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2006年1月から同年11月までの間に、
ウェブ小説の第一作目「サイレント」を書いた。
約半年間かけて、2007年4月には、
「1999 ~外れた予言~」を書き上げた。
その後「Lv.9 (レヴェル・ナイン)」という小説を、
少し書きかけたのだが、諸事情でボツにした。
「Lv.9」制作のためにあらかじめ用意していた、
登場人物その他の様々な裏設定ノートがあったのだが、
それをふと読み直してみたら、意外と面白かった。
この「スタイル」は、
その「Lv.9」のための裏設定ノートを元に、
2008年2~4月の間に新たに書いた。
ほとんど同時に、
別作も並行して書いていたが、
二つとも2008年4月下旬に出来上がった。
勝っても喜ぶなと、
かつて何度か口にしてみた。
だいたいは不思議な顔をされた。
嬉しい時に喜ぶことがなぜ悪い、
俺はこれで何十年もずっとやってきた、
そういう反論を耳にした。
素直で正直な心は武器だと、
アンタいったじゃないか、
じゃあ素直に喜んでもいいはずだ、
そういわれたこともあった。
勝っても喜ばない。
きっとその方がいい。
その一勝は、
連続して百勝しなければ退けられない者との、
最初の一勝にすぎないかもしれない。
勝ったと思ったのは何かの誤認に過ぎず、
相手は密かに無傷なまま、
こちらへの反撃を狙っているかもしれない。
倒した敵が本当に消えたのだとしても、
その瞬間に新たな別の誰かが、
油断した勝利者を攻撃することもあったりする。
しかしおかしな話だ。
勝ったら喜ぶという人たちは、
戦っている時は喜んではいないのだろうか。
勝負の決するまでのすべての時が、
喜びに溢れているとは考えないのだろうか。
いつも喜ぶ。どんな時も。
そうすれば勝って喜ぶことはなくなる。
「P、あれはどうなった?」
「やってるよ」
「そうか、任せる」
「それだけ?」
「ん?」
「Zはいつも適当なことしかいわないね」
「ん?」
「ケツも叩かないけどホメもしない」
「んー」
「超放任主義」
「うん」
Pは若い。そして有能。
だいたいZの半分くらいの年齢。
「まだ別のもいたな」
「そっちは手が回ってない」
「P、まさか」
「え?」
「手伝えって思ってないか?」
「はは」
「あのな」
「悪い?」
「んー」
「Z、ちょっとだけ手伝ってよ」
「んんー」
PはZの重い腰を上げさせた。
普段のZは割とのんびりしている。
Pにはそれがじれったい。
いつでもどんな状況でも、
Zは妙にのんびりと呑気なままで、
Pにはそれが理解できない。
知り合ってもう何年もたっているのに。
(中略)
「びっくりした」
「ん?」
「Zが死んだと思った」
「死んでない」
「死んだフリ?」
「フリでもない」
「......」
「P、あのな」
「え?」
「あれが死んだように見えたんなら...」
「......」
「少し問題があるぞ」
「......」
PにはZのいうことが分からない。
「だいたいな」
「......」
「生と死の違いって何だと思う?」
「......」
Pにはますますよく分からない。
「まあいい」
「......」
「とりあえず手伝ったから」
「......」
「P、あとは頼むな」
「......」
Zは去ろうとした。
Pはそれを引き留めた。
「あいつはさっき...」
「ん?」
「Zのことを倒したと思った」
「んー」
「自信満々に勝ち誇った」
「うん」
「その直後に...」
Pはしばらく黙ってしまった。
Zもそれに付き合った。
Pは再び去ろうとしたZに声を掛けた。
「ずっと前にZが話してたのって...」
「......」
「自分自身のことだろ?」
「......」
「連続して百勝しなければ退けられないヤツとか...」
「......」
「密かに無傷のまま黙って反撃するヤツとか...」
「......」
「油断した勝利者をその瞬間に横から狙うヤツとか...」
「......」
