日中両政府は、両国が「戦略的互恵関係」を包括的に推進することで一致していることになっています。でも、「戦略的互恵関係」ってどういう関係なのでしょうか。こんな良く解らない言葉で、厳しい国際情勢への直視を怠り、軍事的、経済安全保障的に日本にとっての脅威、懸念である中国との付き合い方を誤ってはなりません。

 

岸田政権は「戦略的互恵関係」という、時代にそぐわない言葉をもてあそぶことは止めたほうが良い。これほど今の両国関係の実態とかけ離れた言葉はないのですから。このために国民や企業が判断を間違うとすれば、岸田政権の罪は大きいと言わざるを得ません。

 

訪米した岸田首相はバイデン米大統領との間で、対中抑止力を向上させる防衛協力で合意し、日米とフィリピンの3カ国首脳会談では東・南シナ海で日比を圧迫する中国を念頭に安保協力強化で一致しました。更に、岸田首相は米議会演説で中国について、日本だけでなく国際社会の平和と安定にとって「最大の戦略的な挑戦」だと指摘しました。

 

一方、帰国直後には、日中首脳会談で「戦略的互恵関係」を確認したと外交青書に記載したのです。「戦略的互恵関係」は懸案も含め対話を重ね、協力すべき点は協力するというものです。もともと第1次安倍政権が平成18年の訪中で打ち出した概念ですが、次の福田政権下で、日中関係の悪化に伴い30年には姿を消したものです。

 

なるべく波風を立てたくない日本の外交当局と、経済減速により対米関係悪化を背景にした中国の外交当局の思惑が一致して復活したのかも知れませんね。日中の対話や協力は必要ですが、もはや「戦略的互恵関係」という言葉で飾れるような間柄では無いと思います。

 

今の中国は、日本に対して強い姿勢を崩そうとはしていません。尖閣諸島を奪おうとし、邦人を不当に拘束し、福島第1原発の処理水海洋放出に非科学的批判を浴びせ、日本産水産物の輸入を禁止しているのです。首相はしばしば「今日のウクライナは明日の東アジアかもしれない」と語っていますが、これは、台湾侵攻が日本有事につながる恐れが強いからなのです。

 

「戦略的互恵関係」などというきれいな言葉で対中政策を表すなら、中国に対する国民の油断を招き、中国に「日本くみしやすし」と思わせるだけなのです。そしてこれは日本の国益を損なうことになるのです。もっと現実を見つめて、「戦略的互恵関係」は禁句にすべきだと思います。