岸田首相が中国韓国との3カ国首脳会談で、中断している日中韓自由貿易協定(FTA)締結交渉の加速で一致したことについて。中国は、EVをはじめ過剰生産した廉価な製品を海外に輸出して国際社会の反発を招いているなかでの交渉で、岸田首相は、日本経済や自由主義国の連携、環境を守る覚悟があるのかと強い疑問が専門家などから上がっています。

 

日中韓3カ国首脳はソウルでの会談の結果、FTAの交渉再開で合意したということは、共産党独裁の中国に期待するとも言えるものですから、正気の沙汰ではないと言わざるを得ません。岸田首相の外交音痴も極まれりとしか思えません。

 

日中韓FTAは安倍政権下の2019年から中断していますが、原因となった政治的対立は、台湾、尖閣諸島周辺海域での中国の威圧行為はエスカレートする一方ですし、中国は対日輸入・輸出の禁止措置で威圧しているのです。それを止めてFTA交渉を進めるという気配もありません。

 

中国はEVなどで安値輸出攻勢を加速させ、「自由貿易」という名目のもとに世界貿易秩序を根底から揺るがせています。対中貿易依存度の高い韓国はともかく、対中強硬策を打ち出しつつある先進7カ国(G7)の一角、日本が中国側の誘いに応じると、西側の分断をもくろむ習政権の思うつぼにはまることにもなるのです。

 

今の中国は、経済を牽引してきた不動産投資が大幅に落ち込んだままであるにも関わらず、習政権はそれでも実質経済成長率は5%台を維持していると喧伝していますが、「粉飾」の疑いがあることは明らか。不動産関連を中心とする固定資産投資、家計消費、純輸出の原データから再計算すれば、23年はゼロ%前後の成長率にしかならないのですから。

 

外国企業は勢い、対中投資に慎重になり、23年は前年比8割減、今年1~3月は前年同期比56%減となっています。直接投資減退に引きずられて、株式、債券などの証券投資も低迷しているのですから。

 

そして、習政権が大号令をかけているのが、「新質生産力」と呼ぶリチウムイオン蓄電池などEV関連製品を中心とする新成長分野への投資、生産の増強です。中国各地でこれらの分野の工場建設ラッシュが起きており、たちまちのうちに生産能力過剰に陥りました。また、中国の自動車メーカー各社は政府補助金など手厚い支援策を受けて、続々とEVに新規参入してきました。中国製EV販売台数は23年、世界全体の59%に上っています。

 

生産過剰は鉄鋼、太陽光パネルなど中国が圧倒的な世界シェアを誇る製品全般に及び、鉄鋼や太陽光パネルのドル建て輸出単価は21年末に比べて20~40%下落しています。すさまじい中国の洪水輸出に対し、米欧は高関税で対抗しようとしており、バイデン政権は8月1日から中国製EVの関税を100%、鉄鋼を25%、太陽光パネルを50%とすることになりました。

 

ところが、日韓は中国とFTAを結び、中国製品の輸入関税を原則ゼロにするというのです。全く逆の政策で、これでは、中国で過剰生産された太陽光パネルやEV車が洪水のように日本や韓国に流れ込むことは間違いないでしょう。更に、日本はEV車などに補助金が付けられているのですから、中国製品であふれかえることもあり得ます。

 

日本の山林原野や農地は、中国製太陽光パネルでますます覆われるようになり、環境破壊が頻発。太陽光と同様、「クリーンエネルギー」を名目に中国製EVが走り回れば日本はどうなるのでしょうか、これが岸田首相の外交センスだとすれば、早急退陣を願う他は無さそうです。