今の若いコたちにはわかるまい。
おぢさんが子供の頃は、モノだった。
正しく言うと、モノラルだった。
そう、ステレオではない。
レコード。
これも、最初は「てんとう虫」とかなんとか言う名前の電気蓄音機またはプレーヤーと呼ばれる機械で再生していた。
もちろん、出てくる音はモノラルである。
やがて、世の中にステレオなる音声再生システムが普及し始める。
が。
ステレオとモノラルの違いなぞ知らない庶民には、そんな違いがあるなんて実感としてわからない。
けど。
そのうち、TVにもステレオ放送なんかが幅を利かせてきて、<音声多重>なぁんてインジケーターが赤く灯ったりなんかし始めた。
庶民も、じわじわとステレオとモノラルの違いなぞに目覚め始める。
そんな折、ボクは念願叶ってラジカセを買ってもらった。
もちろん、ステレオ方式である。
当時「ステレオ」と言えば今でいう「コンポ」の大仰なサウンドシステムのことを指していた。
なので、ボクは買ってもらったこのラジカセを、音声多重のラジカセだと認識していた。
FMでエアチェック(この言葉も死語だなぁ)した曲。これをカセットテープで再生してみる。
ボクが買ってもらった当のステレオラジカセにはモノラル再生とステレオ再生を切り替えるスイッチがついていたので、そりゃ早速試したわいな。
部屋の隅っこにラジカセを置いて、その目の前に頭が来るように寝そべり、再生ボタンをオン!
今まで聴いたことのないような臨場感を持って音楽が再生される。
右腕を伸ばし、スイッチを操作してモノラル再生に。
「うんうん。これはたしかにモノラルだ。音が平べったいね。」
と確認し、
今度はスイッチを元に戻してステレオ再生に。
「うんうんっ!やはりステレオはすごい!まるで音に包まれているようだ!」
と感激。
こんなことを繰り返しているうちにボクは音に夢中になってしまい、スイッチをモノラル⇔ステレオと何度も切り替えながら、再生されていた曲をいつの間にか大声で歌っていたのだった。
ふと人の気配を感じて振り返ると、そこにはなにやら異変を感じて2階に上がってきたおふくろが。
二人の間に漂う気まずい沈黙・・・。
やがて、おふくろは上ずった声でこう言った。
「なんねぇ、音楽聴きょーたんか。気が狂うたか思うたわ・・・。」
あれから30年弱。
おふくろは、ボクが正気に戻ったと思ってくれているのだろうか。
謎ではある。