「I/II期の手術不能例に対する初回治療」に限れば放射線治療の統計は整備されつつある。
が、年間20万人の治療患者の実態を反映しているとは言えない。ここでは、私の肺照射
の際のインフォームド・コンセントをモデルに、考え方の1例を示したい。

インフォームド・コンセントでは一般的に以下の点が説明される。
・治療法とスケジュール
・病気の経過と現状
・期待される効果と副作用
・その他注意点

化学療法であれ、手術であれ、昨今のまともな病院ならほぼ確実に「フォーマット」がある。
担当医は部分的に加筆、修正を加え、患者+患者家族に説明する。そして同意書を取る。

患者にとって治療上の最も重要なステップであるし、医師の実力が問われる場面でもある。
通り一遍の説明で良いハズは無いし、患者もやすやすとサインしてはいけない。ましてや、
「付け届け」を渡そうとしたり「先生にお任せします」などと媚びを売るなど論外である。

私は、抗癌剤をやる時も重粒子をやる時もインフォームド・コンセントには時間をかける。
・話す内容の80%以上は有害事象・副作用の予測、
・20%近くは患者として気をつけることの確認、である。
「効果」については通常質問しない。相場は判っているので規則に則って聞き流す程度である。
ちなみに「もっと照射を」というのは放射線治療では厳格な基準があり、容認されない。

国内で放射線治療を必要とする患者は、様々な経過を辿っており、自分に当てはまるケースは
それほど多くはない。重粒子なら尚更で胸部への照射例は「たったの」500例ほどしかない。

私の受けた有害事象の説明は、
・皮膚:今回患部が深いので比較的安全だが、恐らく軟膏は塗って頂くことになる。
・筋肉:堅くなるが、今回の患部ならそれほど問題にはならないだろう。
・肺 :放射線性の肺炎・繊維化はまず確実に起こる。咳など症状が出るかどうかは微妙。
    (昔の)臨床試験の際のデータでは、
    I度 :処置の必要のない軽度の症状が2例/81例、
    II度:咳止めや抗生物質が必要な程度が5例/81例、
    III度:酸素吸入など入院が必要な程度が3例/81例、
    改良プロトコルではこの半分以下。現行ではIII度は生じていない。が、要注意。
・血管:細くなったりつまったりする恐れ。出血もあり得る。
・骨 :照射後弱くなり骨折の恐れもある。
・その他:二次癌、予期せぬ副作用など、、

「デフォルト」の文面を主担当医が読み上げ、副担当医と看護師がメモを取りながら立ち会う。
当然、非の打ち所がない文章になっているし、これ以上の事は医学的には言えない。が、
私に起こるかも知れない有害事象を推定するには不十分である。

私が放医研でのインフォームド・コンセントで聞く内容は主として、
・照射方向とそれぞれの回数、と
・気になる部位の予想照射線量、の2つである。

実際に何が起こりえるか?どの程度のリスクか?というのは私は自分で判断する。

勿論、専門医に聞いても構わないが、得られるのはあくまでも「想像」に過ぎない。
予想結果の分布を知ってはいるが、私がその分布のどこに入るか?は最終的には判らない。

放医研のインフォームド・コンセントには問題が1つある。説明の時点で照射線量分布
生データの状態で素人には判りにくい。そもそも「そんな事聞く人は少ない」そうである。
最も重要な要素を「聞かない」のも「図示しない」のも問題がある。是非改善すべきと考える。