話は横にそれましたが、いったん設立の日を決めると、それは仕事の「納期」となります。当然、その日をゴールに見立ててスケジュールを組むわけです。
そのさい、設立の数日前までに、いちど決めた資本金の額が払い込まれていないと、会社設立が予定日に間に合わなくなってしまい、大変なこととなります。したがって、出資者であるY氏と㈱A社には、払込の期限を正確に伝えなければなりません。
もちろん、金額も、2,500万円ずつというとても大きな額なので、用意する方も大変です。したがって、スケジュール決定の責任者となった私は、まだ慣れないこともあり、非常に緊張しました。
また、その他に大事なこととして、役所に提出するための書類を、法律の定めに従い作成するという業務があります。もちろん1字1句、細心
の注意を払って記載します。万が一、依頼者である㈱A社やY氏に見せる時に、少しの不備があったとしても、それは専門家として許されません。
なぜなら、提出書類には、出資者が役所に届け出ている「実印」という大事なハンコを押すことになるので、押印後に間違いがみつかったとしても、そう簡単にもう一度、というわけにはいかないのです。
ましてや、Y氏のように、遠い大阪に住んでいるような場合、わざわざ実印をもらいにこちらから書類を持って出向いていかなければなりません。それには先方のスケジュールのやりくり、長い移動時間と高い旅費など、ハンコ1つにとても大変な手間をかけるわけですから、「やり直し」は、事実上あり得ません。
今の話は、会社を設立するという、特殊な事例ではありましたが、資金の手当てと実印が必要な大事な取引には、さまざまなものがあります。
たとえば、会社が所有する株式を売却した時などは、法律の要件に照らして、「有価証券の売買契約書」を作成します。
株式の売買は、通常百万円単位から、数億円単位まで、はんぱではない多額の取引になりますから、株式を買う側としては、売買の日付にあわせて必要な資金を用意しておかなければなりません。また、重要な契約書類ですから、取引の当事者の実印を押すのが通常です。その時にも、売り手と買い手が近所に済んでいる、なんて都合の良いことはそうめったにありませんから、やはり事前の入念な段取りは不可欠なのです。
つまり、企業が出会うさまざまな場面で、いつまでに資金を用意し、いつまでに実印を持ち出して契約書などに押すかということが、いかに重要かお分かりいただけたと思います。
「金とハンコ」は、いろんなところで重要なのです。