ホームレスキーパー日記№10 こちらのつづきです


びっくりしちゃった。

夕方、事務所の近所をフラフラ散歩していたら、あのホームレスのテルちゃんが、路上をチョコチョコ歩いているではありませんか。

最初は幻かと思いました。最近、パソコンの見過ぎで飛蚊症とか、ひどいし。


…いや、まちがいねえ、世の中でこんなちっせえ背で(138㎝)あんな大荷物しょって歩く熟女はテルちゃんくらいだ。


「ホームレスさんの記事が、楽しみでした…。いなくなって残念です」と言ってくださった読者さんも、何人かいました。切ない日々を過ごしていましたが、やっと、再会できました。 


私が、2年半前の冬に、拾ってしまったホーム(レス)キーパーさんとの微妙な生活。なれそめはこちらです。


でも、彼女は1年半前から、行方不明だったのです。


「どこにおったんじゃあー」と叫びたいのをこらえ、「テルちゃん……」と、ウィスパーボイスで、ささやいてみました。びっくりして逃げられたら困ります。なんだか、野良ジュウシマツをつかまえる気分です。

なのに。

「あらっ。さや香さん!?イヤダ~」


昭和の女子高生みたいな顔で、頬をおさえて立ち止まった彼女。
私が見たことのない、ピンクのTシャツにチノパンをはいて、すごく血色のいい肌をしていました。相変わらず、スーパーのビニル袋にシャベルなどを詰めたホームレスセットを持っていましたけども。


あれえ、うちに居た時よりいいものを食べていそうな? という戸惑いとともに、
「元気?今なにしてるの?食べてるの?どこで寝てるの?」……じわ~と涙腺がゆるみました。


そしたら、テル子ったら、何と言ったと思って?


「さや香さん、相変わらずサングラスなんかして、かっこいいわね。うふふ」

はあ??

「私なら、元気よー。じつは、フリーマーケットのお店の見張り番で、週に2千円は稼げるようになったの。フリマの店主と、専属契約を結んでいるの」


それは、一種の、就職 ?

ツッコミどころが満載すぎて、何も言えません。


「でも、やっぱりお金が足りないし、また週1で雇ってほしいなーと思って、最近、さや香さんの事務所の近くをウロウロしてたの。
でも、急に私からいなくなった手前、電話やなんかは、できなかったの。私、自分のこととなると自信がないのよぅ」



_| ̄|○ カック~~ン




なんだそれ

なんだそれ
なんだそれ


この1年半、テルちゃんが路上で倒れているシーンばかり想像し、公園に行くたびブルーテントをのぞき、彼女を保護しきれなかった自分の狭量を悔やみ、「私なんか偽善者だ、ばかばかばか」と自分の頭をぶった。そんな日々は。


このお気楽ホームレスちゃんが・・・


急いで彼女を捕獲しようとしましたが、

「ウ~ン、これから、渋谷のねぐらに帰ろうと思ってたの。。でも、そっちが望むなら、すぐに行ってもいいけど…」

と、終電まぎわの、OLみたいな顔で見上げたテル子の瞳には、やっぱり、おもねるような、怯えの色があったので、ひとまず、リリースすることにしました。

ねぐらって、どこ?
と、思いつつ。

もう以前みたいに、強制はしたくないんです。うちで雇っている最中に、どこかの路上でヘバっても知らないよ。そのくらいのじゃないと、「自主的ホームレス」という職種の人とは付き合えない。やっと学習しました。


近いうちに電話をくれるって言ったので。待ってます。

No.11に続く