事件や事故が起こるたびに、酒場でよく聞く言葉がある。
「SNSなんて、なくなりゃいいのに!」
同感だね。でも、あれで金儲けしてる人が多いから、もうなくならないんだ。
道徳よりも金儲けを選んでるんだ、人類は。
昨今の文春砲をきっかけに、ちょっとした悪ふざけでも、
日本国民が一斉に芸能人をSNSでリンチする。そんな過激な社会風刺の群像劇だ。
元・関ジャニ∞、現・SUPER EIGHTのアイドルユニット、丸山隆平を主演に迎え、
彼に薄汚い芸能ゴシップ記者を演じさせていた。
40歳になった丸山隆平は、もはや「アイドル」と呼ぶには年をとりすぎていて、
ジャニー喜多川の一連のスキャンダル以降、
ジャニーズ系のタレントがどこか居心地悪そうなのも気の毒に思う。
アイドルでもない、アーティストとしては中途半端、番組も減ってきた。
そんな中で、本格的に演技の世界に足を踏み入れようとしているのかもしれない。
わたしは、元ジャニーズの“アイドル”が、
生半可な気持ちで舞台に首を突っ込んでくるのを歓迎していない。
彼らを舞台に上げればチケットは売れるかもしれないが、
舞台の質は一気に下がる。
さらに言えば、観客のマナーも荒れる。
偏見だとは分かっているが、何度かイヤな思いをしたことがあり、
なかなか払拭できないのだ。
だからこの舞台も、興味はあったけど、後悔したくなくて観に行かなかった。
前置きが長くなったけど──
そんな丸山隆平が、薄汚いゴシップ記者を演じ、
アイドルの熱愛や不祥事を無責任に書き連ねて雑誌の売上に貢献し、
社内で一目置かれ、鼻高々になる。
でも、その記者である彼自身の不祥事が雑誌で暴露され、今度は追われる側に。
そこから、どんどん精神が崩壊していく。
その演技は、見事だった。
その姿はもうアイドルではなく、
一人の40歳の中年の男だった。無精ひげに、少し頭頂が薄くなりかけた、
カッコつけてない、無様な男になっていた。
やるやん。
そして──精神がボロボロになった丸山の前に現れる、
親友・勝地涼からの愛の告白。まさかのラブシーン。
いやぁ、よくここまでやらせたし、やったな……と感心。
「桜の園」でハゲヅラをかぶった井上芳雄にも驚いたが、
こちらの方が、精神的には何倍もキツかったかもしれない。
あとは……橋本環奈を想定しているようなスーパーアイドルを演じた恒松祐里。
「パラサイト」での金持ちの娘役の記憶があるが、
ラストの10分以上にわたる長尺の独白は見事だった。
「完璧な謝罪」かどうかは分からないけど、
散々雑誌とSNSで叩かれた芸能人たちの心の声を代弁しているようにも聞こえた。
これ、2時間50分。休憩なしの一本勝負。
なかなかハードな演劇だったな。これ生で観たら、どっと疲れてただろうな。
……だけど、共感できるところは一つもなかった。
芸能人は、わたしにとって知り合いじゃない。
あくまで、境界線の“向こう側”にいる人だ。
どれだけ好きでも、どれだけ応援しても、向こう側の人。
その人が殺人を犯そうが、盗みを働こうが、不倫しようが、嘘をつこうが、
わたしの人生には、1ミリも影響しない。
多少はガッカリするかもしれないけれど、
自分の人生には何も影響がないと知っている。
なのに世間は、なぜこんなにも、
まるで自分の人生に直接関係あるかのように、騒ぎ立てるのか。
芸能人の一挙手一投足よりも、
政治家をはじめとする、税金で働いている人たちの行動に注目して意見を言った方が、
よっぽど自分にとって有益だと、気づいてほしい。
──そんなことを思った。
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2024年
作・演出:三浦大輔
出演:丸山隆平、勝地涼、恒松祐里、さとうほなみ、九条ジョー、米村亮太朗、横山由依、大空ゆうひ、風間杜夫、日高ボブ美、松澤匠、青山美郷、川綱治加来
音楽:内橋和久
美術:愛甲悦子
照明:三澤裕史
音響:鏑木知宏
衣装:小林身和子
ヘアメイク:河村陽子
映像:荒川ヒロキ
上演期間:2024年3月31日〜4月22日(東京・THEATER MILANO-Za)、2024年4月27日〜5月6日(大阪・森ノ宮ピロティホール)
上演時間:2時間55分(休憩なし)
※補足:『ハザカイキ』は“端境期(はざかいき)”という言葉の通り、変わりゆく時代の狭間に生きる人々の葛藤と混沌を描いた社会派群像劇。テレビ業界・芸能界を舞台に、メディアと人間の境界をあぶり出す、三浦大輔らしいエッジの効いた内容。
