時は1930年、英領インド帝国はボーポール藩王国において大王(マハーラージャ)が要人たちを迎えて大晩餐会を催す。あたかもエイプリルフール、マハーラージャの悪ふざけはとどまるところを知らない。英国副総督を始めアメリカ人実業家に至るまで皆振り回される。そんな時マハーラージャが銃の暴発で死亡するという大事件が!しかもそれは銃に細工をしたことが明らかだった……。

怪しい人間はたくさんいる。イギリス人女性と結婚したいと言って父王の不興を買った王太子、財政上の問題からマハーラージャと微妙な関係にあった宰相、日頃からマハーラージャの言動を苦々しく思い藩王国の取り潰しすら考えていた副総督、せっかく竣工したダムを猟場がダメになるから使わせないと言い渡されたアメリカ人技術者等々……。

そこへ呼ばれたハワード警視は慌てず騒がず捜査を始める。彼は決して名探偵ではない。彼が注目するのは小さな事実の積み重ね、広大な王宮をたった一人、コツコツ歩き回って事実を求めるのである。関係者一同(読者も)が我慢の限界に達した時、何を思ったかハワード警視は再び大晩餐会を開くことを要求する。それも細部に至るまで同じものをと。彼の意図やいかに、本当に犯人を見つけられるのか?

名探偵のいない推理小説もいいものだと思った一冊です。ハヤカワ文庫ミステリーからも出ています。

「マハーラージャ殺し」キーティング著 真野明裕訳 早川書房