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「黄色いベスト運動」に思うこと。

image:francetv

 

去年の11月にはじまったフランスの「黄色いベスト」運動

日本でもかなり報道されていたようですね。

 

「黄色いベスト」フランス語では

「Gilets Jaunes ジレ・ジョーヌ」と呼ばれています。

 

 

あくまで個人的な感覚ですが、

この運動には2015年の同時多発テロ以来の

不安を感じてきました。

 

 

なぜなら、原因となる問題が根深い、から。

 

発端は、ご存じの通り、燃料税の値上げでした。

 

どこの国でもそうですが、ガソリンや軽油の値上げは直接おサイフに響きます。

 

特にフランスの場合は、値段の安いディーゼル車がまだかなり多い。

地球環境対策としてマクロン政権が打ち出した燃料の増税案は、

ディーゼル車を減らしていこうという意向もあって、軽油の増税率が高かったのです。

 

これが、特に自動車が欠かせない地方や輸送に関わる労働者などのあいだで猛反発をくらいました。

 

いま軽油はだいたいリッター1.5ユーロ。日本円で190円くらいですから、

すでに安くはないですが、発表された増税はリッターあたり7セント(9円)。

50リッター入れると3.5ユーロ(450円くらい)値上げになる計算です。

 

 

運動の最初は、地方の道路のロータリー交差点を

蛍光色の「黄色いベスト」を着て封鎖したり

交通をさまたげたりすることから始まりました。

人が交代交代で交差点を陣取り、

土曜日はそれをちょっと大がかりでやる。そんな草の根運動です。

 

image : ouest-france

 

(この国では、こうした運動がなぜか「国民生活の邪魔をする」という形で行われます。単なるデモや抗議よりも影響力が強いからです。)

 

 

こうした動きに合わせ、

みんなの仕事がない土曜日はパリや地方の大都市でデモをしよう!

と土曜日のデモが始まって、雲行きが怪しくなってきました。

それが11月中旬頃です。

 

 

通常こうしたデモは、企業や公務員の労働組合、

あるいは政党の呼びかけなど、主体になる組織があって、人が集まってきます。

 

今回はFacebookなどネットを通じた、ある種自然発生的なデモ。黄色いベストは誰でも買える(か、車にすでに積んである)し、燃料の値上げは誰でも気になることもあって、どんどん拡大していきました。

 

そこに、最初はマクロン政権側も強行な態度を示して「政策変更はない」と強調したあたりから、運動が反マクロン運動に傾いていった感があります。

 

 

そもそもこの運動に参加する人たちにはマクロン大統領の政策に不満を持つ層が多くいます。大統領は裕福な層の人、しかも就任してすぐに富裕税の減税(富裕層の金融資産への課税を免除)をしたこともあって、「金持ち優遇」政権というイメージがつきまといます。

 

先のオランド社会党政権では、富裕層への課税強化を図り、所得税の最高税率を75%にしてさらに富裕税も取ろうとしていたので、高額所得者が国外に住所を移したり、国籍を変えたりということが起こっていました。

 

マクロン政権では富裕層の国外流出を防ごうと、この課税をちょっと緩めたわけですが、これが不評に。大統領自身の持つ根っからのおぼっちゃん的性格や政治家としての経験不足というイメージもあって「庶民のことをわかってない」という反応につながりやすいのかもしれません。

 

 

 

増税反対!から政権打倒!へ。

 

そして12月1日のシャンゼリゼでのデモ。

 

image : ouest-france

 

その前の週あたりから、ややデモが先鋭化して、催涙ガスが使われたりしたのですが、この日のデモは全世界に報道されるほど激しいものになりました。

デモ隊がバリケードをつくり、車やバイク、ゴミなど燃えるものに火をつける、そして店のショーウィンドウを壊し、最後には略奪まで起こりました。完全なカオスです。

 

