村上春樹について 2 | 公式ブログ - 作家のひとりごと -

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STUDIO VERKの作曲家が綴る随筆的ブログ

こんにちは。森元です。

前回の続きを書こうかなと。

 

前回僕が書いたのは、村上春樹には、他の小説家とは違う点がいくつかあって、やはりそれは普通の小説と比べて特殊である。

ただ、それが故に強烈に惹きつけられる人(ハルキストというらしい)もいる。

そしてその「強烈に惹きつけられる」ということについては物語性や文学性がキーワードなのではないか、というようなことを書きました。

 

そこに繋がるかわかりませんが、まぁ、頑張って繋げるんですけど、個人的な小説の捉え方についてまず書いみたいと思います。

 

 

まず、リアリズムの話。

 

小説には大きく分けて二種類があります。

フィクションとノンフィクション。

もちろんハイブリッド(司馬遼太郎とか)もありますが、上二つがあってこそのハイブリッドなので、大別するとフィクションとノンフィクションでいいと思います。

 

そこで大きく小説家の技術が問われるのは、フィクションの場合であれば「その世界がまるで現実にあるかのように文章で表現する」という事、ノンフィクションであれば「実際に起こった出来事を、できるだけ忠実に文章で再現する」ということにあるかと思います。

どちらの場合も、「まるで目の前にそれがあるかのように」書けるかどうか、これが小説家の腕の見せ所なわけですね(これが「リアリズム」ということでいいと思います)。

 

そこでややこしいのは、ノンフィクションはどこまでいってもノンフィクションなのですが、フィクションの場合舞台がアンリアルワールドのフィクション(スターウォーズとか、ロードオブザリングとか)と、リアルワールドのフィクション(東野圭吾とか、伊坂幸太郎とか)があり、それぞれリアリズムの内容が少し違うということです。

 

 

前者の場合、世界がアンリアルなので基本的には「何でもあり」、初期設定は自由なのですが(宇宙船同士の戦いとか、巨人が壁を壊してやってくるとか)、その分細かい世界設定を丁寧に作り込まないと、リアリズムが生まれない。読者が入り込めないわけです。

 

小説ではないですが、宮崎駿監督の映画。

例えば「ハウルの動く城」でいうと、実際に映画には出てこない城の内部なんかも非常に細かく設定がなされているそうです。

アンリアルワールドの場合は、それくらいしないとリアリズムが生まれてこないのですね。

実際には出てこないけれども、画面のどこからか滲み出る世界観の作り込みを僕たちは感じ取って、そこにリアリズムを感じるわけです。

 

だから、どちらかというとアンリアルワールドの小説はCG映画向きなのですね。

基本的にはCGを駆使すればするほど、リアリズムが増すわけです。

 

 

後者の場合は、世界が現実なので、「何でもあり」というわけにはいきません。

 

家には正面に玄関があって、いくつかの部屋がある。

人間は四足歩行で、大体の人は昼に動いて夜にはベッドか布団の上で眠る。

こういう無数の現実世界を現実世界たらしめるファクターが絡まり合っているので、それを壊すような設定は、読者が小説に入り込むための障害になってしまうわけです。

例えば、「ふと街を歩いていると首が5メートルの生物が歩いていた」というのはアンリアルワールドでのリアリズムを壊すことはない(むしろ増幅させるかもしれない)ですが、リアルワールドだと「いやいやいやちょっと待って今の何?」と読者が思ってしまうわけですね。

 

ただ、これは裏を返せば「わざわざ細かい世界の設定を作り込まなくてもいい」ということになります。

いちいち「街には家があって、それぞれの家には「玄関」という出入り口がついていて…」という説明をする必要がない。

だから、登場人物の個性や思考などの描写にウェイトを置けるわけですが、どちらも「リアリズムの追求」という面でいうと、目指しているところは同じかと思います。

 

 

以上、少しリアリズムの話をしましたが、僕はこのリアリズムこそが「その小説を面白いと感じるかどうか」の条件として、まず第一に挙げられるべきファクターだと思っています。

最低限のリテラシーを備えた大人がいう「あれは面白かった」というのは、僕の経験上、ほとんどの場合このリアリズムがキチンと作り込まれているのかどうかに左右されている、というように思います。

 

 

また、リアリズムの他にもう一つの大きな要素はとして、単純に「ストーリー」があります。

ただこれは、ものすごーく好みが分かれるところなので、一般論として書き出すことはできないんじゃないかなと思います。

大どんでん返しが好きな人もいますし、ハッピーエンドが嫌いな人もいるでしょう。

ただし、これも作品が「面白い」となるためには、上記のリアリズムを壊さないことが条件になるかと思います。

 

 

で。

 

今まで長々と書いた要素を期待して、普通小説は読まれます。そしてこういう要素を判断基準として読むと、村上春樹の小説は絶望的に「おもしろくない」という感想になると思います。

 

 

なぜか。

 

 

…次までに考えときます(おい)