TPPに関する情報は、マスコミ、学者、評論家などの著作、言動により知ることができるようになったが、正しい情報にたどり着いたという感覚はなかった。素直に考えれば、TPPやFTAの協定文を入手できれば、全てが具体的にわかるはずだ。それが出来なければ利益団体の要求を調べれば理解できる。これを明らかにしたのは国会議員の訪米団だった。

 自民党(12月)および民主党(1月)の議員団が米国を訪問し、議会、政府、各団体と情報交換をした。米国の状況について記者会見やブログ、ネット上のビデオ配信などで報告があった。(ほとんどのマスコミは報道していない)。これまで紹介した情報に下記を追加。

小野寺議員インタビュー http://www.youtube.com/watch?v=eXz_8cqpl_4
「米国の誰も知らないTPP」(1月22日アップロード27分)昨年12月の自民党訪米団に参加した小野寺議員が田中康夫議員のインタビューに答えている。「米国議会の議員、両院の貿易小委員会の方もTPPを知らない。USTRと国務省だけが動いている。議員のほとんどは無関心。米国関係者の話と日本の官僚の話が異なる、例えば「例外品目」、官僚が情報を操作している。オバマ再選のツールに過ぎなく、今年11月の大統領選が終われば忘れ去られるのではないか。米議員との密接な交流が必要。」

「考える会」1/25勉強会 http://www.ustream.tv/recorded/19990913
第26回TPPを慎重に考える勉強会(1月25日USTREAM1時間31分)
最初の60分は山田会長の訪米団6名の報告。1時間5分頃より外務省片上大使への政府調査への質問。(1時間26分)山田会長が「両院議員総会で情報を開示すると、国民的議論をすると、各省庁に指示すると野田総理が言っている。」片上大使「関係国の協議において政府が事前協議で得た情報を各国の情報が揃った段階で、情報を入手した相手国が特定できないようにして副大臣クラスの幹事会で議論し政務でチェックした上で報告すると約束。」 これを受けて山田会長が発言。「外務副大臣会議で外務副大臣はそれに反対していると聞いた。出すことに、えっ。出さなければ国会で問題になる。文書で提出して欲しい。」 これまでの経緯からこの副大臣は山口副大臣(衆議院兵庫県第12区)と思われる。

整理すると次のように要約できる。
1.TPP交渉についてはUSTRと国務省の一部、議会の一部の通商責任者のみ熟知していて、ほとんどの議員は知らないし、無関心である。

2.各種団体は、自己の利益のみをUSTRに申告し、他国との相対的な利害関係を理解していない。他国の事情や要求をUSTRが説明していない。

3.USTRは、米国の利益を最優先とし、各種団体からの要求を全面に押し出している。

4.通商に直接関係しない(米国にとっては利益の)項目を利用して、搦め手あるいは罠を仕掛けている。透明性、公平性、競争原理、環境保全、知的財産を守る海賊版退治と美辞麗句が罠であると理解すべきだろう。

5.米国政府の官僚は政権が変われば交代しなければならない。常に再就職先に移れるように利益団体のために尽くす。米国民や議員のために働いているわけではない。通商交渉で成功することは彼らの評価が上がることになる。(首藤議員が報告していた「成功のステップを下ることはない」米韓FTA以上の要求という話)

6.米国において、法律やルールを決めるのは議会であり、極端に言うとホワイトハウス以下の政府は使用人に過ぎない。合衆国憲法立法部第八条に記載されているように、徴税(関税)、国債、通商、通貨、宣戦布告、徴兵・軍組織化など最重要事項は議会の権限になっている。今回のTPPの日本参加の審議は、米議会の事前審査に3ヶ月かかると言われているのがその理由である。執行部第二条「大統領権限」に外交条約締結の権限があるが限定されている。TPPは関税と通商交渉であるから立法府第八条の権限になる。
合衆国憲法 http://aboutusa.japan.usembassy.gov/j/jusaj-constitution.html
 日本における通商を含む外交交渉は、議会が関与できる権限がなく、最後に賛否を議決(批准)するだけである。京大中野准教授が日本の盲点と語っているのは次の条文。
日本国憲法 http://www.ndl.go.jp/constitution/etc/j01.html
第七十三条  内閣は、他の一般行政事務の外、左の事務を行ふ。
一  法律を誠実に執行し、国務を総理すること。
二  外交関係を処理すること。
三  条約を締結すること。但し、事前に、時宜によつては事後に、国会の承認を経ることを必要とする。

