1866年プロイセン対南ドイツ連邦諸国の戦雲急を告げるなかブランケンブルク公国の君主カール・デステ大公は居城でオペラの特別公演を催す。弟ヴィルヘルムがプロイセン軍を制し戦況は我が方に有利と思われたのだが…訪れたのは突然の破局。大公は家族と共にパリへと亡命する。

国を失い権威の座から滑り落ちた君主は飾り物ですらない。彼に残されたのは浪費と放蕩の日々、息子たちも賭博詐欺・近親相姦・親殺し未遂等々運命の車から転げ落ちて行く。ワグナーが大公に告げた未演のオペラの題名は「神々の黄昏」、亡命直前に聞いた一言は一族滅亡の予兆ででもあったのか…。

最後の時が訪れたカール・デステの身は悲惨の一語に尽きる。僕はこれ程残忍な人の死の表現を知らないのである。1985年刊。