宅は祖父の代から登記せずにいたため、遺産分割協議書の相続するものから外すしかなかった。これは、登録免許税の計算根拠になる。)
(2)自分の戸籍など
●財産をもらう相続人の住民票
● 印鑑証明書
● 戸籍(個人事項証明書)
(3)他の相続人の戸籍など
● 印鑑証明書
● 戸籍(個人事項証明書)
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2 登記申請書
3 相続関係図
登記申請書は法務局のページからダウンロードしたらいい。プリンターで印刷。用紙は普通紙を使った。A4。
http://houmukyoku.moj.go.jp/homu/minji79.html
相続関係図は、提出しなくてもいいが提出したら書類の一部が戻ってくる。
相続関係図は、エクセルで作って印刷。プリンターを使った。
親二人、自分と兄弟。要するに被相続人と相続人の相続関係を表したもの。
遺産をもらう相続人には「相続」と記載し、もらわない相続人には「分割」と記載する。
相続関係図のわかりやすいものをネットから探してみるのもいい。
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実際の手続きの流れ
1 法務局に相続登記をしたいことを電話でもいいから知らせ、提出日の予約を取る。
2 法務局に行く。書類などを提出。
3 1000分の4が相続による所有権移転登記の登録免許税 。登録免許税分の印紙を購入、法務局が用意する書類に張り付ける。身分証ーーー自動車免許証で本人確認が行われた。
4 法務局が受理したら、登記完了通知の書類をもらいに行く日時を指定される。完了まで何事も問題なければ、法務局から連絡することはないと告げられる。
5 法務局に行き、登記完了通知の書類をもらう。登記申請書に「登記識別情報の通知を希望しません」のチェック欄にチェックを入れていない場合、一筆ごとの登記識別情報の書類をもらえる。その書類には、英数字の識別情報が封印されている。袋とじのこと。
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後の作業は、登記完了証などをもって市役所・農業委員会に行き、登記済みを届け出た。農地の所有権移転にかかわる農業委員会に対する届け出は、義務になっており、一応罰則がある。10か月以内だと記憶している。
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後記
私の親の代での農地相続は、もめごとになった。親父の兄弟は10人だ。祖父の死亡から所有権移転登記が完了したのが3年以上かかった。
もめごとの中身だが、農地を含めたすべての財産について一括処理しようと私の親父の兄弟が先導しており、遺産分割協議書のような書類まで作成して親父に送り付けていたのだった。その書類を見ても実際何を誰にどれだけ相続するのかの記載がなく、遺産分割協議書の本文がなく、「能書き」のような文言と相続人の羅列と実印の捺印がある書類だけだった。あれでは・・・と思ったが。
当時は、基盤整備前で事前に話が役所から出ていて、親父としては、所有権移転登記をする必要があったといえる。基盤整備は、従前の土地がすべて消滅して新たな地番の土地にするが、整備前の土地の所有権というのはとても重要になる。つまり、基盤整備で相続手続きをするわけではないから、基盤整備前に土地の所有権がはっきりとしていなければ話が進まない。死人に口なし、死人では所有者にならないからだ。
つまり、親父としては、農地・宅地の所有権移転登記をするためには、他の兄弟と遺産分割協議書を作成して実印などのはんこを押してもらう必要があったが、親父のほかの兄弟は、全財産についての遺産分割協議書にこだわっていて遺産分割がとん挫していたままだった。
そこで親父のやったことは、爺さんの遺言書を基に農地・宅地の遺贈をすることだった。ところが、遺贈だとほかの相続人には遺留分が認められているから農地・宅地の半分だけを所有権移転登記できただけだった。それが1回目の所有権移転登記。業者に頼んだから金もかかったらしい。昔の書類を見ると、親戚関係者が遺言執行人だった。遺言は公証人が作成したものだ。
