その1に続きまして、アイスダンスの記事です。
今大会はいつものシニアのカップル競技だけでなく、ジュニアのアイスダンスが全日本の日程に組み込まれました。結果的にジュニアのアイスダンサーの演技が大観衆の前で披露される機会が生まれました。
ジュニアアイスダンス編
杉本瑞歩/熊野英輔組
(RD4位:37.94、FD4位:55.00、総合4位:92.94)
男性の熊野英輔くんは過去に別の人と組んで全ジュニにも出場したこともあります。杉本/熊野組としては組んで1年目ということもあり、予選会の時と同様に要素をこなすのに少し大変そうな感じもありましたが、RDの3分間およびFDの3分30秒を滑り続けることそのものには特に問題を感じませんでした。RDのChoo Choo Train⇒Loveマシーンは腕をくるくる振り回す振付が多く、大変会場を盛り上げてくれました。
吉田菫/小河原泉颯組
(RD3位:50.86、FD3位:78.39、総合3位:129.25)
まだジュニア2年目なのにもはや言わずと知れた「すみいぶ」です。ただ、こういう予選会以外の全日本の名前が付く大会かつ大観衆で滑るのは恐らく初めてだと思います。ゆえに実は初めて見るという観客も多かったのではないでしょうか。
滑るスピードの調整という意味では苦戦気味という風に見えましたが、ホールドチェンジのスムーズさというのはよく見えました。FDのワンピースはまさに若いアイスダンサーが勢いで滑りきったという演技でした。日本国内でジュニア2年目のアイスダンサーの勢いのある演技が見られるのは大変貴重な体験だと思います。
柴山歩/木村智貴組
(RD2位:54.33、FD2位:83.31、総合2位:137.64)
こちらは逆にアイスダンス経験が2年前までほぼないという状況で、そこから2年でどんどんアイスダンスにこなれてきているという感じがします。FDの最初のワンフットターンを見ると、スケーティングの揃い方や伸び方が2人で揃っているように見えるし、カーブリフトのコンボを見ていると、男性のしっかりした土台の上での女性のポジション変化のスムーズさもうかがえます。あゆとも組がジュニアに残れるのは2027-28シーズンまでなのであと2シーズンです。少しギリギリな気もしますが、今みたいに出来ることを少しずつ増やすというペースのままでいるのが大事な気もします。
山下珂歩/永田裕人組
(RD1位:54.42、FD1位:85.78、総合1位:140.20)
こちらはジュニアラストシーズンの組です。2020-21シーズンから全日本ジュニアの予選会~全ジュニに参加しているので、実に6年間ジュニアダンスに臨んでいるということになります。スケートのパワーというよりは2人で組みながら踊るという点においてジュニアダンス4組の中で群を抜いて上手だと感じました。単純に大きな会場の大きなリンクの中で見た時の見栄えの良さがあります。苦節6年、ジュニアラストシーズンで世界ジュニア代表ということになりました。シニアに向けて良い弾みになることを祈ります。
アイスダンス編
浦松千聖/田村篤彦組
(RD5位:50.93、FD5位:80.62、総合5位:131.55)
今年3月に愛知県知事杯をもって引退したと思っていた浦松さんがまさかまさかまさかの形でアイスダンス参戦となりました。男性の田村くんはシニアデビューシーズンで新カップルとして再出発となりました。まさかこのカップルで全日本で見られることになるとは…笑
浦松さんはアイスダンスを始めてまだ半年程度ということもあり2人で滑るという動作はもう少しという感じも見えますが、RDでは明るく踊り、FDでは美しく動くという元来浦松さんが持っていた良さがアイスダンスでも表れていました。ツイズルはRDではワンフットで実施し、FDではジャンプの入り&サードツイズルにすることでツイズルの形そのものをシンプルにするという作戦に出ました。組んで初年度でこのようなこだわりが出来るとは。
紀平梨花/西山真瑚組
(RD3位:57.44、FD4位:86.97、総合4位:144.41)
こちらもこちらでまさかまさかまさかの形でアイスダンス参戦です。紀平さんは2022年以来の全日本参戦、西山くんは昨季田中梓沙さんとカップル解消をしてからの流れで全日本参戦、凄い巡り合わせでのタイミングだと思います。
紀平さんの場合そもそもアイスダンスを始めたのが9月という状況とは思えない動きでした。そういえばシングルの時代からも音楽のテンポを「点」として捉えるのが上手だったなぁというのを思い出しました。音楽に合わせて滑るというのが肝になるアイスダンスではとても重要な能力だと思います。
