慰安婦問題は、日本、韓国、そして北米で日本政府の責任を問う運動が盛んである。最終的には訴訟に持ち込み賠償金を得ようとする。日本では、1991年より多くの訴訟が最高裁まで争われたが全て棄却となり原告側の訴えは認められなかった。

 韓国では、日本政府を相手取って損害賠償請求訴訟を起こしたが、日本政府は「主権免除」を理由に応じていない。しかし文大統領が任命した裁判官は、国際法を無視した判決を出す可能性がある。
(いわゆる徴用工裁判では、国際法を無視した日本企業への補償を求める判決が出され、2020年12月8日以降、現金化する手続きを取ろうとしている。)

 

聯合ニュース 2020年2月5日
慰安婦被害者側 日本の「主権免除」に反論=韓国損害賠償訴訟

日本での慰安婦裁判まとめ

WAM(慰安婦の支援団体)
日本で行なわれた日本軍性暴力被害者裁判

 米国では、米最高裁が2006年却下した「Joo v. Japan」訴訟で決着をみている。

 この訴訟は、Hwang Geum Jooを代表とする韓国、中国、フィリピン、台湾の慰安婦15名の原告団が米国外国人不法行為法に基づき日本政府が賠償するよう求めたものである。「慰安婦問題とアジア女性基金」の片隅に収録した文書・CRSのレポートがある。

日本軍「慰安婦」問題についての米国議会調査局(CRS)Larry Niksch氏の報告書(2006年4月10日版)
 

収録場所

「慰安婦問題とアジア女性基金」
慰安婦問題と償い事業をめぐる国内外の議論>国連等国際機関における審議>ILOとその他の国際機関>その他

(8頁)
Comfort Women Suits in Japanese and U.S. Courts

In September 2000, 15 former comfort women from China, Taiwan, South Korea, and the Philippines filed a lawsuit in the U.S. District Court in Washington, D.C.,(以下略)

(honyakushaの日記さんの翻訳)

 2000年9月に中国、台湾、南朝鮮、フィリピン出身の15人の元慰安婦が米国外国人不法行為法に基づき日本政府を相手に請求権(金銭的な補償についての請求権を含む)をめぐってワシントンD.C.の地方裁判所で訴えを起こした。この訴訟は「Joo対日本裁判」と名付けられた。地方裁判所およびコロンビア地区の米国控訴裁判所はこの女性達の訴えを退けた。裁判所は、1951年の平和条約の条項から見て日本に対する個人請求権が有効かどうかという「政治的性格の強い訴え」の場合は米国裁判所よりも行政府に管轄権があるとする行政府の意見を取り入れた。2004年7月に米国最高裁判所は控訴裁判所に対して差し戻した。2005年6月に控訴裁判所は最初の判決を確定させた。訴訟は再び最高裁判所で審議され2006年2月21日にこの女性達の訴えは法的ではなく「政治的要求」であり政治的判断についてはその判断を裁判所が行うのではなく行政府に委ねるとする判断を下した。最高裁はもしこのような訴えを裁判所が受け入れたのだとすればそれは外交関係を指揮する大統領の権限の侵害に当たると考えた。

正確な判決を調べるため判決文を読むことにする。

判決文(検索キーワード;Hwang Geum Joo et al. v. Japan)

2001年10月コロンビア地裁最初の判決

23頁判決理由

There is no question that this court is not the appropriate forum in which plaintiffs may seek to reopen those discussions nearly a half century later. Just as the agreements and treaties made with Japan after World War II were negotiated at the government-to-government level, so too should the current claims of the "comfort women" be addressed directly between governments. Several district courts have recently reached this same conclusion with respect to reparations for victims of the Nazi regime. These courts concluded that "the post-war claims settlement regime had been exclusively constructed by political branches, and that it was not the place of courts to resolve [these] claims." In re Nazi Era cases Against German Defendants Litigation, 129 F. Supp. 2d. 370, 377-78 (D.N.J. 2001); see also Burger-Fischer v. DeGussa AG, 65 F. Supp. 2d 248 (D.N.J. 1999) (holding that certain claims of World War II slave laborers present nonjusticiable political questions); Iwanowa v. Ford Motor Co., 67 F. Supp. 2d 424 (D.N.J.1999) (same). Although the cases addressing reparations for victims of Nazi atrocities arose in a slightly different factual context than that of the "comfort women," the result nonetheless remains the same. The court therefore concludes that even if Japan did not enjoy sovereign immunity, plaintiffs' claims are nonjusticiable and must be dismissed.

(要約)

 法廷は、半世紀も前の議論を再燃する場所ではない。日本との戦後処理については政府間レベルの交渉で成立した条約であって、現在の慰安婦問題も直接政府間で話し合わなければならない。ナチの犠牲者の問題も、いくつかの地方裁判所は同じ結論に達している。戦後処理の問題は政治的に解決すべきであって、これらの問題を法廷に持ち込むべきではないと結論に達した。

(中略)

 慰安婦と少し異なる事実関係でナチの被害者に対する補償について述べているが、結果は同じである。従って、日本が主権免除を持っていないとしても、原告の主張は、裁判で解決する問題ではなく、却下されるべきである。

III. CONCLUSION

For the foregoing reasons, this court is unable to provide plaintiffs the redress they seek and surely deserve. Consequently, Japan's motion to dismiss is granted. An appropriate order accompanies this memorandum.

 前述の理由で、原告の要求する補償を提供することができない。従って、日本への命令は却下される。

 

2003年6月巡回裁判所はコロンビア地裁最初の判決を支持

2005年6月控訴審裁判はコロンビア地裁最初の判決を支持

2006年2月21日最高裁は2005年6月の控訴審の判決を支持し訴えを却下

Joo v. Japan訴訟の結論

 米裁判所は、「慰安婦問題」の内容を判断したのではなく、戦後処理問題は政府間の交渉で決めるべきであって、法廷に持ち込むなという判決である。ただし、米裁判所は、Analysisで「日本政府の戦後処理は、1951年のサンフランシスコ平和条約締結、1965年の日韓基本条約締結などで解決済みと認識している。

産経・古森特派員の誤報

 2006年3月18日産経朝刊に掲載した記事を再編集して、2014年7月7日下記Japan-in-Depthに下記タイトルの記事を再掲した。

司法の原則踏みにじる中韓 米最高裁判決、慰安婦問題「日本には謝罪も賠償も必要ない」

 古森特派員は、都合の良い話をつなげて下記のように誤解を招く表現で米国の慰安婦裁判を紹介した。

「アメリカの政府もこのプロセスで日本政府の主張への同調を示した。 だからアメリカでは司法も行政も、日本の慰安婦問題はすでに解決済みという立場を明確にしたという経緯があるのである。」

 古森特派員は、以上のように結論づけたが、判決文を読んでいない可能性がある。日本会議が魚拓をとった2006年3月の産経記事を読んでみると、判決文の内容には触れていないことが分かる。彼の記事は作り話が多い。

下院121決議

 この判決のあと、2007年にホンダ決議(下院121決議)、2012年のヒラリークリントン国務長官の「セックススレーブ」発言、2014年4月25日の米韓首脳会談でのオバマ大統領の「慰安婦」発言があり、議会も行政府も問題が解決したとは言えない状況が続いている。しかし、米国でのこの種の慰安婦訴訟は門前払いになると考えられる。

 下院121決議を根拠にして、各地でコリアン団体が慰安婦問題を取り上げていき、各地に慰安婦像又は碑の設置を推進している。