2018年初版、3月31日に「後醍醐天皇」森茂暁著(中公新書)をご紹介しましたが、今回は日本文学者から見た後醍醐天皇の評伝です。兵藤先生は岩波文庫版「太平記」(全6)に校注を施された方であります。

一読して思うことは極めて冷静に史実を取り扱っていらっしゃるということです。「護摩の煙の朦朧たる中、揺らめく焔を浴びて、不動の如く、悪魔の如く、幕府調伏を懇祈する天皇の姿を思い描いて、(鎌倉幕府首脳部は)身の毛をよだたせたのではなかろうか」という百瀬今朝雄氏の一文は網野善彦氏の「異形の王権」に引用されて有名です。ですが実際のところ、在俗のまま密教の修法を執り行うのは後醍醐天皇の父帝後宇多院に始まったことで後醍醐天皇はそれに倣っただけということでした。天皇の着る黄櫨染の服の上に袈裟をかけ両手に密教の法具を執るという一見「異様な」肖像画も四天王寺蔵の聖徳太子像に先例があるとのことです。

読者を煽るようなことを書かなくても読める本は書けるものだと感じ入った次第です。

本日もお付き合い下さりありがとうございます。