TPP11協定は、11月11日ベトナム・ダナンで開催された首席交渉官会合で大筋合意をみた。カナダのトルドー首相の欠席で首脳会合による大筋合意は見送りになったが、残された課題を詰め、リーガルスクラブを経て署名への道筋を示した。

 

TPP等政府対策本部発表資料
http://www.cas.go.jp/jp/tpp/naiyou/tpp_kaigou.html#vnd

 

カナダ、メキシコの立場について日経がNAFTA再交渉との兼ね合いだと報道。

 

日経 11月14日
TPP11薄氷の合意
NAFTA再交渉が影
来年の署名へ カナダ・メキシコ火種
 ベトナムのダヤンで11ヶ国が正式に大筋合意を発表する2日前の深夜。閣僚会合後、茂木敏充経済財政・再生相が大筋合意を記者団に明かしたにもかかわらず、首席交渉官らが作業を続けていた交渉会場には緊張感が広がった。
  「こんな事なら明日の首脳会合は無しだ」。机をたたいて怒鳴ったのは共同議長国、ベトナムの首席交渉官だった。
 怒りの矛先はメキシコ。もともと自国繊維製品の輸出制限につながる「モニタリング」枠組みを巡ってメキシコと対立していた。撤廃を迫られたメキシコは、交渉を優位に進めるため、ベトナムと労働分野で対立していたカナダと共同戦線を取り始めた。
 大筋合意を急いだ茂木氏と梅木和義首席交渉官は翌10日早朝から手分けして説得行脚。ベトナムには、繊維問題で害がでないよう落とし所を用意し、労働問題を継続協議としてなんとか収めた。
 しかし混乱は収まらない。10日未明にカナダのシャンパーニュ国際貿易相もツイッターで「まだ大筋合意をしていない」。同日、トルドー首相と会ったメキシコのペニャニエト大統領も「もしカナダがTPPの大筋合意に署名しないならメキシコもしない」と応じた。
 「特定のテーマに関心があるなら考えるから言って欲しい」。安倍晋三首相がトルドー首相の説得にあたっても、トルドー氏は反対の明確な理由を明かさなかったという。首相同行筋は「会談後安倍首相は激怒していた」と振り返る。
 カナダが安易に妥協できない理由はNAFTA再交渉だ。TPP以上の譲歩を求められているとされ、「まだ交渉中と言った方が米国と交渉しやすいのだろう」(政府関係者) 
 交渉関係者によると、反TPP派のフリーランド外相が9日夜、シャンパーニュ氏に電話をかけ、NAFTA再交渉のさなかにTPP11に大筋合意することを激しくなじったという。TPPはハーバー前政権の成果で、野党時代に批判していたトルドー氏が積極的に進めにくい事情もある
 米国の影は、カナダと日本の間でもちらついた。ダナンでの交渉入りの直前にカナダが自動車分野で日本に見直しを求めて来たのも、再交渉相手の米国への配慮だった可能性がある。カナダのオンタリオ州は北米の自動車産業の一大集積地。ある交渉関係者は「米ビッグ3からカナダ政府に対してロビイングがあったようだ」と打ち明ける。
 対米交渉に手を焼くのはメキシコも一緒だ。2国におってNAFTA再交渉とTPP11は背中合わせ。「NAFTA組」に配慮しつつ、どのように結果を保って署名に持ち込むか。今後も日本は難しい調整を迫られる。(八十島綾平、山崎純)

「TPP11発効に向けた今後の予定」
2017年 
・11月11日大筋合意
・積み残し4分野で詰めの議論(内、主張国)
    国有企業の優遇策の制限(マレーシア)
    石炭産業のサービス投資ルール(ブルネイ)
    文化保護のための国内企業優遇(カナダ)
    労働の紛争処理(ベトナム)
・専門家による法的確認作業(リーガルスクラブ)
・協定文確定
(11月中旬、チリ大統領選)
(マレーシア総選挙?)

2018年
・署名
・各国批准手続き(6ヶ国以上の承認で発効)
(メキシコ総選挙、大統領、上院、下院)

?年:発効
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23412220T11C17A1EE8000/

 

 TPP11とNAFTA再交渉を同時並行で行っているカナダとメキシコは、トランプ政権から強い要求を受け、受けなければNAFTA脱退をほのめかされている。主な論点は、「5年毎のサンセット条項」「ISDSの選択制」「政府調達制限」「カナダの乳製品等供給管理制度の撤廃」「季節性野菜果実の貿易救済」「自動車と部品の原産地規則厳格化」であり、いずれも米国側の要求である。
 このなかで、サンセット条項(自動失効)は、企業が中長期の事業計画がたてられなくなること、自動車原産地規則では、域内原産地委比率を現行62.5%から85%へ(TPP協定では45%)と米国製の部品を50%以上の要求も、自動車産業のサプライチューンの大幅な変更が必要となりメキシコに投資を行った日本企業を含む自動車産業が事業計画の転換を余儀なくされること、から対立が厳しくなっている。カナダの乳製品・供給管理制度は、TPP交渉でも大きな壁であったが、制度を残し輸入割当の増加に止めた経緯がある。これは前政権(保守党)の判断であり、トルドー政権の基本方針の情報を入手していない。(カナダ国内では、制度維持と廃止の両論が拮抗している。トルドー首相の属する自由党は野党時代、廃止を訴えていた。)

