日経3月21日朝刊の第一面に、農地の「放棄地 価値は5千億円」との記事。
農地面積463万haに対し放棄地が38万haと約8%、2008年の畜産物を除く農業産出額が5兆8千億円であるので、放棄地の価値を面積比率で5千億円とした。
農水省の農林・水産基本データ集
http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/index.html
より、水田は、251.6万ha-作付面積162.4万ha=89.2万haの休耕田+放棄地がある。畑は、211.2万haであるが、全作付面積の集計が合わないので、全放棄地38万haを面積比率で推定すると17万haとなる。
田畑の放棄地と休耕田の合計が約100万haとなる。
これらの遊休農地を利用するため、農水省は飼料米栽培(米穀の新用途への利用の促進)を推進している。
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/keikaku/shiryouyoumai/
上記資料より、飼料米の生産性が確実に見て500kg/10a ( 5ton/ha)であるから、500万ton /年の生産能力になる。平成22年度の予算案では、飼料米の助成金が3.5~8万円/10a(35~80万円/ha)である。全て飼料の作付けを行ったとしたら、3.5~8千億円の助成金になるが、上限2,167億円である。
http://www.maff.go.jp/j/budget/2010_2_2/pdf/h22pr_4-1_2_10_17b.pdf
一方、輸入飼料は、2007年、とうもろこし、こうりゃん、大麦、 小麦合わせて約15百万トン/年、約4千億円/年の輸入である。重量だけで比較すれば、輸入量の約1/3が飼料米に代替できる。平均単価は、27,000円/tonとなる。2008年には4万円/tonを超えている時期があった。詳細は下記。
http://lin.alic.go.jp/alic/statis/dome/data2/nstatis.htm
単価3万円/tonとして、飼料米500万tonの輸入飼料に見合う価格は、1,500億円である。
日経記事の耕作放棄地38万haの場合、飼料米生産はその1/3の500億円に過ぎない。なぜ、その10倍の5千億円となるのか説明がない。
上記、飼料米の助成金の例からも分かるように、日本の農業は、補助金、助成金、カルテルにより保護され、その総額が農業産出額に等しい。2008年予算(2010年予算案)では、農業関係予算2兆円(1.8兆円)、食料安定供給特別会計3.5兆円(3兆円)である。
REITI山下一仁上席研究員(下記ホームページより)
「06年の農業総産出額は8.5兆円である。これはパナソニック1社の売上額約9.1兆円にも及ばない。06年の農業のGDP(国内総生産)は4.7兆円 だ。しかも、関税や価格支持等によって守られたところが大きく、OECDが計測した日本の農業保護額は5兆円弱だ。つまり、農業保護がなければ農業の GDPはゼロとなってしまう。」
日経記事は、これらの補助金を前提としていることを知らせずに単純計算したものである。
さて、放棄地や休耕田の発生についても理解していなければ、「日本の農業の新たな可能性を見いだし、潜在力を掘り起こす」という現実を無視した論説になる。
2005年農林業センサス
http://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/2010/report05_archives.html
による分析が農林金融に掲載されている。
http://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0710re2.pdf
土地持ち非農家の所有者数が農地所有者の約30%、土地面積は約15%になる。農業従事者の高齢化と後継者不在による廃業が主因であるとしている。
私の父母を除く7人の叔父叔母は、全て農家である。その内存命しているのは4名の叔母のみ、後継者すなわち従兄弟が農業を継いだのは3家、それも兼業である。働き手の従兄弟が先に亡くなり、後から叔父叔母が亡くなり、全く働き手がいなくなった家もある。また、農地所有の意識もない従兄弟もいる。
