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5月21日、毛皮のマリーズはメジャーデビューを果たした。

CDタイトルは「毛皮のマリーズ」。

己の名前をそのままに表わした今作に関し、志磨遼平は「名刺代わり」だと言っている。

今作は一回聴けばすぐに判る、60~70年代のロックンロールに匂いを彷彿させる、3コードの“ゴキゲンなロックンロール”である。

インディーズ時代、アルバム毎にサウンドもむしろジャンルすら変えてきたマリーズとしては、

メジャーデビューという華々しい始まりに対し、ストレートに勝負してきた、といったところだろう。

それは戦略的なことだとも思う。



先ほど“ゴキゲンなロックンロール”という表現をしたが、これは志磨遼平自身の言葉を借りたものだ。

そして、このアルバムを表現するのにそれほど適切な言葉もない、と素直に思う(そしてわたしはそれが悔しい)。

はっきりと言えば、このアルバムに新しいロックとしての発明があるわけでも、記録的なプレイがあるわけでもない。だが、ここには“昔のロック”の匂いを纏って、“素直に”ロックンロールすること、それ自体のきらめきがあるのだ。

(それまでに比較すれば)シンプルで、3コードで開かれる世界は、理屈なんかを飛び越えて心地よい。

それは音が肉体に素直に呼びかけ、肉体が素直にそれに反応するような、ごく自然なことだと思う。

ハッピーな音に不思議と笑顔になってしまう、音楽としてのごく自然な作用をこのアルバムは持っている。そしてその作用とに出会いを私は実に久しぶりに感じた、と思うのだ。

頭で考えた、指先や小手先でだけ作られた音はそこらじゅうに蔓延っているが、

ただただ素直にロックンロールすることが、ただただ素直に私たちを喜ばす、という

本当にシンプルな幸福があるのである。



ボニーとクライドは今夜も夢中 から始まり(このギターイントロからすでにこのアルバムの勝利だ)、

晩年 で終わるという 整えられたバランスは、実に見事だ。

志磨遼平の歌詞世界も変わらず秀逸であり、ベース・栗本ヒロコがヴォーカルを務める「すてきなモリー」はファンのみならず、全リスナーを喜ばす粋なトリックである。


毛皮のマリーズがメジャーデビューしたという事実と、

そのデビューアルバムにこの一枚が産まれたということは、

今この時代において 実に正しい ことだと 思える。

先ほどもいったが、頭や指先でだけで作られた音楽があまりに多すぎるこの時代において、

マリーズがこれを産み出したことは ”王道”の正しさである。

彼らが現在していることは、王道のロックスターのそれだとしか私には思えない。

長い下積みを経た彼らは、その間に身に付けた筋肉を、今まさにロックンロールの足りない世界を壊すために奮おうとしている。そして同時に、担おうとしている。

“新しくなくたっていい、「おもしろい」時代がまた来そうな気がします。”と公言した志磨遼平は確信犯だ。

そして私は、彼らの企みを支持するのだ。









ただひとつ、ひとつだけ言いたいことがあるとすれば、私の個人的な嗜好、それの問題である。

「戦争をしよう」で音楽シーンに登場した彼らだ。

ここでいう「戦争」とは、“イライラしっぱなし”の世界を“壊す”ための戦争、そしてそれは毛皮のマリーズとしての“ロック”だと私は思う。

彼らの無尽の破壊力はパンクだった。

イライラしっぱなしの世界をブチ壊すだけのエネルギーとリビドーと熱気が満ち溢れて、聴くだけで、その熱気があふれだしヒリヒリするような思いをした。

そしてそのヒリヒリした感覚こそが、私を刺激し、彼らにとりつかせたように思う。

彼らがゴキゲンで素直なロックンロールでデビューしたことは実に正しいが、

彼らのその熱気は、“ゴキゲン”だけで済まされるものではない。

私のような人間は、軍服を着て戦争をしよう、などと言う危なげな彼らの佇まいすら愛していたし、

そんな危なげなことを“しないで居られない”ほどのイライラした彼らの気概に圧倒的に共感していたのだ。

「毛皮のマリーズ」を聴いて、私は踊ることができる、笑顔になれる、幸福になれる。私はそれを全面的に肯定する。それはたしかに正しくて、実にバランスの取れたものだと思う。


だけど100点なんて叩き出さなくていい。

私はマリーズからは、点数からハミ出さずに居られないどうしようもない熱さをおぼえたい。


最初に言ったが、彼らにとって今作「毛皮のマリーズ」は戦略的なものでもあるとわたしは思う。

3コードのシンプルなロックンロールという名刺、彼らはそれで勝負してきた。そしてその勝負は、(わたしから見れば)華々しい勝利だったと思う。

だからこそ、わたしはその勝利を壊す破壊力に、彼らから出会いたいのだ。



だが確信犯・志磨遼平であることだから、わたしは次回作にも惜しみない期待をしているし、今作にも大きな賞賛を贈りたいのだ。

まずは今週始まるツアーから、彼らがどんなパフォーマンスをするのかを見届けたい。