5月15日、トランプ大統領は「インフォメーションやコミュニケーションのテクノロジーとサービスのサプライチェーンを安全にするための大統領令」を発令した。
Executive Order on Securing the Information and Communications Technology and Services Supply Chain
https://www.whitehouse.gov/presidential-actions/executive-order-securing-information-communications-technology-services-supply-chain/
その大統領令に従い、5月16日、米商務省は政府の許可なく中国のファーウェイ社と取引することを禁止する措置を発表した。
商務省産業安全保障局(BIS)発表
https://www.bis.doc.gov/index.php/all-articles/17-regulations/1555-addition-of-certain-entities-to-the-entity-list-final-rule-effective-may-16-2019
(要旨)ファーウェイ社をエンティティリスト(Entity List)に追加し、輸出管理規則(EAR)を修正した。ファーウェイ社は米国の安全保障あるいは外交政策の利益に反した行動していると認定されている。BISはファーウェイ社の米国以外の関連会社もエンティティリストに加えている。あわせて72社をエンティティリストに加えた。
ここで、輸出管理規則(EAR)とEntity Listとは何か、このことに、多くのメディアは触れていない。
昔COCOM、戦略物資輸出規制、そして現在「安全保障輸出管理」と言われる国際的な枠組みの中核にあるのが米商務省BISのEARである。BISのEntity Listとは、経産省の「外国ユーザーリスト」と同等で、大量破壊兵器の開発を行っている国家やテロリストあるいはその組織と見なされる存在にリストアップされ、輸出管理の対象となることである。
安全保障貿易センターの解説
http://www.cistec.or.jp/export/index.html
さて、ファーウェイが危険組織として定義されたのか、それは、昨年8月13日に成立した2019年国防権限法(NDAA2019)で規定されたからだ。
NDAA2019には、中国を仮想敵国とする条項が多くあり、そのなかにファーウェイを含む中国企業5社の製品を危険として米政府機関が購入することを禁じている。
第889条 米政府機関の中国HuaweiとZTEからの通信機器とサービス、3社の監視ビデオシステム購入禁止(2019年8月13日から有効)
NDAA中国包囲条項について(2018年9月2日)
https://ameblo.jp/study-houkoku/entry-12402060236.html
さらに調べると、NDAAにFIRRMA(外国投資リスク審査現代化法)及びECRA(輸出管理改革法)が挿入されている。
第1701条~第1728条 FIRRMA
第1741条~第1781条 ECRA
NDAA2019条文
H.R.5515 - John S. McCain National Defense Authorization Act for Fiscal Year 2019
https://www.congress.gov/bill/115th-congress/house-bill/5515/text
(採決結果、下院359:54、上院87:10)
「安全保障貿易情報センター(CISTEC)の解説」
米政府機関のファーウェイ等5社の製品購入禁止、FIRRMA(外国投資リスク審査現代化法)及びECRA(輸出管理改革法)について
CISTECの解説
http://www.cistec.or.jp/service/uschina.html
http://www.cistec.or.jp/service/uschina/5-ndaa2019_gaiyou.pdf
「ECRA」
(1)EARの上位法である米国輸出管理法(2001年失効)に変わる法律
(2)新基本技術の特定及び規制手続・要件を規定
(3)米国法人・米国人の外国軍事諜報サービスへの関与の新規制
(4)違反者への罰則強化(行政罰金額上限の25万ドルから30万ドルへの引き上げ)
(5)米国政府の米国法人・米国人への輸出管理法令コンプライアンス支援義務
(6)米国政府によるベストプラクティス・ガイドライン策定責務
(7)許可・不許可の審査期間を許可申請後、原則として30日以内とすることを推奨
「FIRRMA」(省略、CISTEC解説参照)
「第889条」 米政府機関の中国HuaweiとZTEからの通信機器とサービス、3社の監視ビデオシステム購入禁止
(1)政府機関に対し、5社の機器・サービスの購入・取得・利用の契約、延長・更新を禁止
2019年8月13日より有効
(2)政府機関に対し、5社の機器・サービスを利用している企業との契約、延長・更新の禁止
2020年8月13日より有効
以上の情報から、米国議会と政府は、相当前からファーウェイ等の共産党が経営する中国企業を危険視し、法律策定を行っていたことが分かる。故マケイン上院議員の名前を冠にしたNDAA2019は、下院上院とも圧倒的多数で可決した。このことは、トランプ政権が対中国政策を主導しているのではなく議会の意思であることを示している。従って、他の政権になってもこの基調は変わらない。
5月16日発表の商務省BISのEntity Listにファーウェイを追加したことは、単なる米国だけの規制ではなく、ファーウェイ製品を取り込んだあるいは製品を提供した企業も制裁の対象となることを意味している。
過去、この規制で大きな問題になった東芝機械のソ連への輸出事件を思い出せば、このBISのEAR規制にすぐ対応しなければならない。その知識も持たないのんきな社長がいるようだ。
ロイター 5月20日
米国のファーウェイ排除、様子を見守るしかない=三菱電機社長
https://jp.reuters.com/article/mitsubishi-electric-huawei-idJPKCN1SQ0PV