 

JC総研特別顧問木下寛之氏のレポート
「NAFTA再交渉の状況について」2017年11月2日
http://www.jc-so-ken.or.jp/agriculture/pdf/171102_01.pdf

 

 TPP11の大筋合意に異議を唱えたカナダの背景に、現在進行中のNAFTA再交渉における米国との取引に影響があるのは当然考えられることで(上記日経記事)、TPP11で合意意思を示せば、手の内を明かすことになる。従って、NAFTA再交渉結果とTPP11協定合意は、同時に行われると予想する。

 このNAFTA再交渉を有利に進めるため、米国のロス商務長官は、TPP11交渉国に牽制球を投げている。日本の米国産牛肉の輸入関税は現行38.5%だが、今年の割当量を越えたため2018年3月末までセーフガード発動して50%と引き上げたことを批判している。TPP12協定で合意したのは16年目に9%まで引き下げることであり、米国がTPP協定に戻れば良い話。アメ車が売れないのは、規制などの障壁では無く日本の道路事情や車庫などの生活に合わせたモデルの販売を行わないからである。フォードが撤退しドイツ車など欧州車が売上を伸ばしていることを見れば明白である。

 TPP11協定の発効が難しいと批判しているのは、カナダ、メキシコに対する牽制と、日本との二国間交渉の誘い水である。

 

朝日 11月14日
ロス商務長官「日本は保護主義」 農産品の関税など批判
 ロス米商務長官は14日、ワシントンで日米の企業関係者らを前に講演し、「日本や他のアジアの国は自由貿易を掲げているが、実際は米国よりずっと保護主義的だ」として、日本の農産品への関税や自動車の非関税障壁を批判した。
 ロス氏は「豪州産牛肉への関税が22・8%なのに対して米国産牛肉に50%の関税がかかるなど、日本にはいくつかの高い関税がある」と指摘。自動車については、複雑な安全基準や販売網の活用が困難だとして「(米自動車大手の)フォードが市場を撤退した理由だ」と改善を求めた。
 トランプ政権が離脱し、「米国抜き」の参加11カ国が大筋合意した環太平洋経済連携協定(TPP)については、「米国のTPP離脱はアジア地域からの撤退とみられているが、それは間違いだ」と言及。「トランプ大統領のインド太平洋戦略はより地理的に包括的なものだ」として、TPPではなく二国間協定を進める姿勢を改めて示した。
 ロス氏は、カナダとメキシコとの北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉について「日本企業もメキシコ市場の主要参加者で、再交渉には相当の関心がある」と指摘。トランプ政権が検討する減税が実現すれば「米国での投資がより魅力的になる」として、自動車の貿易赤字を減らすため、日本企業に米国での生産を増やすよう求めた。(ワシントン=五十嵐大介)
http://www.asahi.com/articles/ASKCG4TH2KCGUHBI015.html

NHK 11月15日
米商務長官「TPP発効は難しい」
 アメリカのロス商務長官は、日本を含む11か国がTPP=環太平洋パートナーシップ協定の発効で大筋合意したことについて、離脱したアメリカの大きな市場への参入のメリットがないまま、各国が協定の発効にこぎつけるのは難しいのではないかという認識を示しました。
 日本を含む11か国は、先週、TPPの発効で大筋合意しました。
 これについてアメリカのロス商務長官は14日、ワシントンで開かれた会合で、「各国にとってTPPの本当の魅力は、アメリカの大きな市場に参入しやすくなることだったので、最終的に合意するのは困難だろう」と述べ、アメリカ抜きで協定の発効にこぎつけるのは難しいのではないかという認識を示しました。
 そのうえで、多国間の貿易協定の交渉は時間がかかるのが問題だとして、2国間の貿易協定を進めていく考えを改めて示しました。
 一方、ロス商務長官は、NAFTA=北米自由貿易協定の再交渉をめぐってアメリカが、自動車分野で、関税をゼロにする条件としてアメリカ製の部品を50%以上使うよう提案していることなどについては、メキシコとカナダに受け入れるよう求めました。
http://www3.nhk.or.jp/news/html/20171115/k10011224011000.html

 

 メキシコシティで、NAFTA再交渉第5回会合(11月15日~21日)が行われている。会合終了後に発表される詳細情報を待つことにする。

NAFTA再交渉、第5回会合始まる 閣僚出席せず
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO23654850Y7A111C1000000/
メキシコ、NAFTA再交渉で米に対案 5年ごとの審査制提案へ
https://jp.reuters.com/article/trade-nafta-mexico-idJPKBN1DG05F