それからもう半分について登記が行われた。今度は、相続分の不存在証明書をほかの相続人全員から集めて相続登記した。それが2回目の登記。それが遺産分割協議書によらない相続登記である。
相続の不存在証明書は、ちゃんと実印が押してある。印鑑証明書ももちろんだ。それなら遺産分割協議書も可能なはずだが、他の兄弟は、全財産の一括分割協議書の作成にこだわっていたためか、相続の不存在証明書なら可能だったようだ。
ちなみに、あとの半分の相続にかかった明細書を見たら28万円を少し超えた金額だった。ときは昭和62年頃の話だ。今だったらどれだけの金額なのかわからないが、かなりでかい金額になる。しかも2回とも業者に依頼・委任したから60万円くらいか。
宅地・農地を合わせても6ヘクタール以下の土地だ。私が行った相続登記は、2万円でおつりあり。
遺産分割協議書による農地の相続登記は、他の相続人が実印押して関係書類を出してくれれば、簡単に済む。しかし、認めてくれない場合は、裁判しかない。
農地の遺産分割ではなく、生前に贈与する方法もある。それが生前贈与。
農地に関しての生前贈与は農業委員会の許可をもらうことが必要だが、その際贈与税を「猶予」した場合は、被相続人の死亡するまでの間、あるいは贈与から20年間、「猶予」が消えないから、税務署側の債権が消えない。贈与税だが、かなり高額になる。
しかしその贈与税の猶予制度は、農地の贈与税猶予期間中に20パーセント以下の農地を売った・貸したら20パーセントまでの土地の贈与税と延滞税分を払うことになり、20パーセントを超えたら贈与税の全額と延滞税分を支払うことになるからなかなか手が出せない農家の人もいると思われる。但し書きで免除される場合もあるらしいが。
自分で農地や宅地、あるいは建物などの相続登記をやれば、相手が法務局とほかの相続人だけで済むから意外と簡単なのだ。
業者に頼めば簡単だろうけど、相続登記は、一生に1回。やってみるのもいいと思う。
最も難しいのは、遺産分割協議書の作成。
ネットで検索すると、遺産の中に預金も含めて書くものだと出ているが、登記に必要な遺産分割協議書の書き方というジャンルがないのが実情。
預金なんか登記対象じゃない。そういうわけで、いわゆる不動産の相続登記のための遺産分割協議書を自分で考えたわけである。それを法務局で受け付けるかどうか不安があったが。
不備があっても心配無用!
最初に提出した遺産分割協議書に「不備」があった時には驚いた。一筆ごとの面積とか地目とかを書くのだが地目を間違えてしまった。もう一つ間違えがあったのが、宅地の面積の記載方法だった。宅地の面積は、小数点以下二つまで書くようにと。つまり、00なら小数点以下00を書かないとだめだと言われた。その場で法務局の職員に「実印を全員分右上に押してくれれば訂正できる」と聞いたが、何しろ兄弟は地元じゃないから修正した遺産分割協議書を作成して又持ってくると告げた。その後、兄弟に送って実印を押してもらった。
遺産分割協議書の間違え訂正は、遺産分割協議書の右上の空き地に相続人全員分の実印を押してあれば、訂正箇所を一つ一つ記載する。文字の削除なら文字の削除いくつとか、そんな感じで記載するらしい。
自分で遺産分割協議書を書いて出すなら、右上に相続人全員分の実印を押してもらってから提出するほうがいい。
私の場合は、全員の実印を右上に押して提出したが、修正個所一つもなしだったが、法務局の職員は特別何も言わなかった。
被相続人が生まれてからの戸籍
市役所などから住民票などを仕入れるが、具体的には細かくたくさんあった。
自分では、いらないと思っていた祖父の除籍謄本は、書類提出の際に脇に置いていた。
被相続人の生まれた時の戸籍を証明するものがその祖父の除籍謄本だった。除籍謄本は、祖父の代のすべての子供が記載されている。最初に提出した戸籍が祖父の子供の一部が記載されたものだった。法務局の職員は、わきに置いていた祖父の除籍謄本を見つけ、こう言った「無いな、そっちの書類は何?あーこれこれ」とその書類を取り上げるようにした。
被相続人が生まれてからの戸籍でいいんだろう?と疑問だったが、法務局で言うところの「被相続人が生まれてからの戸籍」というのは、除籍謄本だった。
面倒な証明書類の種類の多さは、日本人ならではのものなのだろうな。