太陽光発電システムを製造する際の使用エネルギーを試算してみよう。
太陽光発電システムを製造するために使用したエネルギーを自己の発電により何年で返せるか、これをエネルギーペイバックタイム(EPT)と言う。PVの材料の94%以上は、結晶系、薄膜系を含めて、シリコンである。

「ポリシリコンの製造プロセス」

産総研太陽光発電センターホームページより
http://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/types/groups.html

オーストラリア国立大学(ANU)より
http://solar.anu.edu.au/pubs/2008/Overview%20of%20Photovoltaics%202008.pdf


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 材料のシリコン(珪素)は、固体としては最も多い元素である。半導体やPVで使われるシリコンは、半導体で11-nine、PVでは6-nine以上の純度が要求される。11-nineは、99.9・・・の9が11個列ぶ純度である。この純度のシリコンを作る工程とPVのウェハーまで作る工程は、上記ANUの資料とドイツのフラウンホファー研究所の下記資料に示されている。
http://www.energyvcfair.com/download_05/Gerhard_Willeke_Vol1.pdf

2004年ドイツでの再生可能エネルギー法の改正以前、PVに使用されるシリコンは、半導体向けの規格外品や、リサイクルのシリコンを利用していた。そのため、材料のコストは安価であった。ドイツの急激なシリコン需要を満たすため、世界で数社しかないポリシリコンメーカーおよび新規参入組がポリシリコンの増産に走った。2005年当時全世界で3万トンの能力しかないシリコンメーカが、2009年10万トンを超えた。(需要は6万トン)
http://www.semiconwest.org/cms/groups/public/documents/web_content/ctr_030778.pdf
(Hemlockは世界最大のシリコンメーカーであり、ダウコーニングと信越化学と三菱マテリアルの合弁会社である。)

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シリコンのコストはただ同然の珪素(シリカ)を金属シリコンに還元、ガス化して精製する工程、それを還元して固体にする工程、さらに、結晶化(単結晶、多結晶)にし、インゴットを作る工程、ほとんどのコストは、電力である。

最後にウェハーにする時、単結晶ではトップ・テールの除去と角切り、多結晶では、坩堝付近と上層部の不純物を除くため、約50%を切り捨てる。(それまで費やした電力を50%捨てる。)さらに、ワイヤーソーでシリコンをスライスする。

0.2mmの厚みのウェハーを作るとき、ほぼそれと等しい幅が除去される。すなわちカーフロスが50%である。インゴットからの材料取りは約25%となり、75%の電力が捨てられる。

簡単な計算をして見よう、
各種の文献があるが、概略次のようなエネルギーを使ってインゴットにする。
 金属シリコン還元       25kWh/kg
 ガス化蒸溜法(シーメンス法) 200kWh/kg

 単結晶(チョクラルスキー法) 100kWh/kg
 多結晶(キャスト法)      30kWh/kg

単結晶の場合、合計325kWh/kgとなる。多結晶は255kWh/kg。
155mm角 x 0.2mmの多結晶ウェハーの表面積は0.024m2であり、体積4.8cm3(質量11.2g)である。ウェハー一枚当たりの製作電力量は、255kWh/kg /0.25 x 11.2/1000 = 11.4kWhとなる。モジュールにしてからの発電効率を13.5%とする。(PVメーカー性能表より)
日本の平均日照量を1342kWh/m2/年として、このウェハーの発電量は
 0.024m2 x 0.135 x 1342kWh/m2/年= 4.34kWh/年 
EPTは、 
 11.4kWh / 4.34 kWh/年=2.63年   
このペイバックタイムは、ウェハー一枚のセルを作る前までの計算であって、このあとセルを作る工程、モジュールの材料を加えるとさらに延びる。

この数字の付近のペイバックタイム(EPT)が、産総研の下記資料の引用文献[8][9]のAlsema等の報告である。
http://unit.aist.go.jp/rcpv/ci/about_pv/e_source/PV-energypayback.html

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PETに関する表現で注意を要するのが、平均日射量である。
Alesema等は、
 スペインなど南欧では 1700kWh/m2/year
 ドイツなど中欧では  1000kWh/m2/year
 mc-Si 2.3~5.5年と言うようにPETの記載に幅を持たせているのは、日射量の違いである。(mc ;多結晶)
Nedo報告(日本)
 文献2(2001年)では  1427kWh/m2/year
 文献11(2008年)では 1342kWh/m2/year
となっており、上記産総研資料のグラフを見る場合、注意が必要。 南欧(スペイン)でEPTが3年とすれば、ドイツでは 3 x 1700/1000 = 5.1年、日本では 3 x 1700/1342 = 3.8年である。

「産総研資料の読み方」

グラフの上方の技術開発済みのEPTが短く見えるが、これらのPVはまだ実現していない。

[2] NEDO報告書 太陽光発電評価の調査研究、2001年、報告書No. 010019372 (2000年当時の最新技術(SOG-Si)に基づく予測)
[3]山田興一、小宮山宏、太陽光発電工学、 2002年
この二つの資料の前提は、1990年代に研究された原料のシリカ(珪素)の純度を上げた後、エネルギー消費の少ない「直接還元法」でSOGシリコンにする方法を前提としている。

[2] NEDO報告書と同時期に、川鉄(現JFE)を中心に、冶金法による研究も行われた。
2006年、JFEは年100トン、新日鐵は年500トンの冶金法のプラントを建設すると発表したが、その後の情報は聞かない。
国内2社が、ガス化蒸溜法と亜鉛還元法の組合せのプラントを建設、昨年より出荷開始したと思われる。

不純物を取り除くには、ガス化蒸溜法が有効であり、直接還元法や冶金法では困難であると思われる。
いずれにしても、世界のメジャーは、ガス化蒸溜法で、桁違いの増産を行っている。これらの材料を使ってPVを生産している。

現状のEPTは、Alsema等のレポート(Photovoltaic Alsemaでググれば多くの文献が検索できる)の範囲と考えて良い。
[11] みずほ情報総研、太陽光発電システムのライフサイクル評価に関する調査研究、2008年、NEDO報告書は、リサイクルを含めたEPTを計算しているが、これもまだ実現していない。

NEDO資料のダウンロードが登録制のため、リンクをしていません。報告書をご覧いただくには、各自登録してダウンロードして下さい。

次回は、まとめ。