4月中旬以降、国会での審議が見られないが、経済産業省から「次世代送配電ネットワーク研究会」の報告があったので紹介する。

 経済産業省と環境省がそれぞれ、地球温暖化対策基本法案の基本計画案を取り纏めている。
4月1日に、環境省は、中長期のロードマップとして小沢環境大臣試案を発表した。
http://www.env.go.jp/council/seisaku_kaigi/epc021.html
概要は
http://www.env.go.jp/council/seisaku_kaigi/epc021/mat01_1.pdf

 小沢試案では、2020年までに、住宅2,440万kW(1,000万戸)、住宅以外2,560万kW、合計5,000万kW(50GW)の太陽光発電(PV)を導入する計画である。
追加投資額は、住宅20.7兆円、住宅以外22.6兆円である。1kW当たりそれぞれ、86.6万円、88.3万円であり、住宅用では2.44kWのシステムに相当する。
前提条件としては、10年で償却できる140万円のシステムを購入出来る条件である。FITの買取価格は、48円/kWhである。

 この金額の妥当性を検証してみよう。現在のPVの設置費用を調べると、3kWシステムが約200万円である。(京セラホームページ)
国からの補助が7万円/kW、自治体で最高の補助を出すところは横浜市で、市が3万円/kW、神奈川県が3.5万円/kWを補助する。
3kWシステムでは、合計40.5万円の補助となり、個人負担は、159.5万円である。

補助無しで、140万円まで下がるとは思わない。ペイバックの計算で示したように、PVは、コストのほとんどを電力費で占め、自己発電で製造電力を返すのに5年以上かかる。
これに、製造に係わる人件費や設置費用を加えるとコスト低減は困難であろう。全く原理の異なるPVが出現すれば別だが。さらに、フィードインタリフによる消費電力の高騰を考慮すれば、製造コストが上昇するであろう。

 1システム140万円ならば、住宅の投資額は14兆円となり、6.7兆円の説明がない。200万円ならば、20.6兆円になるのは理解出来る。 検算してみよう。
1年の償却費は14万円であるから、年間発電量は
140,000円/48円/kWh = 2,917kWh
1日の発電時間を3時間(日本の平均)として発電システムの能力は
2,917/365/3h = 2.7kW
である。2.44kW/システムは、何らかの係数を乗じたものと理解する。

 FITで償却出来るとして、PV5,000万kW(50GW)の2020年までの追加費用は、43.3兆円である。
これを20年(2030年まで)で償却するとしたら平均2.1兆円である。総電力1兆kWhで除すれば、2.1円/kWh(一般家庭630円/月)の電気料金が追加される。

 4月26日に、経済産業省は、「再生可能エネルギーの全量買取に関するプロジェクトチーム」の検討(3月3日)を踏まえ、「次世代送配電ネットワーク研究会」の報告書を発表した。
http://www.meti.go.jp/report/data/g100426aj.html

 この報告の要点は、大量の太陽光発電(PV)を導入し系統に接続すると、PV出力の急変や余剰電力の対策、いわゆる系統安定化対策が必要であるとの研究報告である。
1,000万kW(10GW)までの導入であれば、系統安定化対策は不要だが、10GWを超えると、蓄電池あるいは出力制御(発電を捨てる)の系統安定化対策が必要である。
経済産業省のモデルでは、2,800万kWを上限としている。(3月3日の報告では、1,000万kW、2800万kW、3500万kWのモデルを検討していた。)
出力制御を行うことは、設置者の償却年数が延長されることを意味している。

 2,800万kWの場合、PVで発電した電力を系統側(電力会社)で用意する場合は、NaS電池を使用し、2020年までに16.2兆円、
PVの設置者側で用意する場合は、鉛やリチウムイオンなどの電池を使用するとして、45.9~57.2兆円がかかる。
なお、NaS電池は保温のため、PVの発電量の約1/2を消費する。

方谷先生に学ぶのブログ

方谷先生に学ぶのブログ

 3月3日の報告の3,500万kWの場合、PVで発電した電力を系統側(電力会社)で用意する場合は、NaS電池を使用し、2020年までに24.2兆円、
PVの設置者側で用意する場合は、鉛やリチウムイオンなどの電池を使用するとして、68.7~85.7兆円がかかる。
http://www.meti.go.jp/committee/materials2/data/g100303aj.html

 4月26日の報告では、PVの設置者側で蓄電池を用意するのは、「負担が多いので除外した」と切り捨てている。
2,800万kWの導入量で、系統側に蓄電池を設置する場合、電力料金の追加は3円/kWhと記載している。

方谷先生に学ぶのブログ


 環境省の5,000万kWに換算すると、5.4円/kWh相当である。
FITの2.1円/kWhと合計すると7.5円/kWhの電力料金追加となる。
PVの年間発電量は
 5,000万kW x 365 x 3h = 547億kWh
であり、総発電量1兆kWhの5.5%に過ぎない。

 現政権の太陽光発電の補助政策は、以上のように、調べれば調べるほど理解に苦しむ提案がされている。しかも省庁によって提案が異なる。
 誰も調整しようとは考えていないようだ。理念だけが先走り、経済性や現実性に欠けるように見える。
 小沢試案に至っては、1戸当たり193万円から421万円のリフォーム(高断熱、省エネ機器、PVなど)を要請している。

方谷先生に学ぶのブログ

 私は、エネルギー消費を極少にして、より有意義な金の使い方をしたい。

なお、50GW/10年、年5GWの設置量は、2009年の全世界の需要(6.5GW)の77%に相当する量である。