大学生の時、必修の保健の授業で、若い男性講師の先生が、女子学生に向かって、もし子どもを複数欲しいなら、20代の内に一人目を生んでおいた方が良いと言いました。テーマに沿った発言でしたが、あまりにストレートだったので、講師の顔も名前も覚えていませんが、その発言は私が婚活中も結婚後もずっと脳裏に残っていました。

 

 40歳を過ぎると受精の確率が落ちたり、流産のリスクが高まったり、胎児が健康でない可能性が上がったりという情報に、結婚前の人が触れる機会はあまりないと思います。実際、私も、そういった情報に触れたのは、妻が第一子の妊娠後、妊娠についていろいろと調べていた時でした。複数の子どもを望んでいた妻と私は、年齢の制約をよく意識して、その後の家族計画を立て、妻が35歳までに二人目を妊娠したいという目標を立てました。

 

20代の頃、研究者の卵として学会に行くと、30代、40代の研究者が全然幸せそうではありませんでした。好きな事をやっているはずなのに。なぜでしょう。文系ポスドクは非常勤が多く、日本の婚活市場では男性に年収が求められるから、結婚したくてもできない人が多いと聞きました。私自身は、結婚して家庭を持ちたかったので、30歳で研究を中断して公務員になりました。

 

人生は取捨選択をしなければならない。やりたいことをやりたい、キャリアを築きたい、結婚もしたい、子どもも欲しい、趣味も謳歌したい、そんなの今の時代、全部叶うわけがないんです。

全てを求めるが故に、現代の人は余裕がない。時間に余裕がない、気持ちに余裕がない。

 

あと、これは日本の教育の大きな大きな責任だと思いますが、高校生の意識の国際比較調査にも表れているように、自分を好きになれない人が多い。もっと個人を尊重し、自由を尊重し、人権を尊重する教育に転換しなければならない。学級やクラス、集団や部活という呪縛から子どもを解き放つことが絶対必要。

 

そもそも、教員自身が自分を大事にできていない。多くの教員は自己犠牲を愛情だと勘違いしている。

私は当時、生徒に対してはっきり伝えていました。仕事中は本気でやる。なんでも質問・相談してください。でも、プライベートを犠牲にしてまで残業する気はないから、高校生諸君のノートのチェックなんてしないよと。有給休暇も完全消化して、その権利や意義を生徒に伝えていました。

 

自分が好きなら、人間は自然に何かを与えたいと思うんです。ポジティブなエネルギーは自分の小さな殻には留まっていられないから。そして、与えるという行為、その究極的な形は結婚であり、子育てだと思います。