6.国有企業
7月29日、リッツカールトンでの政府説明会において、質問に立った山田正彦元農水大臣が、「ウィキリークスが国有企業の章を公開した。アメリカでは非公開文書となっている。ALICの価格安定制度も問題になる可能性がある。ISDSで訴えられたら大変なことになる。」と情報を紹介した。
(注;ALIC=(独)農畜産業振興機構)
渋谷審議官は次のように答えた。
「国有企業のリークテキストを見ていない。現在の国有企業の定義は、基本的に自由市場に於いて民間企業と同等の活動を行っているものである、ある国の国有企業がよその国の自由な市場で補助金をもらって活動するのはアンフェアだということが国有企業に規律を設ける理由である。国内で公共的な事業を行っていることは何ら国有企業の規律と関係ない、補助金を出すことは問題がないと明記されている。民間と同じビジネスを行うことについて公共政策的な事業を行うことについて、そもそも国有企業に当てはならないことが大半である。ISDSは投資のチャプターのみに適用されるので、国有企業の規律に違反することがあってもISDS条項は適用されない。」
ウィキリークスのリークテキスト
https://wikileaks.org/tpp-soe-minister/
山田元農相のグループが会場で配付していた翻訳文を手にされた方が何回読んでも全く理解出来ない文章だと語っていた。
このリークテキストは、2013年12月の閣僚会合で配付された発信者不明の書簡(メモ)であり、「国有企業の章」ではない。
そのメモには下記のよう国有企業の商業取引に関する司法権のある法廷を要望している。これは、渋谷審議官が説明されたようにISDSとは別の紛争解決の方法を示しているものと思われる。しかし、2013年12月時点より交渉が進み、現在は渋谷審議官の説明の方が最新である。
Providing courts with jurisdiction over claims involving commercial activities of SOEs;
TPP国有企業に関する最近の報道
2015年7月26日NHK
TPP “国有企業分野”で最終調整に
ハワイで開かれているTPP=環太平洋パートナーシップ協定の首席交渉官会合で、各国は、難航してきた国有企業と民間企業の公平な競争条件の分野で、それぞれの国が実質的に経営する企業が、公平な競争を妨げるような低い価格で商品やサービスを提供することを原則として禁止する方向で最終的な調整に入りました。
TPP=環太平洋パートナーシップ協定の交渉参加12か国は、今月28日からハワイで開く閣僚会合に先立って首席交渉官会合を開いており、26日は国有企業と民間企業の公平な競争条件の分野について主に議論が行われました。
この分野では、アメリカや日本が国有企業への優遇措置の是正を求めてきたのに対し、多くの国有企業を抱えるマレーシアやベトナムなどが慎重な姿勢を示し、協議が難航してきました。
こうしたなか、各国は26日の会合で、それぞれの国が株式の過半数を持つなど実質的に経営する企業について、原則として、公平な競争を妨げるような低い価格での商品やサービスを提供することを禁止し、財務諸表を公表することなど、経営の透明性を高める方向で最終的な調整に入りました。
一方で、マレーシアやベトナムなどに配慮して、一部の企業には例外的に優遇措置を認めることになり、詰めの協議は閣僚会合で行うことになりました。
これについて、日本政府関係者は、日本郵政や一部の独立行政法人などが国有企業と位置づけられる可能性があるが、国内でしか事業を行っていないことなどから、大きな影響は受けることはないだろうと話しています。
2015年5月8日日経新聞
TPPの国有企業規制 民間と競争条件を統一
環太平洋経済連携協定(TPP)が対象にする21分野の一つ。参加国の中で市場の競争を乱す行為が横行すると、貿易や投資の自由化で得られる利益が損なわれるため、民間企業との競争条件をそろえる目的で設けられた。自由貿易協定(FTA)で競争ルールを規定する場合は多いが、国有企業にまで踏み込むことは珍しい。
具体的には、国有企業が商品を売ったり、サービスを提供したりする際に外国企業を差別しないように求める。政府が国有企業に補助金などの優遇措置を与え、参加国の貿易や投資に悪影響を及ぼすことも禁止する。仮に外国企業が差別的な扱いを受けたと訴えた場合、参加国が設ける紛争処理の手続き機関にかけられ、協定違反と判断されれば、是正を求められる。政府や自治体の入札などのルールについては「政府調達」の分野で別に規定している。
国有企業への規制はTPPの21分野の中でも、知的財産や環境と並んで交渉が難航しているとされていた。マレーシアなどが例外になる国有企業を増やそうとして調整に手間取ったからだ。ただマレー系の人々を優遇する「ブミプトラ(土地の子)政策」を掲げるマレーシアの国有企業の多くは例外扱いになる見通しだ。日本の産業革新機構などの政府系ファンドも規制対象外になるとみられる。各国が希望する国有企業が例外扱いになることが一定程度固まり、参加国の隔たりは縮まっている。
2015年5月8日日経新聞
日本郵政・成田空港、TPPの国有企業規制対象に
政府が株式の50%超を保有する日本郵政や成田国際空港会社(NAA)などが、環太平洋経済連携協定(TPP)の国有企業規制の対象に入る見通しになった。規制対象の国有企業は外国企業も日本企業と同等に取り扱うなどの公正な事業運営を求められる。
日米など参加12カ国の交渉が大詰めを迎えているTPPでは、各国の国有企業が守るべきルールも定める。原則として政府が50%超を出資する企業や独立行政法人などを国有企業と定義し、参加国は規制の対象外にする例外企業のリスト作りを急いでいた。
7日までに固まった日本の例外リストには、石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)や地方自治体が持つ第三セクターが含まれることになった。それ以外の商業活動を手がける国有企業は規制対象になり、日本郵政やNAA、東京メトロなどはTPPの規制の順守を求められる。独立行政法人を通じて実質的に国の管理下にある北海道旅客鉄道(JR北海道)や四国旅客鉄道(JR四国)なども規制対象に入る見通しだ。
日本郵政などはTPPの発効後、物品やサービスを売買する際に、外国企業も日本企業と同等に扱うことを求められる。例えば外国企業だけに割高な運送料金を設定したり、保険商品の販売提携先を選ぶ時に外資を除外したりすることができなくなる。国有企業が海外進出する際に、政府が補助金を使って支援することも制限される。
政府関係者は「日本の国有企業が業務のやり方を変えなければいけないほどの抜本的な規制にはならない」とみている。日本郵政や九州旅客鉄道(JR九州)は株式を上場する計画があり、政府の保有比率が50%以下になった時点でTPPの規制対象から外れる。
日本が加盟する世界貿易機関(WTO)の政府調達協定では、日本郵政などの政府機関が一定規模の物品やサービスを発注する際に、外国企業を差別しないことを定めている。TPPの規制は物品やサービスの調達という「買う」行為だけでなく、物品やサービスの提供という「売る」行為も対象にしており、WTOよりも幅広い範囲での対応が必要になる。
TPPにおけるSOEの問題について下記に詳しい説明がある。
しかし、誰もTPP条文を見ていないので、何が正しい情報か分からない。
RIETI 川瀬剛志上智大教授のSOE解説
TPP交渉と国有企業(SOE)規制のルール策定(2014年3月17日)
http://www.rieti.go.jp/jp/special/special_report/067.html