再生可能エネルギー、特に太陽光発電(PV;Photovoltaic)と風力発電(Wind turbine)の業界が危機的状況になっている。根本的な問題は、他国の補助金を目当てに参入するプレイヤーが多すぎたこと、補助金の負担に耐えかねて、次々と電力買取り額を下げ、FIT(Feed in tariff)制度を提唱した国が実質的に廃止している、すなわち梯子を外していることが原因である。
 2004年ドイツのFIT改正法により、PVについて1kWhあたり0.5ユーロ(当時1ユーロ160円)を超えた設定に、世界中の投資家が、一斉にシステム販売と太陽光発電製造工場に投資を行ってきた。
 2005年から2007年頃、原料のポリシリコンが払底し、廃棄電子装置のなかのICのモールドを外して、シリコンチップを取り出す仕事も成り立つほどであった。半導体用シリコンメーカーや新しく参入した太陽光発電用シリコンメーカーが投資したポリシリコンプラントが2007年後半から次々と稼働を始めた。ポリシリコン生産能力は、2005年3万トン(半導体2万トン+太陽光1万トン)であったが、2012年には30万トンを越えた。増分はほぼPV用であるから、20倍以上の生産拡大である。全世界のPVの設置量は、2005年1.4GW、2011年30GWであり、ポリシリコンの生産とリンクしているのがご理解いただけるだろう。

 この急成長を支えたのは、ドイツのPVメーカーと装置メーカーであった。ドイツでは、約36万人の雇用を作り、装置メーカーは、多くのノウハウ付きのターンキー製造ラインを、台湾、中国に納入していった。ドイツは、元々PVの技術は持っていなかったが、日本の技術を学び産官学連携で2000年以降急激に成長していった。一方、日本では、PVメーカーがノウハウを出さず、設備メーカーが、海外で受注することができなかった。

 中国のPVの技術は、日本の技術者が教えたという話があるが、全く事情は異なる。日本から技術を奪い取ったのは、世界最大の中国のSuntechであった。2006年に長野のモジュール製造のMSKを買収した。当時、Suntechは欧州に出荷したパネルの50%が返品されていた。MSKのモジュール製造技術を手に入れたあと、九州の工場(後のヨカソル)を閉鎖、日本での生産拡大を行わなかった。(ドイツ製の設備に対して日本製の設備の不良率は1/10)

 ドイツの製造装置メーカーが、ドイツのPVメーカーの敵、台湾、中国のPVメーカーを数多く作って行った。その結果、中国勢のシェアが2/3を越え、価格暴落がおき、米国のPVメーカー、ドイツをはじめとする欧州のPVメーカーを全滅に近い状態に追い込む。一時、世界一に立ったドイツのQ-Cellsが2012年4月に破産する。さらに、台湾、中国に最も多くのターンキー製造システムを販売したドイツのCentrothermが今年7月に破産に向けた手続きを始めた。

 ドイツの雇用36万人、そして次のニュースの中国のPV事情は、数十万人の雇用がなくなる可能性を示している。

 PVの業界は、ドイツのFITを信じ(信じていなくても信じたふりをして)、世界中の投資家が金を賭けた結果であり、自滅的な行動を示した。グローバリズムの典型的な産業である。

 日本でも今年7月からFITを実施始めたが、一般需要家からみれば42円/kWhは高すぎるし、来年度以降の見直しで大幅な引き下げがあれば、梯子外しになる。可能な限り、設置量を制限する必要がある。多すぎれば、ドイツのような悲劇が発生し、一般需要家が支払う電力料金が、最初の設置時に中国や韓国に流れることになる。

 韓国のPV産業は、中国の圧倒的シェアが固まった後に参入したため、投資回収はほとんどできていないし、価格下落で作れば作るほど赤字。その内の一社ハンファ化学(韓火)と契約したのがソフトバンク。なおハンファは倒産したドイツのQ-Cellsを買い、マレーシア工場の操業を約束した。(ハンファの会長親子のことは、ググれば別の面が出てくる)

 太陽光発電を購入する場合は、保証期間(外国勢は20年)以上、その会社が存続するかどうかが判断基準。中国製のパネルの劣化が50%になると言う記事もあるが、保証期間は無償で交換することが契約の前提。今年4月のQ-Cell倒産の時、サービスを継続する会社を別途設立したと聞く。