しかし、実はこれを起こしたのは、暴動のプロ、こちらでいう「壊し屋」が関わっているとされています。暴動の映像を見ていればわかりますが、かなり組織的に破壊活動をしていることがわかります。しかも容赦なく。少なくとも草の根で運動をはじめた純粋な「黄色いベスト」の人たちができることではありません。

 

これには極右や極左のいわゆる政府転覆を狙うような人たちが関わっているとも言われますが、それはさておき、ここから「黄色いベスト」運動の質が変わっていったと思います。

 

さすがにマクロン政権もびっくりしたのか「暴力は許さない」としながらも、

燃料税増税の凍結を発表してしまいました。

 

このとき、個人的には「やっちゃったなぁ」と思ったものです。

 

なぜかというと、一つは、「デモで破壊行動をすれば政策が変わる」という悪い前例をつくってしまったこと。もう一つは、もうすでに黄色いベスト運動が「燃料税反対」から「マクロン政権打倒」に変質したあとだったからです。

 

 

案の定、黄色いベスト運動側からは、

「燃料税凍結は当然だ。我々の目的はその先にある」

と運動を続ける声が続出しました。

 

 

いまや運動は「政権に不満のある国民はみんな立ちあがれ」という雰囲気になっています。ニュースのインタビューなどで聞くと、不満の内容はみなバラバラ。国民みな、何かしら不満や不平はあるわけで、それがすべて政権批判に向けられれば、政府も身動きがとれなくなります。ましてやその不満の根本原因は、政権というよりフランスの社会・経済の構造そのものに関わるものだったりします。

 

 

「大企業が稼げれば国民も恩恵が受けられるといってるが、企業が儲けるばかりでぜんぜん庶民の暮らしはよくならない。」どこかの国で聞いたことのある話が、フランスでも一般の国民の声としてあがってきます。確かに経済格差は明らかです。

 

 

マクロン政権側にも落ち度があったかもしれません。燃料税の増税はそれがわずかであっても消費者には痛い政策。かなり丁寧に説明をしないと、それがどれだけ地球の未来に大切であったとしても、反発は必至です。それだけの説明が事前にあったかどうか。実は住民税の減税・廃止など、庶民の側にたった政策もいろいろあるのですが、まるで忘れられたかのようです。

 

地球温暖化対策はまったなしの課題ですが、生活が苦しいと思っている人には「地球よりも自分たちの生活」の思いもあるでしょう。都市部で車をあまり使わない人は地球温暖化対策にも賛成な人が多く、地方で毎日車を乗る人は生活が厳しいから環境対策には興味ない。そういった「都市と地方の所得の差&感覚の差」も、今回の運動の水面下にはあります。

 

 

昨年の春から大盛り上がりを見せたフランス国鉄のストライキが、夏休みに入るとぴたっとやんだように、クリスマス休暇でしっかりお休みに入った「黄色いベスト運動」。このまま終わるのかと思いきや、新年最初の土曜日にまた騒動は起きました。

 

デモの参加者こそだいぶ減ったものの、パリやボルドーでデモがはじまり、最後はやはり「壊し屋」が登場。今回はサンジェルマン大通りという、これまた観光客や有名ブティックの多い通りでバイクやもみの木を燃やし、ひと騒動です。

 

 

あまり物を買わないフランス人がほぼ唯一ちゃんと消費をするのが、

クリスマス商戦と年2回のセール。

この大事な時期に繁華街で暴動が起きてきたので、

フランス経済には大きな打撃です。

9日から始まった冬のセールも、出足が悪いようです。

 

1月10日の意識調査では、黄色いベスト運動の継続を支持する国民の割合が50%まで減ってきました。運動家の思いには賛同できても、ここまで暴力的な騒動が続き、国の安定が損なわれるのならやめてほしい、という思いがようやくこうした数字にも表れてきた感じです。

 

来週からは政権側が「国家討論 Débat National」と名づけた対話が始まります。

ちょっと的外れな感じもしなくもないですが、国民の「黄色いベスト」運動激化への違和感とあわせて、なんとか騒動をおさめてほしいところです。

 

 

 

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