プラトンによれば、個々のものには、そのあるべき姿を現す理想的なイデアが存在する。
プラトンは、人間の魂はかつてイデア界に住んでいたため、この世でイデアを模倣した物事を見るたびにイデア界を思い出すと説いた。
イデアに憧れ、永遠のイデアを求めようとする欲求はエロスと呼ばれる。
エロスとは、本来はギリシャ神話に登場する恋を司る神であるが、プラトンはイデアを求める魂の欲求をそのように呼んだ。
理想の恋人の姿を追い求める恋のように、哲学はエロスの欲求に促されて、より良いものがより美しいものを探し、永遠の善や美のイデアを求めていく。
エロスが求める永遠不滅のイデアが、全ての物事の尺度であり、人間の生き方の倫理的な模範である。
このようにプラント哲学は物事のあるべき姿であるイデアを求める理想主義の立場をとった。
そこには、イデアを基準にして現実の人間や国家を批判し、より完全なものへと近づけようとする、プラトンの実践的な意欲がうかがえる。
プラトンは人間の魂を理性・意思・欲望と言う3つの部分に分け、魂の理想的なあり方を考えた。
魂の三つの部分が知恵・勇気・節制という徳をそなえ、それぞれの仕事を果たして、魂が全体として調和のとれた正しい秩序を保つとき、正義の徳が生まれる。
理性を中心にした秩序正しい魂からは正しい行為が生まれる。
これに対して、魂の三つの部分の関係が逆転して、理性が統率力をうしない、意思が弱体化して、欲望がわがもの顔に振る舞って、魂を支配する無秩序な状態が不正である。
このように、魂の主体を理性に置くところには、人間は理性的動物であると言う古代ギリシャの人間観がうかがえる。
プラトンが説いた、知恵・勇気・節制・正義の4つの徳を古代ギリシャの四元徳とした。
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