僕が本格的に怪奇幻想の世界に踏み込んだのはこの本に導かれてのことでした。中島河太郎・紀田順一郎両先生の編集です。前者はミステリ界の生き字引と言われた方であり、解説に編著に枚挙に暇がありません。後者はかの「日本の書物」ちくま文庫を著した方であり、一流の本読みとして名を馳せた方であります。

執筆者には小酒井不木、江戸川乱歩、大下宇陀児、夢野久作、小栗虫太郎といったビッグネームが名を連ねるかと思えば半村良、久生十蘭、柴田錬三郎、野坂昭如、山田風太郎といういずれ劣らぬ実力派の面々、更には杉村顕道、松永延造、長田幹彦などの今では忘れ去られた作家まで、その視野の広さと選択の確かさには脱帽のほかありません。二段組み、689ページにのぼる大冊ですが読み進めるにつれ引き込まれてしまうこと請け合いです。従前には2冊本だったと記憶していますが1冊本の方がなにかと便利でしょう。88年の出版ですので興味を持って下さった方は「日本の古本屋」などで検索してみることをお勧めします。