今後、後継者がいなく、老齢でリタイヤする農家が増加、農林金融の分析によれば、2015年には、非農家が165万戸(41%)、その所有面積が116万ha(36%)となる予想である。
「さらに,不在村農地所有者が増加した場合には,森林組合における不在村森林所有者と同様に,農地の所有者を特定することが困難もしくはそのコストが膨大になり,農地の利用集積に関しての調整が難しくなることも考えられる。」
この問題(不在者地主捜索)は、農業に参入した俳優の菅原文太氏のテレビ報道番組で、山梨県と北杜市の協力を得なければ不在地主との契約が困難と報道していた。
休耕田は、米の減反政策であることは言うまでもない。
今、農業政策は、農地の利用を最優先とし、農地法の改正と農地所有権への行政の積極的な働きかけであろう。行政、農業委員会は、不在地主の捕捉と、やる気のある農家および事業体に土地の貸借と所有権移転の斡旋を行うべきである。
農水省の農林・水産基本データ集をみると、2007年農協の正組合員489万人(全組合員943万人)、2008年総農家戸数252万戸、農林金融分析では、2005年農家戸数285万戸、土地持ち非農家120万戸とあり、非農家の農協脱退は少ないと見てよい。
小澤幹事長の戸別所得補償は、農協約千万人、家族を入れると数千万人の票田を欲しいのが動機だが、まもなく起こる農業の崩壊を早めることになる。
より詳しい専門的分析について、RIETIの山下一仁上席研究員のホームページをご覧下さい。
http://www.rieti.go.jp/jp/fellow_act/allcategory_top10_yamashita-kazuhito.html
本日も、一面に「間伐材を売れる木に」を掲載しているが、表面的分析だけで、全体がまるで見えない。
現在の日経の記者が、この程度の知識レベルかと思っていたが、
その先輩の池内正人 元日本経済新聞経済部長(現 テレビ東京副社長)が2009年8月7日のアラタニスで「休耕田を原発に変えよう」と太陽光発電の設置を提案していた。全く無知蒙昧を世にさらしているようなものである。
記者の皆さんには、大先輩の司馬先生の爪の垢でも煎じて飲んでいただきたい。
農地面積463万haに対し放棄地が38万haと約8%、2008年の畜産物を除く農業産出額が5兆8千億円であるので、放棄地の価値を面積比率で5千億円とした。
農水省の農林・水産基本データ集
http://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/index.html
より、水田は、251.6万ha-作付面積162.4万ha=89.2万haの休耕田+放棄地がある。畑は、211.2万haであるが、全作付面積の集計が合わないので、全放棄地38万haを面積比率で推定すると17万haとなる。
田畑の放棄地と休耕田の合計が約100万haとなる。
これらの遊休農地を利用するため、農水省は飼料米栽培(米穀の新用途への利用の促進)を推進している。
http://www.maff.go.jp/j/soushoku/keikaku/shiryouyoumai/
上記資料より、飼料米の生産性が確実に見て500kg/10a ( 5ton/ha)であるから、500万ton /年の生産能力になる。平成22年度の予算案では、飼料米の助成金が3.5~8万円/10a(35~80万円/ha)である。全て飼料の作付けを行ったとしたら、3.5~8千億円の助成金になるが、上限2,167億円である。
http://www.maff.go.jp/j/budget/2010_2_2/pdf/h22pr_4-1_2_10_17b.pdf
一方、輸入飼料は、2007年、とうもろこし、こうりゃん、大麦、 小麦合わせて約15百万トン/年、約4千億円/年の輸入である。重量だけで比較すれば、輸入量の約1/3が飼料米に代替できる。平均単価は、27,000円/tonとなる。2008年には4万円/tonを超えている時期があった。詳細は下記。
http://lin.alic.go.jp/alic/statis/dome/data2/nstatis.htm
