1985年初版、不調で本が読めないのでかつて読んで感慨深かったものをご紹介します。

時は1866年、南ドイツ連邦諸国とドイツ統一を目指すプロイセンとの間に戦端が開かれます。ブランケンブルク公カール・デステは勝利を確信し居城で巨匠ワグナーを招いて大オペラ会を催します。ところがそれも束の間、プロイセン軍が国境を突破したとの報せが!大公はパリへ亡命することを決意します。ワグナーと最後の引見をした彼は上演されなかったオペラの題名を聞きと胸を突かれます。「神々の黄昏」!それは北欧神話に題を取った世界の終わりを示す物語。ミクリガルズルの大蛇と戦って雷神トールは息絶え、神々の王オーディンは怪狼フェンリルに呑まれてしまいます。そして巨人スルトルの出す火炎で世界は焼き尽くされてしまうのです。古ゲルマンの王は神々の子孫とされており、その系譜を引くと自認するカール・デステにとってはなんと不吉な符合だったことでしょう。

舞台はパリに移ります。そこでなんと弟ヴィルヘルムが公国を占領したプロイセンによって大公にたてられたとの報せが!もはや彼はお飾りですらない廃位された君主なのです。カール・デステに残されたものは病的なまでのプライド、有り余る財産でした。あとは狂ったような放蕩へ一直線です。彼の子供たちも親から放っておかれたためロクなことにはなりませんでした。インチキ賭博、近親相姦、親殺し未遂、それにイカサマ師上がりの侍従アルカンジェリと腹に一物ある元歌姫の愛妾ジュリア・ベルクレディの2人が思うさまカール・デステの小宮廷を引っ掻き回します。

彼の最後は悲惨の一語に尽きます。王侯の時代は既に過ぎ去り金融もユダヤ人やアメリカ人に握られている、何せドイツ皇帝が会釈を賜ったのはカール・デステではなくユダヤ人金融業者だったのですから!卒中で彼が死んだあと、王侯の習わしに従ってその臓器は壺に納められます。しかし防腐処置のまずさから壺の中で発酵してしまい、その臭いが会葬者をぞっとさせます。これ程に悲惨な人の死の描写を僕は他に知らないのです。

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