「全部Zのことなんじゃないのか?」
Zは聞こえているのかいないのか、
はっきりしないままPの前から消えた。
どれほど強力な者が相手でも、
ひるむ必要はないし、怖れることもない。
全くその必要はない。
どれほど高位の者でも、
それ以上の上位者がいないという者でも、
畏怖する必要は特にない。
自分のストロングポイントをもって、
相手のウィークポイントを狙う。
これはひとつのセオリーであって絶対ではないが、
多くの場合、まず試みるべきだ。
弱みが全然ないように見えたとしても、
探せば何か弱点はあるものだし、
どうしても見つからない時は作ればいい。
短所とは長所の裏返しであり、
強みと弱みは表裏一体といえる。
困ったら、相手の強みを逆手に取ればいい。
こちらの発想を変えれば、それは可能となる。
ウィークポイントとは、
ストロングポイントのすぐ近傍にあるか、
ないしそのものだったりする。
「Zが今まで見た中で...」
「ん?」
「一番強かったのって誰?」
「んー」
「......」
「Qだな」
「Q?」
「文句なしにQだ」
Pは誰のことなのか皆目掴めなかった。
Zは遠い目をしている。
「そのQって人は...」
「うん」
「いまどこで何をしてる?」
「いまはいない」
「え?」
「去年の春に死んだ」
「死んだ?」
「そう」
「一番強かったのに?」
「そうだ」
「......」
「二年半かかった」
「え?」
Pは驚いた。二年半?
一体何が二年半かかったというのか。
「話せば長くなる」
「Z、教えてよ、全部」
「あのな...」
(中略)
「マジ、話なげーよ!」
「だからいっただろう」
「そのQは、たった一撃で30万人を殺したって?」
「......」
「Z、悪いけどちょっと信じられないな」
「信じなくていい」
「超肥満体のメガネのくせに綺麗な嫁がいたって?」
「それも信じなくていい」
Pは納得できなかった。
Zのいう文句なしに最強だったQという人間が、
なぜ死んでしまったのか。
「Qは高潔で高邁で高尚な男だった」
「......」
「それがQの最大の強みだった」
「......」
「次元の違うような高みにいた」
「......」
「ただその反面...」
「......」
「自分の立ち位置を絶対視していた」
「......」
「それがわずかなスキとなり...」
「......」
「最後は自らの高さが命取りになった」
「......」
Pは例によって、
Zのいっていることがよく分からない。
「鏡を使ったよ」
「鏡?」
「そうだ」
「?」
「鏡に写して高低を逆さにした」
「......」
「本来受けるはずだったダメージも逆さにした」
「......」
「Qはそれまで高い所にいることによって...」
「......」
「ずっと身を守ることができていたのだが...」
「......」
「最後は高い所にいたからこそ致命傷を負った」
「......」
「皮肉なことだ」
「......」
Pは煙にまかれたような顔をした。
詳しく聞き直したとしても、
多分Zはこれ以上は答えないだろう。
「自分を過信したらダメだよ」
「......」
「落とし穴は意外な部分にあるものだ」
「......」
Pは以前から知りたかったことを、
思い切ってZに尋ねてみることにした。
「Zの弱点って何?」
「は?」
「知りたい」
「弱点か、ものすごい弱点があるぞ」
「知りたい知りたい」
Pは身を乗り出した。
Zは笑った。
「ありえんほど美人に弱いんだ」
何があっても普通でいることには、
とても大きな価値があるのではないか。
何があってもだ。
怒らず、憎まず、悲しまず、不安がらず、
ただ穏やかに笑っているのがいい。
冷静に。
自分に何が起こっても、
周囲の人に何かが生じたとしても、
できるだけ平静を保って普段通りのままでいる。
お前は不良品であり失敗作であると、
恩人から酷評されたことが以前あった。
怒りや憎しみこそが、
最大の力を生む源泉なのであり、
お前は淡々としすぎていて力がないといわれた。
