toriatamaさんのブログ

【北京】人民元の急上昇を受け、中国政府が米政府の批判をかわそうとしているとの観測が一段と広まった。ただ、為替相場管理に対する中国のアプローチは、逆に米政府の怒りの火に油を注ぎかねない。

 ドルに対する元の上昇は16日で5営業日連続。同日の上海市場の終値は1ドル=6.7248元と、終値としては1994年に取引が始まって以来の最高値となった。中国人民銀行(中央銀行)の設定する中間値が最高値を更新したことが背景。中間値は10日から連日高値を更新している。人民元の対ドル相場の過去2週間の上昇率は過去1年の上昇率を上回り、政府が6月19日に為替レート弾力化を発表して以来の上昇率は1.5%に達した。
 人民銀行のアドバイザーを務めた経験を持つ著名中国人エコノミスト、樊綱氏は「人民元が上昇軌道にあるのは間違いない」と述べた。

 市場観測筋の大半は、元の上昇が15、16日に米議会で開かれた中国の為替政策に関する公聴会の前に始まったのは偶然ではないとみている。これまで中国は、政治的に微妙な時期に、人民元過小評価への米国の懸念に対応するそぶりを示しつつ、為替政策に外部要因が影響していることを否定するパターンを繰り返してきた。

 16日には、ガイトナー米財務長官が議会公聴会で証言し、中国の為替政策に対する懸念を表明。人民元の上昇ペースが「遅すぎる」と述べた。ただし同時に、米国法に基づいて中国を正式に「為替操作国」に分類することにオバマ政権が相変わらず消極的だと示唆している。

 1週間で1%という急激な上昇で、中国が為替相場を細かく管理できることが浮き彫りになった。まさにこうした管理のおかげで中国が不当な輸出競争力を得ているとみる米議員は多い。しかし、議員の要求に比べると今般の変動率はかなり小さい。議員の多くは、人民元が20%ないしそれ以上の過小評価だと考えている。

 キャピタル・エコノミクス(ロンドン)のマーク・ウィリアムズ氏は「両国間の貿易不均衡が拡大し、米国の失業率は相変わらず非常に高いため、中国が米国をなだめるのに必要な動きの量を判断し間違う危険が高まっている」と指摘。「政治的な展開それ自体が勢いを得る可能性は十分にある」と述べた。

 中国の外務省は16日に米政府の批判に反論し、米国の対中貿易赤字や高失業率は元の上昇では解決できないとあらためて強調した。圧力を強めても米中貿易問題は改善せず、「むしろ逆効果になりかねない」と、同省の姜瑜副報道局長は定例会見でけん制している。

 人民銀行は難しいバランスを求められている。日々の中間値は、自国経済に有利なだけでなく、為替市場の投資家に適切なシグナルを送り、しかも貿易に関する米欧の政治的反感を抑えるような数字に設定しなくてはならない。


人民元中間値(1ドル当たり)
 6月19日に為替レート柔軟化を発表して以来、中国は以上3つのうち1つ目と2つ目を優先しており、海外の批判を抑える取り組みはほとんどしていないようだ。

 人民銀行の当局者は、為替市場の投資による投機的な資本流入の急増は望ましくないとの考えをはっきり示している。人民銀行は、特に2007、08年に元が対ドルで急上昇した時など、こうした流入に手を焼いた経験を持ち、当局者は再発すれば経済が不安定化しかねないと恐れている。

 6月以来の遅々とした上昇と、人民元の(大幅な)上昇の可能性を否定する政府の度重なるコメントによって、こうした投機はおおむね回避できているようだ。ここ数カ月で元の大幅上昇を見込んだ投資をやめた投資家は多い。オフショアのデリバティブ市場は、6月には12カ月で2.7%の上昇を織り込んでいたが、現在織り込んでいるのは1%前後の上昇だ。

 大幅な為替相場の変動はないとの公式見解は変わっていない。人民銀行の金融政策委員会の李稻葵委員は15日、天津で開かれた世界経済フォーラムで、中国の貿易黒字が既に08年を大幅に下回っているため、「元は大きく変動する状況にないと思う」と述べた。

 人民元が、少なくとも日々のベースでは、上向き一方向ではないと市場を説得させることで、将来的に人民銀行が元を動かす余地が拡大するかもしれない。国内経済の状態も当局の自信を深める可能性がある。

 中国の成長は数カ月の減速を経て安定したもようだ。8月の製造業指数は上向き、建設業は好調が続く。不動産価格抑制に向け政府が4月に講じた措置が、建設の急減速につながるとの懸念は現実になっていない。

 政府系シンクタンク、中国社会科学院の劉玉慧氏は「景気抑制に向けた中国政府の措置は、予想ほどの減速をもたらさなかった」ため、再び上昇圧力が高まっていると述べた。

 しかし、カリフォルニア大学の胡永泰教授によると、為替政策も含め、中国あるいは米国の経済政策は両国の貿易不均衡改善の即効薬になりそうにない。そのため、貿易をめぐる政治的緊張にはいずれ政治的解決が必要になるかもしれない。同教授は15日に北京のフォーラムで、「ともに貿易摩擦の緩和に努めることは米中にとって重要だ」と述べた。

 日本が15日に6年半ぶりの円売り介入に踏み切ったことで、中国に対する米政府のいらだちが増幅したようだ。一方、中国の当局者は日本の動きにコメントしておらず、中国のエコノミストは自国に大きな影響はないと語っている。

 中国は、米国の政策がドルにどんな影響を及ぼすかに関して独自の見解を持っている。運用資産3000億ドルの政府系ファンド(SWF)、中国投資有限責任公司(CIC)の楼継偉・董事長(会長)は今月刊行の論文集で、ドル安の恐れのある金融緩和政策を米国が続ければ中国が資産をドルから分散する可能性があると書いている。

 論文集には15日の北京のフォーラムに出席した外国人エコノミストの文書も掲載されている。楼氏が執筆した時期は不明だが、少なくとも数週間、おそらく数カ月前のようだ。つまり、今週の米議会公聴会を意識したものではないとみられる。フォーラム開催を手伝った中国の当局者によると、楼氏がエッセイを提出したのは3週間前だ。文中の「最近」は昨年12月の米国の発表を指している。

 CICのスポークスマンのコメントは得られていない。

 中国の当局者たちがそれまでにしたのと同様、楼氏は米国が金融緩和政策を長期にわたって続け、「ドルを下落するに任せる」のなら、中国がリスク低減のために取りうる措置として、「ドル建て以外の資産への外貨準備分散」もあると書いている。詳細は明らかにしていない。