樹木希林が、浅田美代子に実在するこの女を演じて欲しくて企画した映画。
2017年タイ、聖子ちゃんカットにミニスカートをはいた女が逮捕された事件ことを覚えているだろうか?
山辺節子62歳。自称38歳。
逮捕当時、31歳のタイ人と半同棲をしていた女。
つなぎ融資で7億を集めてトンずらした女。
あの事件をこのとはじまりから、逮捕までをドキュメンタリー風に仕上げているのがこの映画だ。
はじまりは、小遣い稼ぎではじめたネズミ講商法のサプリ販売。
饒舌な話し方に、目をつけ仲間入りを誘ったプロの詐欺師達。
なんの罪悪感もないまま、“つなぎ融資”を集め、
配当金を支払わないまま、だましとる金額が大きくなっていく。
騙している本人も「虚」と「実」が曖昧になってくる。
そんな女を浅田美代子が、結構体当たりで演じている。
詐欺事件だけならそんなに体当たりしなくてもよいが、
山辺節子は62歳なのに、自称38歳だ。
31歳の青年をタイで逆ナンする肉食系。
“後妻業の女”の大竹しのぶよろしく、いくつになっても女の武器をつかう女。
しかも見た目は、超ぶりっ子(古っ!)。
あれを浅田美代子が、樹木希林の指名で演じる。
けっこうなプレッシャーじゃないだろうか。
この映画では、被害者や関係者、タイ人男性にもインタビューをし構成されている。
名前をはじめとする固有名詞はすべて仮名だが、
ほぼドキュメンタリーでないかと思う。
そしてエンドロール終わりごろ、
被害者の肉声音声が流れる。
「選んだ自分も悪い」
、、、、、、、、、、、、、、、、。
この女にはある種のカリスマ性があったんだろうな。
被害者に自分も悪いと思わせるのは、宗教に近い。
わたしの好みは、もっと鋭利に踏み込んだドキュメンタリー描写なのだが、
この映画では悪とも、善ともどっちのスタンスもとっていない。
できるだけ客観的で公平な事実を、並べている。
浅田美代子も過剰な演技をさけているが、
出資者に囲まれ責め立てられても、
「わたしも被害者」「わたしは何も知らされていない」と、
平然とした口調で言い逃れていた場面はとても不気味だった。
出番は少なかったが、樹木希林のぞっとする演技もある。
施設に預けられ娘との別れ際、力なく手をふるあの場面。
画面に映る他の役者の存在を消し去るあの存在感。
木内みどりの謎の女も、平岳大の妙に説得力のあるスピーチも、
いろんな意味で不気味だった。
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2019年日本
脚本・監督:日比遊一
出演:浅田美代子、平岳大、木内みどり、樹木希林、しずちゃん