 故障と対策については、産総研・加藤和彦研究員のレポート(太陽光発電システムの不具合事例ファイル)に詳しく書かれている。

 最後に、最も経験のある日本のPVメーカーを守っていただきたい。日本のPVメーカーは、20数倍の需要拡大に追従しなかったことが、幸いしている。液晶TVの需要拡大に追従し、巨額の投資を行った電機メーカーが大幅赤字になったことと同じ問題である。


New York Times Oct4,2012要約

「太陽光発電パネルの供給過剰は、中国に対する新しい脅威」

 中国の太陽光発電パネル、風力発電メーカーは、世界的に優位に立った。しかし、この5年間、太陽光発電パネルと風力発電の需要と中国の生産能力が大幅に成長し、巨大な供給過剰と猛烈な価格競争を引き起こした。

 180億ドルの工場への融資や地方の工場用地の買収などの債務保証など、財政的な災害が迫っている。太陽光発電パネルの価格は、2008年から3/4下がって、大手メーカーは、パネルを3ドルで売るため1ドルの損失を出している。それでも石炭発電の3倍のコストである。国家発展改革委員会のエネルギー・気候政策の李部長が、中国の太陽光発電企業の2/3がなくなり、1/3が残れば良いと語った。李部長はさらに、銀行が強い会社のローンを切り捨て、残りを破産させることを望むが、北京に奨励された銀行は、悪いローンの償却を認めたがらないし、これまでのローン返済を求めるよりはさらに貸し付けることを望んでいる。地方政府は、失業者増大と債務保証支払いを回避したいため、破綻を望んでいない。主要な企業のために慎重に対処しなければ、全てが消えるだろう。と

 中国政府は、多くの資金を失っている20社の風力発電企業を5,6社までに統合したい。

 中国の太陽光発電パネル製造会社の経営陣は、昨年春の米国の反助成金課税やEUが中国の太陽光発電パネルのダンピング調査を始めたことのせいにしている。最大のメーカーSuntechの報道責任者は、「中国産業の問題ではなく、世界的な太陽光発電産業の問題だ。主に、米国と欧州との需要と供給のアンバランスだ。」と語った。

 李部長は、太陽光発電の問題は、中国の過剰設備の問題であって、貿易の問題ではないと語った。魅力的に見える新しい産業に突進し投資で圧倒する中国企業の熱心さに問題があり、西洋の企業のように無駄と思える投資から撤退するような気分にはならないようだ。

 銀行の監査機関は、太陽光発電産業への銀行の関与について何も決定していない。中央政府は、地方政府から彼らの債務保証について学びはじめた。
http://www.nytimes.com/2012/10/05/business/global/glut-of-solar-panels-is-a-new-test-for-china.html?ref=business&_r=1&

中国PVメーカー全滅の恐れ(朝日9月8日、24日)
http://www.asahi.com/business/news/xinhuajapan/AUT201209080101.html
http://www.asahi.com/business/news/xinhuajapan/AUT201209240085.html
http://www.asiam.co.jp/news_newe.php?topic=014643

中国のPV企業の90%は破綻するとJA SolarのCEOが語る
http://www.greenworldinvestor.com/2012/08/08/90-of-solar-companies-to-go-bankrupt-and-shortage-will-hit-industry-in-2014-%E2%80%93-ja-solar/

世界一のSuntech(尚徳電力)破産寸前、NY証券取引所が上場廃止を通告
http://www.asahi.com/business/news/xinhuajapan/AUT201209240116.html

2011年からのPV企業破産など(一覧表)
http://www.re-solve.in/perspectives-and-insights/solar-pv-manufacturing-consolidation-continues/

ドイツのPV関連企業の破綻
http://www.sankeibiz.jp/macro/news/121008/mcb1210080503014-n1.htm
http://www.fepc.or.jp/library/kaigai/kaigai_kaisetsu/1217720_4141.html

米First Solar社のリストラと不良品対策
(このPVはCdカドミウムを使うため日本では受け入れられない)
http://pinponcom.jp/energy/restructuring-plan-of-first-solar/

オバマのグリーン・ニューディール政策の結果、昨年より破綻した再生可能エネルギー産業のリスト
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-11294803604.html
http://ameblo.jp/study-houkoku/entry-11183127958.html

中国製品の不良問題(経年劣化)
http://news.livedoor.com/article/detail/7023488/

世界需要予測(欧州太陽光発電協会編)
http://files.epia.org/files/Global-Market-Outlook-2016.pdf