特にFDの方ではまだまだこなれていない様子もいくらか見られましたが、この後数年スパンでどうなるかを見守っていきたいと思いました。
佐々木彩乃/池田喜充組
(RD4位:54.09、FD3位:92.13、総合3位:146.22)
先日のJGPFの銀メダリストのアンブル/サムエル組を同じチームのカップルです。日本国内のアイスダンスカップルからまさかフランス本場の空気のアイスダンスを味わうことになるとはという思いです。
そのアンブルサム組はFDでターザンを荒々しく演じていましたが、あやみつ組のFDのノートルダムドパリはそれに近い荒々しい空気でした。ホールドの種類も豊富でダイナミックな曲線の動きも多く、5組出場していた中では個人的に最も多様な動きを取り入れていたと感じています。スピードという点では上位2組には少し水をあけられている感じもしますが、あやみつ組も組んで3年目で地道に上手になってきていると感じました。
櫛田育良/島田高志郎組
(RD2位:64.99、FD2位:100.76、総合2位:165.75)
こちらもまた組んで1年足らずとは思えないカップルです。しかも2人ともアイスダンス経験はないという状況からいきなりゴールデンスピンに出場です。五輪&四大陸のミニマムこそ獲得は出来なかったものの、アイスダンスとして上手さを早くも感じました。
もともとシングル時代からスケートのトレースやスケートのコントロールは上手な2選手でしたが、2人で組んで滑ってもその特性が失われていないのが良いです。2人が滑るスピードがある程度合っているので、上半身の動きも大きく美しく出来るのかなと感じました。FDの途中で見せるコレオスピンが見せ場の一つになっているところも素晴らしかったです。
吉田唄菜/森田真沙也組
(RD1位:68.78、FD1位:103.51、総合1位:172.29)
9月からCS木下杯⇒五輪予選⇒CSトリアレティ杯⇒NHK杯に出場していて、全日本で既に5試合目となっています。例年にないくらいのペースで試合に出場していますが、女性の怪我もあったり試合ごとに試行錯誤をしていたり、なかなかすぐに結果に結びつかず、恐らく本人たちが一番もどかしく感じていると思います。
うたまさ組の良さは2人ともスピードが速く出せるところと、上半身の動きを大きくダイナミックに動かせるところです。その良さは観客席で見る分には分かりやすく伝わってくる良さです。一方で、2人で組んで滑る際にそのスピードが合わずに手や体を繋いで滑る時に2人の距離が少し離れたり近づきすぎ、それで2人が引っ張り合う力が見えてしまうという点がここ3年くらいの課題であるように見ておりました。
その観点で全日本選手権の演技を見てみると、2人で滑る距離にはとても気を配って滑っているように見え、少しスピードを抑制しつつコントロールしようとしているように感じました。
今季が五輪シーズンであったこともあり、今季の中でどのように仕上げて力をつけてくるかというところに目が行きがちですが、しかしながらうたまさ組単体の成長曲線を見えていると、本当は次の五輪サイクルくらいのところで上手くかみ合ってくるのではと思いながら見ています。今の世界トップ層のアイスダンスカップルも(特殊例こそありますが)ほとんどが4年とかで上手になったわけではなく、10年単位で上手くなっていったと考えています。もうとにかく焦らず見ていくことが一番大事だと思います。
総括
アイスダンスは日本国内の場合拠点がシングルと比べて少ない、いざアイスダンスをやろうとしても相性の良いパートナーを見つけるのが大変、組んだとしても2人の方向性がずっと同じとは限らない、方向性が同じでもなかなかすぐに結果に結び付くとは限らない、いざ合わなくて解散しても新しいパートナーが見つからない可能性が高い…など、やはり他国に比べて課題は山積している状況です。
その状況下で今大会はジュニア4組、シニア5組が出場し、アイスダンスだけでかなりの盛り上がりを見せました。各カップルの個性がよく表れていたのはもちろんですが、今大会の大きな特徴はシングルからアイスダンスに転向して早くも形になっているカップルが多かったというところにあると思います。
この状況を見ていると、実は日本国内でもアイスダンスの拠点とノウハウさえ整えばアイスダンス強豪国になるポテンシャルそのものはあるのかなと感じました。シングルでも根本的にスケーティングが上手な選手が多いので、それを1人でジャンプエレメンツ等と合わせる方向に活かすのか、2人でホールドしながら滑る方向に活かすのかという違いなのかなと思います。
すぐに拠点が増えることは難しいとは思いますが、とにかく全日本で盛り上がるくらいにアイスダンスカップルが今後も出てくることを祈っています。