菅首相が「再生可能エネルギー電気の調達特別措置法案」を通したいと表明している。まだ、衆議院で審議も始まっていない。
 昨年より、このブログで再生エネルギー買取法すなわちフィードインタリフ(FIT)の問題を指摘してきた。今、太陽光発電(PV)のFITを推進した各国でどのような状態になっているか、調査したので紹介する。
 日本のマスコミは報じていないし、関係者もFITを推奨しているだけである。FITは社会・経済を大混乱に陥れる。ドイツの後を追うことは、危険きわまりない。
 スペイン、チェコ、英国およびこれからFITを実行するスロバキアなどでは、訴追をを覚悟して、FITの見直しを強行している。最も警戒されているのは、投資対象の大規模発電所いわゆるメガソーラーである。

 私の持論としては、再生可能エネルギーを投資の対象にしてはならない。それば、「多数の人びとから理不尽な金を巻き上げる」からである。自分が消費する電力を自分で獲得し、その消費分が、電力会社の負荷を低減させる他人に迷惑をかけないシステムを購入すべきである。孫社長のメガソーラー計画は、投資活動であり容認できない。不用意なFITは世界中の投資家から狙われ、国内の富と雇用が奪われる。FITを強行するなら、今、米国が行っているように、再生可能エネルギーの製品の産地規制(雇用)を明確にすべきだろう。
 
全世界
項目      単位   2008    2009   2010    2011
設置量     MW   6,090   7,257  16,629  13,330 EPIA最少
累積設置量  MW  15,675   22,900  39,529

ドイツ(FIT期間 20年)
項目         単位     2008    2009   2010   2011
設置量        MW     1,809   3,806   7,408   3,500 政府目標
累積設置量     MW    5,979   9,785  17,193
FIT <30kW    円/kWh    45.95   38.78   34.35
FIT 地表設置  円/kWh    33.38   28.48   26.44
家庭用電気料金 円/kWh   25.77   26.93   28.62   30.52

 2009年のスペインショックをドイツが肩代わりした上、世界中の太陽光発電(PV)の生産拡大を吸収した。2010年には、全世界の1/2を引受け、2009年までの累積量と同等の量が設置された。
この生産量の急激な拡大を行ったのがドイツ、中国と米国のメーカーであり、熾烈な価格競争が行われた。ドイツのFITは、2010年より16%削減されたが、それに見合うPVの価格低下が実現し、ドイツ、チェコ、イタリアに一気に導入された。
 ドイツの再生可能エネルギー法の目標(2020年までに20%の電力)が2012年に達成できる見込みとなり、FITの低減率を調整しながら、2011年3,500MWの導入を計画している。これは、原発廃止に伴う再生可能エネルギー法の改正を織り込んでいない。
 このFITのため、ドイツの電力料金は、騰がり続け、フランスの2倍になっている。
 2007年頃シャープを抜いて世界第一の出荷量になったドイツのQ-Cellsは、この価格競争に敗れ、2009年の決算では売上1,000億円で赤字1.700億円を出した。リストラ策としてドイツの工場を閉鎖、マレーシアに生産移管をしてきた。2007年末、81ユーロの最高の株価であったが、現在1.3ユーロほどである。現在、会社の売却を公開している。

http://www.bloomberg.com/news/2011-06-08/q-cells-open-to-takeover-offer-not-holding-talks-chief-executive-says.html

スペイン(FIT 25年)
項目        単位     2008   2009   2010   2011
設置量       MW     2,605    17    369   400 EPIA予測
累積設置量    MW     3,317   3,415   3,784
FIT <20kW    円/kWh   55.18   39.92   39.92   39.92
FIT <10MW    円/kWh   52.33   37.57   32.99   32.99
家庭用電気料金 円/kWh   18.27   19.77   21.73   ?

 FIT政策により、2008年急激に導入された。スペインや世界中の投資家が参加し、全世界の生産量の1/2を購入し、日射量の多いスペインに設置した。日射量はドイツを1とすれば、スペインは1.7倍、日本は1.3倍であり、初期投資が同じであれば、スペインではドイツの1.7倍の売上になる。
 スペイン政府はこの事態に驚愕し、2008年9月リーマン破綻の1週前に、FITの見直しと新規設置許可保留を発表した。翌年2009年の設置は、ほぼゼロになった。スペイン政府は、法律を整備し、設置者とFITの引き下げを交渉し、2010年央には、設置者に対する未払い金が2兆円に達した。(スペインショック)
 現在もこの引き下げ交渉を続けている。その一部の状況が報道されている。スペイン全体では、54,257のPV発電所があり、今回9,041の事業者を調査、FIT規定から外れた360業者への支払いを保留し、1,919業者の資格を認定せず、855業者にFIT引き下げを認めさせた。
消費者電力は上がる一方である。

http://www.bloomberg.com/news/2011-06-29/spain-suspends-subsidies-to-360-solar-power-installations.html

チェコ(FIT 20年)
項目       単位    2008   2009   2010   2011
設置量      MW     51    398   1,490    50   政府目標
累積設置量   MW     65    463   1,953
FIT <30kW    円/kWh           59.17   35.69
30-100kW     円/kWh           58.93   28.06
>100kW      円/kWh            58.93   26.18
家庭用電気料金 円/kWh 15.19  17.01  16.34   ?

