<はじめに>
こちらはお友だちの作家様が妄想されたお話の、シン君編です。
お友だちのお話がとても素敵で、「シン君バージョンを妄想して」と有り難いことに言って頂いたので妄想させていただきました。
作家様のお話は↓こちらです。
こちらはお友だちの作家様が妄想されたお話の、シン君編です。
お友だちのお話がとても素敵で、「シン君バージョンを妄想して」と有り難いことに言って頂いたので妄想させていただきました。
作家様のお話は↓こちらです。
-ちゅっ
頬と唇の境に小さく落とされた彼女からの口づけ。
突然のことに反応できない僕を残して、妻である彼女は『残念だったねぇ』と部屋を出ていった。
本を閉じ、そっと彼女の唇が触れた場所に、左の人差し指と中指でそっと触れる。
ほんの一瞬だったのに、彼女の柔らかく温かな唇の感触はまだ残る。
ソファから立ち上がると、僕は彼女が消えたドアに向かって歩き出した。
「お姉さん、花瓶持ってきてくれた?」
彼女の部屋に向かうとこちらに背を向けて、テーブルの上に何かを広げている姿が目に入る。
僕の足音を内人らの足音に間違えたのか、振り返りもせずにそう尋ねてきた。
無言のまま足を進めると、「お姉さん?」とチェギョンが振り返った。
「びっくりした、シン君だったんだ。お姉さんかと思った。」
そう笑ってテーブルの上に広げた花を手に取るその瞬間。
僕はある場所をめがけてそっと口づけを落とした。
-ちゅっ
驚いたような彼女の横顔に、為て遣ったりという思いを抱きゆっくりと顔を離した僕は彼女の反応を待つ。
「…シ、シン君?」
残された僕と同じように、口づけを落とした唇と頬の境に指をあてて、大きな瞳で僕を見つめた。
「あーぁ、残念だったな、ちゃんと僕を見てくれたら、ちゃんとしてやれたのに。」
両手をポケットに入れながら、そうため息交じりにそう告げると、チェギョンに背を向けて歩き始めた。
その時。
グイッ…
不意に強い力で右腕を掴まれる。
その瞬間、彼女に見えない場所にある僕の口元が僅かに上がった。
待ってましたと振り返るのは、僕のプライドが許さない。
だから彼女が出るのを、背中に全神経を集中させて待つ。
「あ…あのね、シン君。」
「…どうした?花を活けるんだろう?邪魔はしない。」
そう言って取られた手から腕を引き抜こうと、恰好だけはして見せる。
そうすると彼女の手に一層籠もる力。
「ちゃ…ちゃんとしてほしいな。」
チェギョンの口からこぼれたその言葉に。
嬉しい気持ちと恥ずかしい気持ちと、そして彼女を思い切りいだきしめたい気持ちが一瞬にして胸を占領する。
それでも僕はポーカーフェイスを装ってチェギョンを振り返る。
顔を赤く染め、思い切り視線を逸らせた彼女の姿が愛らしく、その表情を保つのに苦労する。
「なんだ?」
「ちゃんと…してほしい…の。」
「え?…なにを?」
僕はどこまで意地悪なんだろうか。
真っ赤な顔をして睨みあげるそんな表情までも愛しくて抱きしめたくて仕方がないのに。
「シン君に、キスをちゃんとしてほしいのっ!」
やけくそ気味のようなその言い方に。
睨みあげてそう言い放った瞬間、恥ずかしさで泣いてしまいそうなその横顔に。
僕は思わず笑みを漏らす。
「…シン君のっ、…意地悪。」
そう僕は意地悪だ。
大好きな君のその想いを確かめたくて、つい意地悪をしてしまう。
でも、それに君はちゃんと応えてくれるから。
両掌でそっと頬を包み込むと、尖らせていた唇と睨みあげていた瞳が力を失い、僕だけを迎え入れるいつものチェギョンの表情へと変わる。
そんな変化が嬉しくて、そっと微笑むとそれに応えるようにチェギョンも笑った。
その笑みをゆっくりと消すと。
僕は彼女に、唇が触れるだけのキスをひとつ、落とした。
~終わり~