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赤い文化住宅の初子

ちょっと泣きそうになりました。
タナダユキ脚本・監督『赤い文化住宅の初子』



父は借金を残して失踪、母は過労死、兄はそんな現実にいつも怒りをかんじている、そんな現実を生きる中学三年生初子が、高校進学を諦めたり、初恋をしたりして、新たな一歩を踏み出すまでを描いた作品です。

とにかくストーリーが力強かったです。
貧乏話にありがちな、不自然な程の善人や美化された友情なんてものは出てきません。
そもそも、この作品の出発点が「アンチ赤毛のアン」というテーゼにあります。

初子と兄は苦しい生活を送っているのですが、それがあくまで淡々と描かれています。
僕は「淡々映画」が大好物なので、始まってすぐに、「あぁ、これは好きな作品だな」と感じました。
過剰な演出が省かれているからこそ、そこに生きる登場人物の内なる葛藤や感情の起伏が鮮明に伝わってくる気がきます。

途中何度も、初子が可哀想で切ない気持ちになるのですが、初子の初恋の相手(そして彼氏になる)の三島君(佐野和真)の優しさのおかげでほっとします。

この三島君というのが若いのになかなか気概のある男で、最後まで初子の事を思い続けます。
僕はずっと『ジョゼと虎と魚達』の様にヒロインが捨てられてしまうと思っていたので、いつそれが起こるのかずっとハラハラしていたのですが、いい意味で裏切られました。

そして、兄役の塩谷瞬が素晴らしい演技をしていました。
現実に怒りを感じていて、初子にも厳しく接するけど、実は妹思いのところも滲み出ていて非常に味のある演技でした。
また、初子役の東亜優(どこまでが苗字なんだろう・・)も、前半から中盤にかけては、台詞も少なく、どちらかといえば表情での演技が多かったのですが、後半失踪した父が帰ってきた場面で、兄をかばって叫んだり、かなしくて泣いたりする場面では心を打たれました。

若い世代にきちっと演技ができる役者が育っていて素晴らしいことだと思います。

監督のタナダユキですが、要チェキラですね。
はっきりって、「画を撮る」才能はそんなにないと思うのですが、物語を通して一定のテンションを保つ、全体の構成をバランス良く整える、といった「映画を作る」ことにとても秀でていると感じました。
とても丁寧で真面目な人柄なのではないかと思います。

例えば、フランシス・コッポラなんかの方が良い画は撮れると思うのですが、やっぱり映画は五分のミュージック・クリップとは違うのですから、芸術的才能だけではなく、建設的、数学的な構成力も多分に必要なのでしょう。

残酷で、可哀想で、とてもリアルな青春物語なのですが、最後の一シーンのおかげで、観後感が驚くほど爽やかな気持ちになりました。うん、観て良かった!と素直に言える秀作です。☆4つ!

☆☆☆☆★