 スペインと同様に、FITにつけ込んだ投資家が、2009年、2010年に一気にPVを押し込んだ。チェコ政府も2010年2月に再生エネルギー法の一時停止を発表、10月に改正法案提出、11月に法案を議決した。
 その内容は、系統接続をさせない。(2011年1月から) 30kWを越えるシステムをFITの対象としない。(2011年3月から) 既に設置されたPVについては、初期導入費に課税する。(FITの対象は26%課税)
 上表のようにFITを引き下げる。(30kW 以上は、投資効果を極少化する) もし法改正が無かったら、2011年の消費電力料金が20%以上高騰すると試算していた。
 この法律改正により、それまで投資した事業者がチェコ政府を相手に、訴訟を起こし始めた。

http://www.pv-magazine.com/news/details/beitrag/czech-solar-tax-to-be-reviewed-by-supreme-court_100002394/

イギリス(FIT 25年)
項目        単位   2008   2009    2010   2011
設置量       MW      8     10     45     50 EPIA+推定
累積設置量    MW     11     21     66
FIT <10kW    円/kWh              47.15    47.15
50-150kW     円/kWh             41.01    24.81
>250kW       円/kWh             38.27    11.10
家庭用電気料金 円/kWh  17.11  16.31    16.01   ?

 スペインやチェコの動向を見て、英国も、2011年8月からFIT改正を行うと発表。1,100人を雇うシャープの工場も危機に直面している。FITの改正内容は、チェコと同じように大規模PV発電所の補助を止めることである。

http://www.bloomberg.com/news/2011-06-09/u-k-cuts-subsidized-rates-for-solar-power-by-as-much-as-71-.html

イタリア(FIT 20年)
項目         単位   2008    2009     2010    2011
設置量        MW    338     717    2,321   3,000 EPIA予測
累積設置量     MW    456    1,173   3,494
FIT <3kW     円/kWh        50.48   49.54   44.61
>20kW       円/kWh        45.90    45.08   37.92
家庭用電気料金 円/kWh   26.13  23.44    22.53   ?

 イタリアは、総発電量に対し17%の電力を輸入、原発ゼロ、火力77%、水力19%の国であり、不足分を輸入に頼っている、このため、比較的に電力料金が高い。
 再生可能エネルギーへの傾斜が大きくなれば、スペインやチェコのように電力料金を大幅に上げざるを得ない。FITの改訂が予想される。

 なお、欧州の電力事情は下記の資料を一読すれば理解出来る。各国の発電量や輸出入が月毎、年単位でまとめられている。
 季節に応じて輸出入が大きく変わる。スエーデンでは、冬期輸入国に夏期輸出国になる。各国の状況の違いを、相互に補完している連系系統が存在する。このような融通ができるのは、送電(系統)会社と発電会社が別で、周波数が統一されているからである。送電会社は、常に売り手と買い手を捜し、その時最も有利な取引ができる。いわば電力は時価である。イタリアのように電力が大幅に不足する国では、その時価が高くなることが理解出来るだろう。
 ドイツは56%を火力で、フランスは71%を原子力で供給し、ほぼ同量の総発電量であり、輸出国である。北欧諸国は、水力と原子力を季節によって使い分けている。

https://www.entsoe.eu/resources/publications/general-reports/statistical-yearbooks/

方谷先生に学ぶのブログ
欧州の電力系統と取引(上記統計資料の12頁)


日本(余剰分買取期間 10年)
項目         単位   2008   2009  2010  2011
設置量         MW   230    483   990  1,050 EPIA予測
累積設置量      MW  2,149   2,632  3,622
余剰 <10kW    円/kWh         48    48   42
非住宅       円/kWh         24   24   40
家庭用電気料金 円/kWh   24     24    24    24

米国 (FIT 各州によって異なる)
項目           単位  2008   2009   2010   2011
設置量          MW   342    477   878   1,500 EPIA予測
累積設置量       MW  1,173   1,650  2,528
家庭用電気料金 円/kWh   9.13    9.33    9.39   9.12

なお、家庭用電力料金の?マークは、スペイン、チェコのように交渉中の国、イタリアのように時価に依存する国で、推定もできない国である。

計算に使用した為替レートを記載する。
ユーロ;EUR  117.4 円/EUR   1EUR = 100centEUR
ポンド;GBP  130.6 円/GBP    1pound = 100pence
ドル;USD    81.1 円/USD
コルナ;CZK   24.7 CZK/EUR (チェコ)

データの入手先を記載する。
各国(チェコ除く)のFIT
http://www.scope.de/scope/download/scope_circles/unterlagen/NewEnergy_0610/02EuPD.pdf
チェコFIT
http://www.czrea.org/cs/energetika-a-legislativa-v-cr/vykupni-ceny-eru2011
http://www.exposolar.org/2012/japan/center/contents.asp?idx=426&page=1&search=&searchstring=&news_type=
EU電力料金
http://epp.eurostat.ec.europa.eu/cache/ITY_PUBLIC/8-29062011-BP/EN/8-29062011-BP-EN.PDF
http://www.energy.eu/
米国電力料金
http://www.eia.gov/cneaf/electricity/epm/epm_sum.html
EPIA
http://www.epia.org/
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