合衆国憲法第一章八条三項に「議会に通商規制の権限」、第二章二条二項に「大統領は、上院の助言と承認を得て、条約を締結する権限」を有すると書かれている。

在日米大使館HP http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-constitution.html


 通商交渉は、徴税権(第一章八条一項、関税も含む)もあわせて議会の権限である。大統領府のUSTRは、議会から委任された行政組織だと言える。その委任の根拠になっているのが、大統領貿易促進権限(Trade Promotion Authority)TPA(ファスト・トラック法)である。1974年以降歴代の大統領が通商交渉の権限委任を求めて議会にTPAの同意を求めてきた。クリントン政権、ブッシュ政権時代、一時的に権限失効状態になったが、20028月にTPAの成立をみた。200571日までの期限であったが延長を議会に求め、200771日まで延長された。その後の延長法案が認められず失効した。ブッシュ政権は、韓国、コロンビア、パナマ、ペルーとFTA交渉を行っていた。コロンビアとの交渉が遅れTPA期限の署名が間に合わないため、民主党と超党派貿易協定(FTAのテンプレート)を締結し、その後コロンビアとの署名、議会批准が行われた。

(注;米国では通商交渉と外交交渉の権限が別れているが、日本では通商交渉も外交条約であり、内閣に権限がある。)

外務省TPA http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/usa/keizai/eco_tusho/tpa.html


 現在TPP交渉をUSTRが推進しているが、USTRは交渉権限の法的根拠を持っていない状態であるこの問題の議論になったのが201237日上院財政委員会公聴会での議員とUSTRカーク代表とのやりとりであった。カーク代表はTPAの法案成立を議会に働き掛けていると証言している。カーク代表は、共和党のHatch議員から「オバマ大統領のUSTRの役割の終了宣言と憲法解釈」の指摘を受け、民主党のWyden議員から模倣品・海賊版拡散防止条約ACTAとTPP(知財)について議会の承認が必要と迫られた。(オバマ大統領は、商務省やUSTR、税関など行政府の統合計画を1月に発表した。これをUSTRの終了と表現されている。)

3月7日上院公聴会

http://finance.senate.gov/hearings/hearing/?id=100a5535-5056-a032-5221-cd749e768acf

 権限委任されていない状態で、USTRが外国との交渉を行うのは、越権行為となり、米国内では認められないことになる。昨年まで批准した各国とのFTAは、2007年の期限内に交渉国の署名が行われている。(昨年11月、自民党小野寺議員が指摘していた)


 問題になるのは、ACTATPP交渉である。ACTAの署名は201110月東京で実施、TPP交渉は現在進めているところであるが、いずれも大統領府(USTR)に交渉の権限がない。また、議会の正式なサポートも得ていない。

 カーク代表は、ACTAの問題について、2008年のPRO-IP法で規定されたこと、さらに米国国内法に合致し法改正の必要のないことを主張している。(USTRHPにも掲載)

PRO-IP法(JETRO解説)

http://www.jetro.go.jp/world/n_america/us/ip/news/pdf/081014.pdf

しかし、Wyden議員は、この声明に納得せず、下院から送付された(法案番号H.R.3606)Jumpstart Our Business Startups Act(Bill) ;JOBS Actに、319日二つの修正案を加えた。

Thomas HP(法案番号入力)  http://thomas.loc.gov/home/thomas.php

「知識財産権に係わる貿易協定は議会の承認が必要である。ACTAも同様。」

TPPの知的財産権とインターネットに係わる文書をウェブサイトに公開することを要求。」


 上院におけるJOBS法案の審議において、下院承認本案とともにWyden修正案も322日可決、23日に下院に戻され、上院修正案の採決を27日行い、2/3以上の賛成で大統領に送付された。大統領の署名待ち。


 なお、3月22、23日と日経がTPP交渉が遅れると報道していた。山口外務副大臣が22日記者会見でTPPが12月までまとまるのは困難だと語っている。背景に米国の通商権限(TPA)の問題があると想像する。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/press/kaiken/fuku/f_1203.html#6

(次回、ACTAとTPP交渉の行方)