その酷評した人物が最高傑作と自慢していた、
怒りと憎しみでいっぱいの力あふれる若者がいた。
突出した何かの感情で波に乗ると、
瞬発的な力のピークを作るのには有利なようだった。
しかし、長期の仕事には不向きのように思えた。
コツコツと小さなことを延々と、
毎日毎時間毎分と積み重ねるような、
気の長いタイプの競合者を最終的に凌駕することが、
その彼にはできなかった。
若かっただけなのかもしれない。
彼には社会的な経験がかなり不足していた。
あと十年、
さまざまな経験を実生活を通じて得ていたなら、
最高傑作と評されたその彼は、
もっと違った結果を出したのかもしれない。
ただその場合、
溢れるような強力な怒りや憎しみが、
いつまでも枯れずに残っているものなのか、疑問だ。
案外、何の変哲もない、
淡々とした普段通りの人間になるだけかもしれない。
たとえ何があっても。
「強くなりたい」
「P、またそれか」
「どうすれば強くなれる?」
「そんなことつまらんよ」
PがZに食いついた。
Zは困った。
「おい、なんかあるだろ」
「知らんよ」
「Z、なんでもいいから」
「じゃあ、知ってる範囲でな」
「うん」
「強くなるってことは...」
「......」
「弱くなることだよ」
「ウソつけ」
「んー」
「......」
「じゃあ、言い換える」
「うん」
「自分の弱さを知ることだな」
「ウソだ」
「本当だ」
「それじゃわからないよ」
Pは真剣に悩んでいた。
毎日迷うように考えても出口が見つからない。
「あのな、自分は強いと信じた連中は...」
「......」
「みんな沈んでいった」
「......」
「いま残っているのは...」
「......」
「自分の弱さを知っている者ばかりだ」
「......」
「そんなもんだよ」
Zが何を話しても、
Pにはどうにも納得できない。
「P、そんなことばかり考えてると...」
「ん?」
「あのRのようになるぞ」
「R?」
「お前も知ってるだろう、Rのことは」
「ああ、知ってる」
PはRがどんな人物か知っていたし、
Rがどうなったのかも知っている。
「Rは自分の感情をコントロールできず...」
「......」
「象使いを失った戦象が...」
「......」
「小さな船の上で自制を失って暴れたかのように...」
「......」
「もろくも自沈していった」
「......」
ZとPは、共にRを回想した。
(中略)
Rには豊かな才能があった。
かつてRは半年近くの間、力の限り奮闘し、
そして倒れた。
「Z、俺はRみたいにはなりたくない」
「......」
「どうすればいい?」
「......」
「教えてくれ」
「んー」
「......」
「P、よくわからんけどな」
「......」
「Rの言動を思い出してみて...」
「......」
「その逆をいけばいいんじゃないのか」
「......」
「俺は最強だ! と口にしない」
「......」
「俺の力は絶対だ! と口にしない」
「ぷ」
「俺は何でもできる! と口にしない」
「うぷ」
「お前らはみんな虫ケラだ! などといわない」
「ぷははは」
Pは笑いだした。
「おいZ、Rってさ」
「ん?」
「最低」
「たしかに」
二人は大笑いした。
「Z、どうしたら感情をコントロールできる?」
「んー」
「教えてくれ」
「よくわからん」
「知ってることでいい」
「んー」
「......」
「P、いろんな経験を積めば...」
「......」
「きっといいんじゃないのか」
「......」
Pはイライラしてきた。
Zの話があまりに曖昧だったからだ。
「あのさ!」
「ん?」
「具体的にどういう経験をしたらいいんだよ!」
「んー」
「Zはどんな経験を積んでそんなボケキャラになった?」
「おいおい」
「白状しやがれ!」
Pは半ば怒り出した。
その横でZは呑気に微笑んだ。
「んー、例えばな」
「うんうん」
「実生活で人の死を100回以上は見ることかな」
「そんなのムリ!」
「人の生死のかかった修羅場を無数にくぐることかな」
