舞台 いつぞやは 知人の死、自分の死、余命の生き方を考える | 気むずかしい いろいろ

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ミュージカル「生きる」をみてから、「生きているだけで素晴らしい」と思える場面を探している。正直、ぜんぜんそう思えてないのだ。病床で身動きもできずただ天井とにらめっこするだけの10年をすごした婆ちゃんは「やりたいこともできんし。死ぬこともできん」と嘆いていた。

 

そしてこれを書いている2日前の土曜日、人間ドッグをうけた病院から着信が。伝言なし。病院から電話をもらうことは一度もなかったのに、なにか緊急の報せがあるのだろうかと、モヤモヤした2日間をすごしている。

 

そんな中「いつぞやは」をみてきた。

大腸がんステージ4と診断された元無名の役者いっちんの“余命”を一緒に過ごした若者の、おそらく人生ではじめて経験する「友人の死」とのリアルな向き合い方を描いた作品だ。

 

余命半年と診断されたいっちんは、死が近づいていても、ガンが進行しても取り乱すことなく、穏やかに、平然と死に対処していた。「やり残したことはないから、ぜんぜん平気」といって、友人たちに気をつかわせないよう、抗うことなく死を受け入れていた。

 

このいっちんの対処は、もしも私がそうであった時の理想的な姿だ。抗うのも、患いながら生きるのも、取り乱すのもシンドイと思ってしまうのだ。

 

だが、いっちんは仲間のおせっかいとゴリ押しで、数年ぶりに芝居をすることになった。闘病でのシンドさを隠し、セリフ覚えの悪さに苦戦しながらも、生きることの楽しさを見つけたのだ。芝居を終えたあといっちんがニコニコしながら芝居仲間に、こう言うた。

 

「オマエたちはいいよな。これからも芝居できるんだから」

 

もしかして、これが『生きる』の「生きているだけで素晴らしい」ってことだろうか?

 

いっちんは、脚本を担当した松坂に「おれのコトを書いてくれ」とお願いするも、忙しさを理由にやんわり断られてしまった。その後、いっちんは青森で最愛の人をみつけ、余命をきっちりまっとうする。

 

いっちんの死の報せをうけ、脚本家である松坂は、なぜいっちんのコトを書かなかったのかを問われ、「だって、おれが一番のともだちってわけじゃないし。めちゃくちゃ仲良かったわけでもないし。ほかの人にも声かけてるみたいだから、ほかの人が書くだろうと思って・・・」と。

 

なんか、この言葉もリアルだなと。リアルすぎるなと。

 

 

7年ぐらい常連をしていたBARの女店主が今年の3月にガンを患い、休業して闘病している。はじめは心配してこまめに連絡をとっていたのだが、そのうち忙しくなり連絡が途絶えた。常連は私だけじゃないし、彼女がたよっている常連はほかにもおるから、別にわたしから連絡せんでも。あと、いつか女店主から連絡入るだろうとほうっておいたのだ。

 

まさに、わたしの今の状況とダブルで重なり、脚本・演出を担当した加藤拓也はまだ20代やのに、深いコトかんがえるなーと感心しっぱなしだった。ラストは、涙流しっぱなしになった。

 

もし、わたしが余命宣告されたら、どんなリアクションをとるのだろうか。「やっぱ、もうちょっと生きたかった」とか思うのだろうか。たくさん死んだ、仕事仲間や友人たちは、どんな気持ちだったろうか。そういえば、60歳で余命半年宣告され、きっちり半年後に死んだ父は、やり残したことがたくさんあったんだろうな。欲深いひとだったから。

 

とか、これまで直面したいろんな“死の場面”と、わたしに訪れるであろう“死期”についていろいろと考えさせられる1時間45分だった。

 

 

ほんとうにイイ舞台だった。美術も、照明も美しかった。開幕してすぐ、なぞのハウリングが起こっていたが、携帯の着信音に比べれば、どうってことない。

 

この舞台、主演を窪田正孝が演じるハズだったが、開幕直前にケガで降板し、平原テツが代役をつとめた。おそらくホボ稽古なしで、本番突入したことになる。平原テツといえば、ハイバイの「て」や、「男たち」や、「ヒッキー・カンクーン」シリーズで、ハマった役者の一人である。平原テツが主演をやると知って、すぐにチケットをとったのである。

 

平原テツ、かなり体重をおとしておりビックリした。そしてハイバイではいつも、怒鳴る役が多かったから、声をあらげず終始にこやかに、穏やかに、周囲に気づかう余命いくばくもない男の役が新鮮だった。そして、とても沁みる演技だった。

 

観てよかったー!!

こういう芝居を、もっと見たい。

 

終演後、ロビーをゆっくり歩くオバアサン二人組が

「ひさしぶりに、いい芝居みたなー」とシミジミいうてはった。

 

ほんまですね。と、ココロの中で激しく同意。

 

 

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2023年10月9日

@森ノ宮ピロティホール

作・演出:加藤拓也

美術:山本貴愛
照明:吉本有輝子
音響:井上正弘

出演:平原テツ、橋本淳、夏帆、今井隆文、豊田エリー、鈴木杏

 

※どうやらこの芝居、アンサンブルを東京班と、大阪班で分けてるみたい。アシマクラの節約か・・・。

 

▼美しすぎた美術

 

 

▼企画・製作は安定のシス・カンパニー

 

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<今日のいちまい>

このレビューを書き上げる直前に、偶然、女店主から3カ月ぶりにLINEがきた。

ステージ2だと言うてたのに、この半年で進行したのか。

なにも語りたがらんから、状況分からず。

 

返信する言葉の正解もわからず。

心配しすぎる反応もアレだろうと思い・・・・我ながら、アッサリしすぎ。