単価3万円/tonとして、飼料米500万tonの輸入飼料に見合う価格は、1,500億円である。
日経記事の耕作放棄地38万haの場合、飼料米生産はその1/3の500億円に過ぎない。なぜ、その10倍の5千億円となるのか説明がない。
上記、飼料米の助成金の例からも分かるように、日本の農業は、補助金、助成金、カルテルにより保護され、その総額が農業産出額に等しい。2008年予算(2010年予算案)では、農業関係予算2兆円(1.8兆円)、食料安定供給特別会計3.5兆円(3兆円)である。
REITI山下一仁上席研究員(下記ホームページより)
「06年の農業総産出額は8.5兆円である。これはパナソニック1社の売上額約9.1兆円にも及ばない。06年の農業のGDP(国内総生産)は4.7兆円 だ。しかも、関税や価格支持等によって守られたところが大きく、OECDが計測した日本の農業保護額は5兆円弱だ。つまり、農業保護がなければ農業の GDPはゼロとなってしまう。」
日経記事は、これらの補助金を前提としていることを知らせずに単純計算したものである。
さて、放棄地や休耕田の発生についても理解していなければ、「日本の農業の新たな可能性を見いだし、潜在力を掘り起こす」という現実を無視した論説になる。
2005年農林業センサス
http://www.maff.go.jp/j/tokei/census/afc/2010/report05_archives.html
による分析が農林金融に掲載されている。
http://www.nochuri.co.jp/report/pdf/n0710re2.pdf
土地持ち非農家の所有者数が農地所有者の約30%、土地面積は約15%になる。農業従事者の高齢化と後継者不在による廃業が主因であるとしている。
私の父母を除く7人の叔父叔母は、全て農家である。その内存命しているのは4名の叔母のみ、後継者すなわち従兄弟が農業を継いだのは3家、それも兼業である。働き手の従兄弟が先に亡くなり、後から叔父叔母が亡くなり、全く働き手がいなくなった家もある。また、農地所有の意識もない従兄弟もいる。
今後、後継者がいなく、老齢でリタイヤする農家が増加、農林金融の分析によれば、2015年には、非農家が165万戸(41%)、その所有面積が116万ha(36%)となる予想である。
「さらに,不在村農地所有者が増加した場合には,森林組合における不在村森林所有者と同様に,農地の所有者を特定することが困難もしくはそのコストが膨大になり,農地の利用集積に関しての調整が難しくなることも考えられる。」
この問題(不在者地主捜索)は、農業に参入した俳優の菅原文太氏のテレビ報道番組で、山梨県と北杜市の協力を得なければ不在地主との契約が困難と報道していた。
休耕田は、米の減反政策であることは言うまでもない。
今、農業政策は、農地の利用を最優先とし、農地法の改正と農地所有権への行政の積極的な働きかけであろう。行政、農業委員会は、不在地主の捕捉と、やる気のある農家および事業体に土地の貸借と所有権移転の斡旋を行うべきである。
農水省の農林・水産基本データ集をみると、2007年農協の正組合員489万人(全組合員943万人)、2008年総農家戸数252万戸、農林金融分析では、2005年農家戸数285万戸、土地持ち非農家120万戸とあり、非農家の農協脱退は少ないと見てよい。
小澤幹事長の戸別所得補償は、農協約千万人、家族を入れると数千万人の票田を欲しいのが動機だが、まもなく起こる農業の崩壊を早めることになる。
より詳しい専門的分析について、RIETIの山下一仁上席研究員のホームページをご覧下さい。
http://www.rieti.go.jp/jp/fellow_act/allcategory_top10_yamashita-kazuhito.html
本日も、一面に「間伐材を売れる木に」を掲載しているが、表面的分析だけで、全体がまるで見えない。
現在の日経の記者が、この程度の知識レベルかと思っていたが、
その先輩の池内正人 元日本経済新聞経済部長(現 テレビ東京副社長)が2009年8月7日のアラタニスで「休耕田を原発に変えよう」と太陽光発電の設置を提案していた。全く無知蒙昧を世にさらしているようなものである。
記者の皆さんには、大先輩の司馬先生の爪の垢でも煎じて飲んでいただきたい。