「だからそんなのムリだって!」
「絶対死んで欲しくなかった人の解剖に立ち会うことかな」
「さっきからムリだっていってるだろが!」
自分以外の何かを信じたり、
崇めたり頼ったりすればするほど、
弱くなってしまう。
自分以外の何かを、
使役しているだの契約しているだの、
それらも同じことだ。
常に自分こそが矢面に立っているという感覚、
最終的な責任は全て自分が負っているという自覚、
重要な局面は自力で切り開いていくという意志、
結局はそれらが、
あらゆる困難を乗り切るための鍵になる。
自分以外の何かの庇護にどっぷりと浸かっていては、
それらは決して身に付かない。
普段の生活から、
矢面に立って責任を負って切り開いていく必要があるし、
それを何年も何十年も続けないといけない。
終わりなどない。
これでいいと、
安堵できるゴールがもし見つかったとするなら、
それは自ら掘った墓穴の中であるに違いない。
「P、今日はVとLの話をしよう」
「うん」
「Vは自称神でLは自称悪魔だった」
「知ってる」
「二人はそっくりだった」
「へぇ~」
「自分は多くの他者を従えるほどの者で...」
「......」
「かつ自分より上には強力な上位者が控えていると...」
「......」
「どちらも話していた」
「覚えてる」
VやLはZとほぼ同年代だ。
Pにとっては一回りか二回り上の世代にあたる。
「二人とも尊大で口がデカかった」
「......」
「行動が伴わない口のデカさだ」
「......」
「率先して下働きなどはしないタイプで...」
「......」
「辛いことは誰かにさせて自分は汗をかかない...」
「......」
「そんな連中だった」
「ふ~ん」
Pは名前の出た二人のかつての言動を、
じっくりと思い出してみた。
「二人とも似たような育ちだった」
「というと」
「いわゆるお坊ちゃんだよ」
「......」
「業界内にこの手の育ちの者は結構多い」
「......」
「しかもVやLと似たようなタイプになる」
「へぇ~」
「おかしな話だ」
「......」
PはZの本音を部分的に知ってる。
Zはお坊ちゃんが大嫌いだ。
「P、世界中の至る所に...」
「......」
「VやLの同類がゴロゴロしている」
「......」
「例えば...」
(中略)
「...ということだ」
「くか~」
「寝てるんじゃない!」
「んん~」
「ほら、強くなるための話だぞ!」
「えっ、どうするのどうするの」
Pの目が全開した。
「頼る心が身を滅ぼす」
「うんうん」
「自分以外の何かに頼ってはいけない」
「ふんふん」
「どこかに頼れる高位者がいるという幻想は捨てろ」
「ほいほい」
「P、いつものセリフになってしまうが...」
「......」
「神も悪魔もいない、人ばかりだ」
「......」
Pはもう聞き飽きていた。
「この言葉の意味はわかるか?」
「よくわかんない」
「一回だけいうぞ」
「一回でいいよ」
「P、肉体を持っている奴と持ってない奴...」
「......」
「どちらの方が手強いと思う?」
「え、どっちだろ?」
「俺の知る限りではな...」
「三次元世界で肉体を持ってる奴の方が...」
「......」
「間違いなく強い」
「えっ」
「本当だ、特に再生能力で比較にならない差が出る」
「......」
Pはにわかには信じられなかった。
「いまの話を...」
「......」
「別の表現で言い換えてみるぞ」
「......」
「トップランカーたちは...」
「......」
「例外なく全員がこの三次元的物質世界で...」
「......」
「人間として生きている」
「......」
Pは生唾を飲んだ。
「P、この次はSの話をするぞ」
「S!」
「そうだ、あのSだ」
「......」
「多くの業界人が万物の創世主だと思っていたのに...」
「......」
「実際はただの人として生きていた、あのSだ」
「......」
Pは思い出してみた。
Sが人間だったと知った時の衝撃を。


