石破茂元幹事長が、自民党総裁選に向けてのリップサービスが始まりました。なんと、戦力の不保持を定めた「9条2項の削除」に言及したのです。この「9条2項の削除」は、6年前の平成30年9月、当時の安倍晋三首相と石破茂元幹事長の一騎打ちとなった総裁選で論争が交わされ、安倍氏の勝利によって一応の決着が見られたものなのです。

 

石破氏が、先日次期総裁選に出馬する場合は、「9条2項は削除すべきだと思っている。そういう議論が戦わされてこそ総裁選の意義がある」「きちんと自衛隊を戦力として認めないと、いつまでたってもモヤモヤごまかされたようになる」と、戦力の不保持を定めた9条2項の削除を掲げると訴えたことで、憲法9条に関する議論が再浮上する可能性が出てきたということですが、このようなことでは憲法改正がさらに遠のく可能性があります。

 

この議論が間違っているとは思いませんが、この9条削除にはこれまでの自民党内での議論があったのです。安倍元首相も30年の総裁選時、9条2項を残したまま、自衛隊を明記するという改憲案を打ち出していたのです。確かに2項を削除したほうがすっきりするし、自衛隊の活動の自由度も増しますから。

 

そんなことは安倍氏自身も百も承知のうえで、「平和の党」を標榜し、9条堅持を掲げる公明党にも受け入れ可能な案として、苦渋の決断をしたのが9条2項を残したままで3項を追加し、自衛隊を明記するという案だったのです。これについては菅義偉前首相が官房長官当時、「あの安倍晋三がよくここまで折れた」と感心していたほどだったそうです。

 

一方、石破氏は30年の総裁選立候補者の共同記者会見で、安倍氏にこう問いかけています。「(安倍氏が)幹事長当時に言っていたことと、私どもは全く一緒だった。それがなぜ変わったのか」と。

 

その点について安倍氏は「いまさらわかりきった話だね。何で考えが変わったかって、公明がのまないからに決まっているじゃないか。2項削除は残念ながら、どんなに努力しても、自民内にすら反対者がいるんだから、(憲法改正発議に必要な議席の)3分の2に達しない」と話していました。

 

この状況が、この6年間で抜本的に変化したとは考えられません。現在、公明党が参院に持つ27議席が反対に回るような改憲案に、現実的な意味はないのです。9条2項を巡っては安倍氏暗殺から1年近くたった昨年6月、安倍派が、まず自衛隊明記を実現したうえで、次の段階として2項を削除し、自衛隊を軍隊と位置付けることを目指すべきだとする提言を決定しています。

 

とはいえ、公明は過去に「2段階目が目的で、その手段として第1段階があるなら受け入れられない」と反発しており、この案ですら壁となって立ちはだかることは間違いないでしょう。また、自民の憲法改正推進議員連盟が、9条2項を削除して自衛隊の保有を明記することを柱とした独自の改憲原案をまとめるなど、2項削除の問題は今後も課題としてくすぶり続けるでしょう。

 

自民党議員で会見に熱意を持つ議員は多いですが、9条2項の削除について、公明側を「一緒に削除しよう」と説得し、それに成功した議員は居るのでしょうか。30年の総裁選時、安倍氏は「政治家は学者でもないし、評論家でもない。正しい理論を述べていればいいということではない」と、9条2項削除を主張する石破氏に勝利することで「この問題は決着をつけたい」と繰り返していたのです。

 

石破氏という人は、いつもこのような発言で注目をひこうとしますが、その中身には結論は無く、当然実行しようとする意欲も無く、まるで他人事で夢を話すだけの人だと思います。9条削除という保守系に耳障りの良い発言で自分の方を向かせても、その後には何もなく、支持者は梯子を外され、それは公明党が悪いといった釈明だけが聞こえてくるような気がするのは私だけでは無いと思いますか。