にのちゃんとの妄想小説です。BLではありません。女性との絡みがあります。苦手な方はご遠慮ください。




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壇上からはひとりひとりの顔がよく見えた。




険しい表情の人、隣の人とこそこそ話している人、頷きながら私をまっすぐ見てくれる人、資料に目を落として何かメモしている人……




会場には400人ほど集まっている。全ての人に理解してもらおうとしなくていいのだと、二宮さんが教えてくれた。





でも。ひとりでも多くの人に伝えたい。欲張りかもしれないけど。





誠心誠意、ありったけの思いを込める。でもそれが鼻につかないように、口調は抑えて。




自分でも不思議なほど落ち着いて、私は話すことができた。





「……以上でご説明を終わります」





全ての説明を終えて、しっかりと顔を上げて深く礼をする。





この後は質疑応答だ。司会の方に視線を送ると、司会がマイクの電源を入れ口を開く。





「ではここで、試行的にこの活動に取り組んでいる社員を紹介致します」





……え?





「第三開発部、坂本課長」





舞台袖から、環境部のつなぎを着た坂本マネージャーが颯爽と歩いてきて私の隣に立つ。




「人事部、田中係長」





司会が次々と名前を読み上げる。環境部の活動と紐づけるきっかけになった、第三開発部時代友人も出てきた。





「衛生管理部門、畑中照子さん」





「二宮会長」





会長まで…⁈会長はつなぎを着てにこにこしている。





「最後に、活動の中心となって本城と動いている、二宮顧問」





二宮さんが。





ベージュのつなぎを着て。





いつもの、あの穏やかな笑みを浮かべて。





私を見つめて。





真っ直ぐに、歩いてくる。





はじめに呼ばれた坂本マネージャーは、私との間にひとり分のスペースをあけていた。





二宮さんはそこにするりと入って。その手にはマイク。





「本日はお忙しい中、足を運んで頂き誠にありがとうございました。さっそく本題に入らせていただきますが……」





私は呆然と二宮さんの美しい横顔を見つめた。





二宮さんは落ち着き払ってすらすらと話す。




大宮工業のOBである株主に向かって、大宮工業の礎を築いてくれたことに敬意を示しながら、今が大変革期であることもまた強く伝え。





変化を厭わず挑戦する大宮工業を支えてもらいたい、と依頼する。





「この若き面々が今後の大宮工業の主となり、そして社会の礎になっていくのです。





ご存知のとおり日本は高齢化社会の一途を辿っています。少子化を食い止めるための政策もいくつも出て来てはいますが、国にだけ頼っていてはこの社会は潰れる、私はそう考えています。





働きたい人に存分に働いてもらい、働き過ぎている人を潰さないようにきちんと休みを取る、そして余暇を有効に使う、子育てを母親だけに任せない、





そういった働き方は地域の活性化にも繋がっていきます。





どうか皆様、ご協力をお願い致します。そしてここで新しい試みを発表させていただきたい。





大宮工業の株主の方、またそのお身内の方で、大宮工業で働いてくださる方を募ります。職種、勤務時間、なるべくご希望に沿っていけるように考えております。





夢物語ではなく、誰もが自分の人生を選択的に歩んでいけるよう、我が社は改革を進めていきます。どうぞよろしくお願い致します」





二宮さんが頭を下げると同時に、他のみんなも、会長も頭を下げるから。私も慌ててそれにならう。





「ではここから質疑応答に入ります。ご質問ご意見のある方は挙手願います」





司会の方がようやく質疑応答の宣言をした。やっと私が知らされていた会の流れに戻ったということだ。





二宮さんは…私に内緒で。





坂本さんや人事部を登壇させて。そしてこれこそ急遽だったに違いないのに、環境部のつなぎを着せて……





大事に手のひらにのせておくというやり方ではなく。





私を最大限に高めるような。そんな、支えを。





会場からの質問には、殆ど人事部が答えてくれた。私でないと答えられないことなどない。しっかりと詰めてきたから、その道のプロである人事に答えてもらう方が信頼度が高いとの判断だろう。





最後に、この制度改革の専用ダイヤルと、メールアドレスを公開して株主総会は無事に終わった。