帯文に「アホで間抜けなナポレオンⅢ世」はおお間違い!とあります。別にアホとは思っていませんでしたが、伯父の大ナポレオンの栄光にまぎれて政権を盗み取り最後の一歩でしくじった不幸な陰謀家だという印象がありました。余りパッとしない人物ですね。
ところがところが、題名の奇抜さと鹿島先生の名前(王妃マルゴの名訳で知っていた)に惹かれて読んでみると実に面白いのですねこれが。漁色家、放蕩家、陰謀家、これは弁明の余地がない。けれど実に人間臭いのです。皇后のウジェニーの目を忍んだり後釜を狙う従弟のナポレオン親王と対立してみたりと濃い面々に取り巻かれて結構苦労しております。
一番意外だったのは現在のパリを造ったのが皇帝とその意を受けたセーヌ県知事オスマンだったということ、デパートに象徴されるような消費資本主義も皇帝の方針で一方社会的弱者の救済にも意を用いていたことです。このへんはゾラの諸作品を参照していただいた方が良いかもしれません。「獲物の分け前」「居酒屋」「ナナ」などですね。
最後のプロイセンとの戦争にしても膀胱結石という病を抱えてのこととすれば割引いて考えるべきでしょう。とにかく、一個の人間絵巻として充分読みごたえのある一冊です。現在は講談社学術文庫から出ています。なお、関連して中公新書「ナポレオン四代」も興味深い読み物です。