中野剛志准教授と堤堯氏の対談(1月23日収録55分)「TPP亡国論」
http://www.nicovideo.jp/watch/sm16778665
国有化されたAIGの救済のため日本の保険市場を取りに来ている、日米保険交渉で負けまくった榊原教授;保険会社って保険の調査とかいろいろあるので、CIAが天下りしまくっているらしい。だから、彼も、日米保険交渉やったときに、盗聴されまくって、ボロボロだったらしい。そんなヤツら相手にして勝てるかと言っていた。
交渉に参加したら外交機密、各国が合意するまで秘密、日本では、衆議院、参議院で審議されるが、条約批准は衆院の1/2でよい。彼ら(官僚)はこの憲法上の盲点を利用している。戦後の外交交渉では他国のシステムを変えるようになった。日本憲法がそうだよ。「すでにやられたか」
けしからんのは、官僚上がりの学者、議員、評論家が外圧を使って国内の制度を変えるしかないと言っていること。

 米議会がケネディ・ラウンドを実現するための国内法改正を拒否したことの反省から、大統領に通商交渉の権限を与える貿易促進法(ファースト・トラック法)の制定を行政府側が働き掛け、その法案(時限)を成立をさせた。(1974年)その後、延長を重ねたが、2007年7月に失効した。米韓FTAの交渉はこの時までの交渉であり、議会批准が2011年まで延びた。
 自民党小野寺議員が指摘しているのは、「現在のTPP交渉はUSTRが窓口だが、貿易促進法に準拠した活動ではないので議会が決定権を持っているはず、包括的審議批准はあり得ない。個別の審議になるだろう。」

7.米国の法律と政治体制を考えると、USTRは大統領府として活動しているのであり、議会の了承を取り付けて活動しているわけではないと思う。その事例は今回の訪米団の報告にあるように、貿易小委員会の委員長ですらTPPを知らない、まして一般の議員も全く知らない状況で、USTRが事を進めているようである。
 ということは、ケルシー教授や小野寺議員が推測されていたように、11月の大統領選挙までの他国との合意の実績作りであり、議会の全面的な支持を受けているわけではない。何年かかるかわからないが議会が批准してくれたら、しめたものと考えているかも知れない。
 うるさい日本をTPPに招き入れると9ヶ国の合意が11月までにできなくなる。「考える会」の山田会長が「米国にこう言われた。『ルールメイキングには日本は参加できない。9カ国でルールを作った上で日本に参加させるとオバマが言ってる』と報告している。オバマの最優先事項は11月の選挙で勝つことであり、日本を参加させればTPP-P9の合意が選挙までに間に合わないからである。24日のオバマの一般教書演説で三ヶ国FTAの成果と、中国の海賊版、政府援助の非難を述べていてもTPPについては言及していない。今、議員にTPPの情報を入れたくないのだと思う。特に2/3のFTA反対派を有する民主党議員に。
一般教書
http://www.whitehouse.gov/the-press-office/2012/01/24/remarks-president-state-union-address

8.米国の法律と政治体制を冷静にみれば、決定権のある議会にTPPに関する情報を提供する方が効果的と思う。先週ネット上の海賊版退治の法案SOPAとPIPAを阻止したネットサービスの手法が効果的だ上下院の全議員にメールを送れば、はじめてTPPを知ることになる。または、米国の各種団体と連携を行えば、米議員に情報を提供することができる。内容は、各項目毎に米国の産業や雇用にどのように影響するか、具体的に説明すれば効果的だと思う。例えば、「electronic frontier foundationが知的財産権の拡大により市民のためのプロセス、プライバシーと表現の権利の自由のための重要な懸念を提起しTPPに反対」と表明した事例のように、個々の問題を理解していただくことが有効だ。SOPA法案、PIPA法案を議決しなくても、貿易協定に同じ事項を入れておけば、その後の手続きが簡素になる。米韓FTAでは、相手国の取締当局に通知するだけで海賊版退治ができる(非親告)。もちろんTPPにもその条項が入っているので、下記のようにEFFが反対声明を出している。
https://www.eff.org/pages/trans-pacific-partnership-agreement
SOPA,PIPA法案のニュース
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20120120-00000029-rbb-sci
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/31617